おかしな「行列のニュートン算」 | メタメタの日

mixiで次のような中学入試問題の質問があった。

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ある動物園が9時に開園する。
開園以前のある時刻から、入場者がある一定の割合で来園してきて、行列をつくる。
9時になり、入園口を3つあけると、15分で行列が無くなった。
また、別の日に、9時になり、入園口を6つあけると、5分で行列が無くなった。
入場者が来園してくる最初の時刻は、何時ですか?

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http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=21627899&comment_count=113&comm_id=63370  103番発言


 いわゆるニュートン算の問題だが、ニュートン算など知らない一般の人が見たら、間違いなく頓挫する問題だろう。それは、一般の人がトロイのではなく、この問題の方(というか、この問題を作った人の方)がトロイのである。


 受験算数の問題にはイロイロな「お約束」がある。それらの約束で成り立っているのが、受験算数の世界であり、その約束を知らない人には、受験算数の問題はほとんど解けない。受験生が過去問を勉強する必要があるというのは、この受験算数世界独特の「お約束」を知る必要があるいう要素が大だろう。

 この問題で言うなら、ニュートン算で使われる「行列」の意味が、日常使われる「行列」と意味が違うことを知らないと、無駄にエネルギーを使うことになる。

「行列ができている」「行列が無くなった」と、日常普通に使うときの意味と、ニュートン算で使うときとでは意味が違う。

普通は、窓口に人が1人いて手続きをしているだけのときは、行列ができているとは言わない。手続きをしている人の後ろに1人以上の人が並んでいるときに、「行列が並んでいる」と言う。だから、窓口で1人だけ手続きをしていて行列が並んでいなくても、自分が後ろに並ぶと行列が出来てしまうことになるけれど。

ところが、受験算数では、窓口に誰もいない状態を「行列が無い」「行列が無くなった」と「お約束」するのだ。そうしないと問題が解けない、というか、無駄に煩瑣になる。

行列の問題は、本当は、水槽に水を出し入れする問題にした方が良い。つまり、行列(人数)という分離量の問題ではなく、水量という連続量の問題にした方が、問題が不自然ではなくなる。水槽が空になったとき(水量ゼロ)に当たるのが、行列が無くなったとき(人数ゼロ)だから、窓口に人が1人だけいるときも「行列がある」と約束することになる。

しかし、それが受験算数における行列の言葉の「お約束」つまり定義だとすると、常に行列が無い状態は開店休業状態になってしまうし、一度「行列が無くなった」としても、だれか人が来れば、そのときに行列はできてしまうことになり、「行列が無くなった」状態が常に続くことにはならない。これが、水槽の場合なら、一度空になったら、水槽は空であり続ける。上から給水された水は、溜まらずに下から排水されてしまう(これも「厳格に」考えると、給水口の真下に排水口が開いていてほしいが)。しかし、窓口では手続きが時間がかかる。もしかからないという条件設定なら、行列は瞬間に消滅してしまう。人数は連続量ではなく分離量だから・・・。


以上は、窓口が一つの場合の話しだったが、窓口が複数あるときは、人が誰もいない窓口が1つはある状態、つまり新しく来た人が待たずにすぐ手続きが始められる状態を「行列が無い」と言うことにしたら、日常での言葉の使い方と受験算数での意味が違わない。(ただ、日常では、どの窓口にも1人だけいるときも、「行列は無い、だけど自分がどこかに並ぶと行列ができてしまうな」と思うだろうが)

と、ここまでは、上記の問題以外でも、行列が出てくるニュートン算の問題一般に通ずる問題だったが、この問題には、それ以外に、重大な問題(欠陥)がある。


 問題文に「ある時刻」「最初の時刻」とか「9時」「15分」という言葉があるので、時間を「点時刻」で計る連続量として考えてしまう。少なくとも私はそう考えてしまったが、これが「しまった」話しだったのだ。

この問題の「分」という時間単位は分離量で考えるもので、人が入場口に並ぶのは1分のうちのどの時点なのかとか、手続きにかかる時間は何秒なのかなどと「分」をさらに分割して考える必要がない問題として処理すべきものだった。


(*註  時間の流れは連続量ですが、人類は、日と日より大きな月、年、世紀などは、1から数える分離量として扱っていた。日より小さな時間、分、秒が、0から計る連続量となっている。しかし、この問題の「分」は分離量扱いであった。問題文が問うている「最初の時刻」などという連続量を思わせる表現は紛らわしいとしか言えない。)


 つまり、この問題は、時間を分離量として考えれば良い(単位となっている時間をそれ以上分割して考えなくて良い)ことがはっきりするようにし、かつ、出量の方の数値も示すと、次の問題と同じように考える問題だったのだった。


「庭に柿の木があります。ある日から毎日一定の数ずつ柿が実ります。10月1日から、子供が3人、1人2個ずつが食べると、10月15日に柿の実がなくなりました。子供6人で食べると10月5日に柿の実がなくなりました。柿に実が実り始めたのは、10月1日の何日前ですか。」


これなら、分離量の問題でも、時間も分離量で一貫されていることが分かるから紛らわしくない。ただ、1日に柿が実ってから子供が食べる、子供が食べてからその日の柿が実るわけではないことは書かれていないが、分かってもらえるはずの前提ではある。

そして、こう解く。

子供3人が15日間に食べた柿の数は、3×2×15=90個。

子供6人が5日間に食べた柿の数は、 6×2×5=60個。

90-60=30個の差は、15-5=10日間に実った柿の数。だから、柿は、毎日30÷10=3個、実る。

15日間に実った柿は、3×15=45個。

90-45=45個が10月1日の前日までに実っていた柿の数。

(上の2行は、5日間に実った柿は、3×5=15個。60-15=45個が10月1日の前日までに実っていた柿の数。とやっても同じ。)

45個の柿が実るのに必要な日数は、45÷3=15日。   答 15日前


最初の問題では、「子供が1日に食べる柿の数」にあたる「入園口を1分間に通過する人の数」が示されていないので、普通はこれを「①人」とか置いて解くが、そうすると途中で小数が出てきたりして、不自然になるので、ウラワザとして、「入園口を1分間に通過する人の数」を、実数の「2人」と置いてしまうと、柿の実の問題とまったく同じように解ける。