かけ算の記号として「×」を使用し,「3×5」というような式を書くことは,イギリスのオートレッド(Wiiliam Oughtred)の1631年の本“Clavis mathematicae”(『数学の鍵』)に始まるようです。(小倉金之助補訳『カジョリ初等数学史』219,336頁,片野善一郎『数学用語と記号ものがたり』19頁)
この本の実物がGoogleで見ることができます。
確かに,55頁には,三角形の辺の長さについて,
BC^2+BD^2=DC^2+2BD×BA
という式に「×」記号が使われています。
12頁には,4×7,4×9という式が見られます。
しかし,これは,7:9という比の各項を4倍すると,28:36という比になるということを表しているようです。(原文がラテン語のようで,読みとれませんが。)
ということは,かけ算の式の初出は,「被乗数×乗数」の順序ではなく,「乗数×被乗数」の順序ということになりそうです。
しかし,その後,19世紀の欧米では,かけ算の式は,「被乗数×乗数」の順序で理解することが主流になったようで,
3×5=15の式は,“3 multiplied by 5 is 15”と読んでいた。
しかし,20世紀以降の現在の英語では,「乗数×被乗数」の順序で理解されて,
3×5=15の式は,“3 times 5 is 15”と読むことは,かけ算の式の順序を議論するときには,共有すべき前提になっているでしょう。
この両方の読み方が,オートレッドの別の本(“Mathematicall recreations”1653年)に存在していました。
53頁には“this(13) multiplied by 5 makes 65”,
92頁に,“5 times 5 makes 25”“27 it makes 3 times 9”という表現があります。
被乗数,乗数の区別は,昔から交換可能だったようです。