コロナウィルスショックの影響で世界中の市場で株価が暴落しています。当然日本も同様です。そんな中で日銀がこれまで異次元緩和の一環で買い取ってきた金融商品ETF(Exchange Traded Funds~株価指数連動型上場信託投資~)の含み損が発生、にも関わらず日銀は株価の暴落を抑えるためにまたETFを買い増ししているということで騒いでいる人たちがいます。先日3月10日に開かれた参議院財政金融委員会でも、大塚耕平委員(立憲・国民、新緑風会・社民)が行った質問に対し日銀の黒田総裁は保有ETFの時価が簿価を下回る「損益分岐点」が日経平均株価で1万9500円程度になっている可能性があると答弁しました。

 

ロイター記事「保有ETFの損益分岐点、1万9500円程度の可能性=黒田日銀総裁

 

日経平均の株価が黒田総裁が答えた損益分岐点以下に下がってしまい、「日銀は巨額の含み損を抱えてしまったー」「日銀の財務健全性が悪化したー」「日銀は懲りずにETFの買い増しで株価を吊り上げて必死に損失を補おうとしている」などというネット上の書き込みをいくつも見ています。

 

しかし冷静に考えてみてください。日銀はどこからお金を引っ張ってETFを買い取っているのでしょうか?税金から?違いますよね。私たちが遣っている通貨=日本銀行券を発行した通貨発行益でETFを買っています。つまりは日銀がお金を刷って買っているのです。高橋洋一さんが「チラシの裏に1億円と書いてそれで株1億円を買ったら、その株がパーになっても損はしない。だから、紙代を無視すれば日銀の保有資産の損益分岐点は0円。こんな単純な話を日銀OBと日銀総裁は目眩している」とツイッターでツイートしました。

 

経済学者の田中秀臣さんは大塚議員の質問はETF買い入れ増へのけん制の意図や悪意を感じるとツイートされています。

 

いま「株価暴落で日銀のETF含み益ガー」と言っている人たちはアベノミクスがはじまってから金融緩和政策を妨害し続けてきた金融機関系御用学者や左派界隈です。左派だけではなく自称・保守とか自由主義者、ドケンジアンと呼ばれる(土木建設公共事業を中心とする)財政偏重主義者やMMTerまで加わっています。金融政策と企業の投資・事業拡大意欲そして雇用との関係がまるで理解できていない人たちです。(自分は彼らを民の自立的な経済活動を阻害する全部官僚主義者や国家社会主義者だと思っています。)

 

高橋洋一さんがツイートされたようにこうした雑音は「チラシの裏に1億円と書いて株を買ったようなもの」で一蹴できることですし、高橋・田中両先生共々「答えるのもバカバカしい」といった感想をお持ちのようですが、自分がネットを観察してみるとかなり広範囲に菌が蔓延しているようなのでもう少し詳しくこの件について書いておきます。

 

その前にETFがどんな金融商品なのか?日銀がETFを買う意味について説明してあるマンガがありましたので紹介しておきます。

 

 シンプレクス マンガでわかるETF 第9回 日銀とETF

 

ETFという金融商品はいくつかの会社の株を組み合わせた投資信託の一種です。わかりやすくいえばそれぞれ違うメーカーがつくった何種類かのお菓子を袋詰めにしたパック菓子みたいなものでしょう。どの社の株を組み合わせるかを決め、株の取引きや運用するのは買い手である投資家ではなく運用会社に信託されます。この商品ひとつで日経平均の全銘柄の株を買えてしまうと思っていいでしょう。マンガにも描かれているように日銀が証券会社に莫大なマネーを積みETFの買い注文をつけると、証券会社は必死にあちこちの株を買い集めます。日銀が大量にETFを買っていることで「日銀が日本一の株主になって、実質的に社会主義国家になってしまう」などと言っている人がいますが、直接日銀が民間企業の株を買っているのではないので、株主議決権はありません。ETFですと株主ではない政府や日銀が民間企業の経営に口を挟むということはできないので「実質的に社会主義国家」という言い方は妥当といえないでしょう。

