かけ算教育の「守破離」(全3回の3回目) | メタメタの日

  (1)文科省は順序固執派になったのか

  (2)アレイ図は、導入段階では不可

  (3)私案・かけ算教育の「守破離」(今回)

 

   (3)私案・かけ算教育の「守破離」

 

 私が考えるかけ算教育の「守破離」は以下のようになる。

 

 「守」の段階:導入段階。

同数量の集まりが複数ある図を示し、その2数から総数量を求める計算がかけ算であり、式は、1つ分の数×いくつ分=総数量 と書くと教える。

 長さ5cmのテープを3枚並べるように、1つ分が個数でなく連続量の場合の図も示す。

 いくつ分を「倍」と言うことも示す。

 式と対応させて各段の九九を暗唱することになるが、例えば3の段の九九、

  3×1=3  三一が3

  3×2=6  三二が6

  3×3=9  三三が9

       :

  3×8=24  三八24

  3×9=27  三九27

の式の意味は、×の前(左)が被乗数(1つ分の数)、後(右)が乗数(いくつ分の数)であることを、図で確認する。(被乗数が個物で、乗数が1ずつ増えていく図は、アレイ図っぽくなる。)

 九九と式は、5の段、2の段、3の段、4の段の順序で進める。(5と2の段は逆も可)

 

 「破」の段階:交換法則の確認

アレイ図はここで登場する。

九九の暗唱が4の段に進んだところで、4×3のアレイ図を示し、この図は3×4と解することもできることを確認する。つまり、交換法則4×3=3×4「かけ算では被乗数と乗数を逆にしても答は同じになる」ことを確認する。

 十数年前ぐらいまでは、交換法則を教わった(あるいは自分で気が付いた)子供は、「かけ算では式の順序は気にしなくてもいいんだ」と理解していたと思うが、最近の教科書は、「4×3=3×4の左辺も右辺も「被乗数×乗数」の順序なんだよ、かけ算の式には順序があるんだよ」と順序を強調する教え方になっている。「数学的」には、それが本来の交換法則の理解のようである。

 「破」の段階では、まだ「1つ分×いくつ分」の束縛は解けていないが、いわゆる引っかけ問題(問題文の中で「いくつ分の数」を先に出すとか、2個ずつ3枚の皿の図と3個ずつ2枚の皿の図のどちらが3×2の式か、とか)は出す必要がない。出さない方が良いのではなく出すべきではないと思う。1つ分といくつ分の解釈が交換可能なことがあるし、かけ算の理解の最終到達点はそこではないのだから。

また、テープの長さのように連続量が被乗数の場合は、アレイ図にはならないが、こういう場合(4cm×3枚と3cm×4枚では状況が違うこと)を教える必要もないだろう。

九九の暗唱は、6の段、7の段、8の段、9の段、1の段の順序で進める。

 

 「離」の段階:被乗数×乗数=乗数×被乗数の確認

 1の段から9の段までの九九の表全体から、かけ算のきまりをいろいろ見つける。

 実社会では、個数×単価(いくつ分×1つ分)で総額を求めることがあること、世界には、乗数×被乗数で式を書く国があることなどを確認し、被乗数(1つ分)と乗数(いくつ分)の順序にはこだわらなくてよいことを確認する。 

 被乗数(1つ分)と乗数(いくつ分)の考え方(概念)そのものも意味がなくなる数学の世界があることまで「離」を進める必要は小学生にはない。少なくともかけ算を初めて教わる小学2年生には全くよけいな話である。

 

 

 以上が、私の考えるかけ算教育の「守破離」だが、私は塾で小4以上に算数を教えた経験はあるが、それ以下の生徒に、ましてかけ算を最初から教えたことなどないので(小学入学前から小6までの学年別計算ドリル本を作ったことはあるが)、小学校の先生からのご意見・ご批判をいただければ、とてもうれしい。

上の「私案」が小学校で実際に教えられていることと大きく違うのは、「離」の段階で、被乗数(1つ分)と乗数(いくつ分)の順序にはこだわらなくてよいことをはっきりと教科書に明示して教えることと、したがって、その前の段階でも「引っかけ問題」を出してかけ算の順序にこだわることをやめることである。

被乗数と乗数の順序を気にしないことは、大人は当たり前のことと思っているが(だから、小学校での「順序こだわり教育」を知るとびっくりするのだが)、それは、学校で明示的に教わらなくても、小学校高学年、中学、高校、社会と進む中で、誰も(学校の先生も)かけ算の順序など気にしなくなるし、かけ算の交換法則とはそういうことだと思うからだろう。私もそうだった。だから、かけ算の交換法則とは、被乗数×乗数の数字を交換することであって、被乗数×乗数の順序は変らないのだと知ったときは驚いた。確かに小学校の教科書には昔からそう書いてあった(文言は「かけられる数×かける数」。決して「かける数×かけられる数」とは、どこにもない!)から、私も最初はそう教わったのだろうが。

 

 「離」の中身が現行とは異なるし、引っかけ問題で×を付けることも、引っかけ問題を出すこと自体に反対なのだが、現行のかけ算の教え方の大枠には反対ではない。

現在は小学2年の2学期に学習することになっている。例えば東京書籍の教科書での年間指導計画案では、10月中旬から12月中旬の2ヶ月がかけ算に与えられている。

https://ten.tokyo-shoseki.co.jp/ten_download/dlf76/emcz2562.pdf

 わずか2ヶ月の間に、初めてかけ算を知った上に九九を言えるようになるのだから、大変と言えば大変だし、「私案」では、初め「1つ分×いくつ分」と書くことを教わっても、2か月後には、こだわらなくてもよいと、正に「守」から「離」に進むことになるのだけど、それができる子どもという人間の可能性にこれからも期待していくことになるのだろう。