×を+より先にする理由 | メタメタの日

 mixiの「数学コミュ」に「×を+より先にする理由」というトピが立った。

http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=29894026&comment_count=63&comm_id=63370

 

 数学的にはどちらでもいいはずで、深い理由はないと思っていたら、思わぬ展開になった。

ときおちゃん【カブ】さん」の発言に大いに啓蒙され刺激された。遠山啓、ヘーゲルの引用も出てきて、世の中に数少ない同好の友を見出した思いがする。


 以下、議論をまとめたものです。


(1) 1+2×3 という式で、乗除先行であるべきか、加減先行であるべきかについては、数学的には、どちらでも問題はない。

 乗除先行のルールのときに、加減を先に計算したければ、(1+2)×3 とすればよいし、

 加減先行のルールのときに、乗除を先に計算したければ、1+(2×3) とすればよい。


(2)しかし、計算の優先順が、累乗→乗除→加減となったことには、以下のような論理的理由がある。

(2-1)数字の表記法が、そもそもこの優先順になっていること。

326という数字の3は300を、2は20を、6は6をあらしている。つまり、326は、300+20+6の加法が略されたものである。次に、300は3×100を、20は2×10を、6は6×1をあらわしている。つまり、300、20、6という数字は乗法が略されたものである。次に、100は10^2をあらわしている。つまり、100という数字は累乗が略されたものである。(累乗のところは、漢数字の方が納得できそう。百は十の二乗の省略形、億は十の八乗の省略形)

つまり、326という数字は、先ず累乗を計算し、次に掛け算を計算し、最後に足し算を計算した結果をあらわしている。 

だから、326+74×5 という式にあらわされる数字が乗除先行のルールで表記されているのだから、式全体にも乗除先行のルールを適用した方が、論理的であり、整合がとれている。


(2-2)掛け算が足し算の簡便形であること。

 掛け算は、同数の足し算の繰り返しをまとめたものが始まりと考えられる。

 つまり、1+2+2+2=1+(2+2+2)=1+(2×3)

(*註。数学の記法では、3A=3×A=A+A+A だから、2+2+2=3×2 の方が論理的で整合がとれている(欧米語ではそう)が、日本語の言い方では、2+2+2は、2の3倍、つまり 2×3 とするので、それにならう。)

 つまり、掛け算と足し算の混ざった式(1+2×3)において、掛け算の部分は、足し算の繰り返しをまとめたところと考えれば、その部分を先に計算すべきことになる。


(3)歴史的には、+の記号の初出は、1486年または1489年のドイツの本で、このときは超過を表す記号であった。足し算を表す記号としての+の初出は、1514年のオランダの本。

 掛け算を表す×の初出は、1631年のイギリスの本ということです。

足し算も掛け算も、記号ができるまでは、ことば(文字)であらわしていたわけです。

×の記号が使われるほうが歴史的に後だということは、χ^3+2χ^2 というように、文字式の表記法と同じように×記号を省略していたわけです。つまり、掛け算部分を先に計算しているわけです。(この項、片野善一郎『数学用語記号ものがたり』(裳華房、2003年)参照)

現実の社会生活で、乗除と加減の計算が使われる場面を考えると、乗除で計算した結果を加減している方が多い。(単価×個数で小計を出してから、足し算で総計を出すとか) 現実生活で登場する数量のほとんどは単位付きだから、先ず乗除で単位を確定させてから、同じ単位の数量について加減の計算をしているからだろう。

乗除による結びつきの方が加減による結びつきより強いから、乗除先行というルールは、合理的であるといえる。


と、まぁ、以上のように中仕切りしてみました。この先、さらなる展開があるなら、想定外の素晴らしい展開になるでしょう。

最後に、あらためて、ときおちゃん【カブ】さん、みょーさん、平泉さん、そして、トピを立てたLLLさんはじめ、多くの皆さんに感謝です。