前回の記事「人類最大の敵(?)=不確実性が無限大のコロナ危機」で経済学者のフランク・ハインマン・ナイトが唱えたリスクと不確実性の話を取りあげました。いまのコロナ危機は統計やそれによって算出される確率が通用しない予測不能なものでした。予め確率計算できるような事態はリスクとナイトは位置付けますが、コロナ危機のようなものは不確実性であると説明します。

 

不確実性は非常に厄介で難しいものです。すべての人が営む日々の行動や決定は将来の予想や期待に左右されるのですが、不確実性という事態はその予想や期待が極めて不透明になります。この不確実性によって人々や企業は思い切った行動や事業拡大をしづらくなります。マクロ経済的にみたとき、企業の投資行動や一般の人々の消費行動が萎縮してしまえば経済活動が麻痺しかねません。雇用萎縮や賃金分配も進まなくなるでしょう。政府・日銀が何も手を打たなければひどい流動性の罠に陥る危険性が高まります。

米FRB議長だったアラン・グリーンスパンは「不確実性、とくにナイトの不確実性に直面すると、人間はいついかなる時でも、中長期的な資産から安全で流動的なものへのもちかえを図るもの」と発言したことがあります。
 

しかしながらナイトの不確実性という概念は元々こうしたネガティヴな意味合いだけではなかったようです。むしろ起業家たちにとってのチャンスという見方すらしていたようです。月並みな言い方ですが「ピンチはチャンス」ということをナイトは伝えたかったのではないでしょうか?

 

もともとナイトは完全な市場競争化の下でどうして利潤というものが発生するのか?ということについて研究をしていました。およその予想あるいは期待ができてしまう、確率分布が計算できてしまうような世界においては多くのプレイヤーが参画する市場競争によって儲けが出るか出ないかのギリギリの水準で商品価格の相場が決まってしまいます。市場原理とは「やすい・はやい・うまい」を追求する競争だといっていいでしょう。当然利潤はペラペラになります。

下の動画で上念司氏は保険商品やラーメンという商品でそのことを説明しています。保険商品はたいがいどこの保険会社でも保険料や給付水準が同じ水準に落ち着き、ラーメンの場合も一杯1000円までというかたちで相場が決まってきます。これでは大した利潤が生まれません。

 

 

ところががっつり稼いでいる起業家たちがいます。そういう人はなぜ稼げるのかというと人々が売れるという予想を立てられないような不確実性の高い分野に挑んで大きな利潤を獲得しまっているからです。ナイトは利潤について起業家たちが不確実性に挑んだ報酬だと結論づけました。

 

よくたまに大ヒットした商品が商品企画者や経営者たちの勘で生み出されていたりします。社内などで「そんなものが売れるわけがない」と猛反対を受けたような企画がいざ通ってみると予想以上に爆発的な売れ行きを見せたなどということがあったりするでしょう。こういう例がポジティヴな意味での不確実性です。

 

自分で商売をやっていた人がいて、自分は少しの間だけその方の下で仕事を請け負っていたり商品を企画していたことがありますが、彼は「儲かるものをつくりなさい」と常々言っていました。私に対しても「それはいくら儲かるのだ?」などということを言ってきます。この方の商売のやり方を見ていると他が儲けていそうなものに似たものを安く造って売ればいいという発想でした。こんな調子ですから利益がペラペラで、こちらなんかも時給換算したら200円とか300円みたいなことになっていたのです。あまりに馬鹿げているのでこの方から離れましたが、「儲かったもの」ばかり作ろうとしていたら利益が出るわけがありません。

 

結局誰もが「儲かるかどうかわからない」という不確実性の中から「儲かるもの」をいちばんで掘り当てて、その市場を一気に独占してしまい、他の会社が参入する余地がない状態にしないと利益なんか出ないのです。特に日本はデフレが続いています。多くのプレイヤーが参入して市場競争が働くと「やすい・はやい・うまい」を徹底的に追及せざるえなくなります。「いちばん先にやる」「業界でナンバー1になる」 これができている人が稼げる人なのです。

 

いまのコロナ危機によって世の中全体が不確実性に包まれてしまいました。今まで通用していたビジネスモデルが崩壊してしまって、その復活が望めないものが多くあることでしょう。しかしながら裏を返せば新しい需要やこれまで考えられなかったビジネスモデルが生まれる可能性も出てきました。

 

「自分はいちばんの起業家になれない」と思われる人が多いでしょうが、起業をしないまでも新たなチャンスが多くの人に生まれることも考えられます。従来にない新たな企業が生まれ、そこで働くという選択肢が出てくるからです。今回のコロナ感染拡大期において会社に出社するのではなく、自宅でリモートワークするといった動きが多く見られましたが、今後その延長線で新たな働き方や就労形態が生まれる可能性があります。例えば自宅でひきこもりになっていたような人でも事業に参加できるようになるといったことです。

 

今回のコロナショックで大打撃を受けた観光・宿泊業界ですが、先日abemaTVで橋下徹氏が出演するNewsBARに星野リゾートの星野佳路代表がゲストとして招かれていました。

 

NewsBAR橋下 #72 ゲストに星野リゾートの星野佳路代表を迎えてアフターコロナの観光業を考える!

 

 

星野代表は大阪の新今宮に星野リゾートを建設するという話を打ち出します。大阪で今宮といえばかなり日雇い労働者やホームレスが溢れかえって暴動まで起きるという危なくてエグい街だという印象を持たれており、こんな土地にリゾートホテル?などと思われがちでしたが、星野代表は関空アクセスが良好で通天閣をはじめ、天王寺動物園や阿倍野など大阪らしい観光スポットが近接していて、都市観光ホテルとして非常によい立地だと言います。大阪府知事や大阪市長を務めていた橋下氏は市がもてあましてあの土地をよく利用してくれたものだと驚いていました。橋下氏は「大阪に住んでいる人間だと気がつかなかった」と感心していました。

 

あとインバウンド観光客の急減で多くの旅館や観光業が倒産・廃業に追い込まれているとニュースで報じられていますが、星野代表はもともと日本の観光業はインバウンド需要に依存する割合が少なかったと仰います。今後は国内の近距離観光が狙いどころだという目されているようです。

 

とにかく星野代表は不確実性に挑んでいるという感じがしますねえ。冷静に状況を分析しつつ凡人では思いもつかないようなところに目を付け、そこに進出していく。さすがといったところです。

 

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