 

日銀が買ったETFの含み損?について話を戻しますと、これで騒いでいる人はかなり視野狭窄でしかも目の前で起きていることでしか判断できない人です。いま株価が連続的に下落していますが、このままずっと永久に株価が下がり続けるの?といった観点の他に、日銀が持っている資産がETFだけなの?という視点を持つことも大事です。まず前者についてですが、今回のコロナショックの株価下落は急性的・劇症的なものです。この先長期不況が進み、株価低迷傾向が慢性化する可能性があるのですが、この点を含めても今後金融財政政策をフルに活用して民間の経済力を再活性化させることで問題解決が可能です。田中秀臣さんが自分のツイートをRTされたときに補足で「そもそも日銀がインフレ目標2%を実現すれば、株の含み損がどうしたこうしたという議論も大塚耕平的視点(旧日銀史観?)に立っても問題ではないです」と仰っていました。ETFの含み益・含み損がどうしたこうしたという話はある程度長いスパンでみないといけないことですし、現在の含み損のことよりも後の経済成長のことを心配すべきなのです。

 

 

今回と似た騒ぎは以前にもあって当時の株下落によって年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が株式に運用した年金の積立金が5兆円消えたと民進党をはじめとする左派系政党が「年金運用『5兆円』損失追及チーム」を立ち上げて安倍政権に噛みつこうとしました。しかしながら安倍総理は 「(民主党政権下であった)平成21年9月までの累積収益額は、事実だから申し上げておきたいと思います。累積収益額は4.1兆円だったはずでありますが、それ以降の累積収益は、今回のマイナスを含めても33兆円プラスになっているということであります。」と斬り返しました。安倍総理は昨年にも「大切な積立金。これ株価が上がったことによって、7,000円ちょっとから現在の株価になったことによって、いま積立金は44兆円に増えました。これ民主党政権時代の10倍ですね。」と強調していました。いつもピンポイントで攻めることしかできないパヨク政党らしいマヌケさですが、今回もその蒸し返しに過ぎません。

 

今回の株暴落で日銀が保有するETFの資産価値が目減りしてしまっていることは間違いないでしょうが、日銀が買い取ってきた資産はETFだけではありません。それよりもはるかに多くの国債という資産を買い取っています。日銀のETF保有額はおよそ30兆円であるのに対し、国債の保有額は約500兆円です。ETFの含み損と国債の含み益で相殺されてしまうことも念頭に入れておかねばなりません。

 

しかしながらそれより以前に日銀が株価下落を食い止めるためにETFを買い増ししたりしているのは日銀自身の含み損のことより、民間企業が保有する株式資産の含み損を大きくしたくないという目的でやっているのではないでしょうか。今回のコロナショックで収益が急減し大手・中小を問わず多くの民間企業が資金繰り悪化しています。ここへ自社保有の資産価値が暴落してしまうと大変なことになってしまいます。また改めて述べたいですが、バブル景気崩壊後に起きたバランスシート不況の再来となりかねません。(バランスシート不況についての解説

 

ここ最近何度も申し上げてきましたが、いまは日銀の財務状況や国家財政の悪化や破綻を心配するよりも、民間企業の財務を心配すべきではないでしょうか。コロナショックで会社や店が潰れてしまっては、感染が収束した後にも経済苦境という後遺症に悩まされ、政府側も税収落ち込みや歳出増加で財政再建がより難しくなってしまうでしょう。問題解決の優先順位を間違えてはいけません。

 

最後に浜田宏一教授の緊急提言記事をリンクさせていただきます。

ダイヤモンドオンライン

 株価下落を止めるには”政策総動員”が必要」浜田宏一氏・緊急インタビュー

 

 

*2020/3/22追記

コロナショックの影響による株価や為替相場は現在急落したり急騰したりを繰り返しています。米ドルの現金需要が増して、円や日本国債が売られるといった動きまで出ています。

このような異常時には金融政策による急激な株価・為替変動への防戦も限定的なものになることは承知しておいてください。

 

~お知らせ~

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」