コロナウィルスショックによって世界中で生産活動や流通が停まったり寸断されたり、感染防止の外出や渡航の自粛等で需要が激しく落ち込むなど、大きな経済混乱が発生しています。イタリアに至っては日用必需品を扱う業種を除いてレストランなどが一斉に休業させられている有様です。日本でもかなり多くの企業が操業停止や急激な売り上げ減で収入が激減しているにも関わらず、人件費や賃料、光熱費などの固定費の支出を余儀なくされ、資金繰りに悩まされています。銀行などへの融資返済もできなくなります。

 

私は経済活動を生命活動と同じだと捉えています。心臓が停止してしまうとわずか数分で死に至ります。企業などもそうです。資金という血液が途絶えるとたちまち黒字企業でさえ、あっという間に倒産します。

 

非常時に経済活動の血液である資金が民間企業に行き渡らないということが起きないようにするためにせねばならないのは金融緩和政策です。アメリカのFRBをはじめ、EUの金融政策を司る欧州中央銀行(ECB)など、世界中の中央銀行が一斉に金利引き下げや中銀が市中の債券を買い取って現金化し、民間銀行が融資に遣う準備預金の積み増しを行う量的金融緩和の拡大・再開を行っています。このようにして民間銀行による民間企業等への融資が滞ったり、資金づまりで金利負担が苦しくなってしまうことを防いでいるのです。あと世界中の中央銀行が量的金融緩和拡大に踏み切るということは世界中でマネーの量が増えることになります。当然日本だけ日銀が量的金融緩和をサボるとたちまち円高となり、業績不振で倒産する企業が出てくるでしょう。そういう意味でも足並みを揃えて一斉に金融緩和の推進をしないといけないのです。

 

前回「株価下落で日銀の財務は悪化するのか?」という記事を書きました。これは日銀が先日行ったETF(株価連動型上場信託投資)の買い増しを妨害するかのように、「株価値下がりで日銀が保有するETFの資産価値に含み損が発生した」と騒ぐ人たちが多くいたので批判したものです。こういう人たちはさらに「ETF買い増しで株価を吊り上げてアベノミクスの失敗を取り繕うとしている」とか「日銀はETFの含み損を減らすためにまたETFを買って株価を吊り上げようとしている」などというデマを飛ばします。こういう人たちは金融政策の意味を全然理解していません。

 

日銀がETFなどを買い取って値崩れしている株価の再上昇を計ろうとするのは、民間企業の資産を守るためです。株価下落で民間企業が保有する株式などの金融資産も含み損を抱え、バランスシートを崩します。日銀の含み損よりも大きな問題です。なぜ日銀のバランスシートの心配ばかりして、いま苦境に陥っている民間企業のバランスシートの毀損を気にしないのでしょうか?私には理解できません。日銀の場合は最悪通貨発行益で含み損の穴埋めができますが、企業の場合は経営破綻となります。

 

1990年代の日本に遡って話をしましょう。

1980年代に膨張した株式や不動産等の資産バブルが崩壊してしまい、その値崩れが発生します。バブル当時は「億ション」といわれるような超高額マンションが建てられたり、反社会勢力が土地転がしをするために強引に立ち退きを迫る地上げ屋が現れたりしました。(伊丹十三監督の「マルサの女」にも出てきます) 

1990年代初頭に「バブル退治の鬼平」と言われた三重野康日銀総裁が前任の澄田智総裁とは打って変わって金利の大幅引き上げを行い、左派界隈をはじめとする一部で喝采を浴びたものです。三重野総裁は「自分は株なんかやらない」「庶民が家を建てられないのはいけない」と公言していたのですが、株価や不動産価値の急落や彼の行った金利引き上げが地獄の一丁目だったのです。

 

かなり前に「デフレと失われた20年」編のひとつとして書いた記事「”平成の鬼平”が引き金となった失われた20年」の焼き直しみたいになりますが、資産バブル崩壊によって多くの民間企業や銀行が保有する株式や不動産資産に巨額の含み損が発生し、膨大な負債だけが遺ってしまって不良債権が発生してしまいます。これによって多くの民間企業や銀行の財務が悪化し、その穴埋めのために民間企業はリストラと称して研究開発費や設備投資だけではなく人件費の圧縮まで行います。銀行側も多くの負債を抱え、経営危機に陥り、これまでイケイケだった融資態度を一変させ、民間企業等への貸し渋りや貸し剥がしをはじめます。日本全国あちこちの企業が資金難に喘ぐ羽目になり、投資や事業の縮小をせざるえなくなりました。投資の縮小は当然のことながら人への投資である雇用も縮小します。当時の新卒求人学生らは就職難に追い込まれ、”ロスジェネ”と呼ばれるようになりました。

 

こうした現象を経済学者のリチャード・クー氏は「バランスシート不況」と名付けています。

 

 

私も三重野康同様に株式投資などはやっていませんが、経済を扱う上で株価を無視することはできません。株価はのちの雇用に直結しています。「働く人たち・一般庶民のための経済学」を謳うエコノミストならばよりいっそう株価を気にするべきです。自らリスクを覚悟して資金を投じ、雇用を生み出している実業家たちを蔑ろにしてはいけません。彼らは自分自身が儲けているだけではなく、多くの人々に雇用というかたちで所得分配も行っています。多くのモノやサービスという財を生み、わたしたちの暮らしを豊かにしてきました。私は社会主義者ではありません。

 

金融は市場という戦場で闘う民間企業という兵士たちに物資等を補給する兵站(ロジスティクス)と同じです。資金繰り悪化で民間企業が倒れないように政府・中銀は必死に金融政策で後方支援をするわけです。

 

アメリカの中銀FRBのパウエル総裁はトランプ大統領から散々消極的な金融政策態度を批判されてきましたが、今回はやる気をみせてくれたようです。トランプ大統領も満足そうですw

 

FRB議長「試練乗り切るまでゼロ金利維持」 会見要旨 日経新聞

 

ECBのラガルト総裁も積極緩和を進めています。

ECB理事会後のラガルド総裁発言要旨 - ロイターニュース - 経済 ...

 

*2020/3/22追記

コロナショックの影響による株価や為替相場は現在急落したり急騰したりを繰り返しています。米ドルの現金需要が増して、円や日本国債が売られるといった動きまで出ています。

このような異常時には金融政策による急激な株価・為替変動への防戦も限定的なものになることは承知しておいてください。

 

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