若いころ、ヴィム・ヴェンダース監督の「パリ、テキサス」を観て、当時ほとんど知らなかったライ・クーダーに興味を持った。

今回の映画もなんせルー・リードの曲名が題名なんだもの。使われている曲も目当てに劇場鑑賞。

ネタバレですが、ばれても映画鑑賞には問題のない内容だからお許しを。

 

アニマルズとか、キンクス、もちろんルー・リード、パティ・スミス・・・と、60年、70年代の曲のカセットテープを車で聴きながら出勤するトイレ清掃員の平山。

朝目覚めて布団をたたみ、着替えて出勤する。

その淡々とした暮らしぶりが、システマティックで、ある意味茶道的であるなあ、などと感じながら、だんだんと平山の人となりが解ってくる。

必要最小限のものしかない暮らし。

しかし彼は仕事の合間に街路樹の向こうに見える空を見つめ、木漏れ日の写真を撮り、神社の御神木のひこばえを頂いて育てたりする。

休みの日も淡々と手際よく時間を消化していく平山。

ちゃらんぽらんだけど憎めない同僚タカシやその彼女アヤ、銭湯で一緒になるじいさんたち、カメラ屋の店主、食堂のおやじさん、古本屋の主人、小料理屋のママ、踊るホームレス、ほとんど会話もないが、毎日のルーティンが一定の親しさを生んでいる。

平山は孤独を享受するが人嫌いではない。

 

そんな平山の姪、ニコが家出をして平山を訪ねてきて、平山の生活に変化が生ずる。

ニコやその母(平山の妹)の話から、平山が厳格な父の期待に応えられず、家を出たらしいことが分かってくる。

妹は運転手付きの外車に乗って娘を迎えに来るくらいだから、おそらく同族経営の有名企業の2代目か3代目を引き継いでいるのだろう。

姪が平山の蔵書からパトリシア・ハイスミスの「11の物語」を選んで読み、そのなかの「すっぽん」が良い、と呟く。

「すっぽん」は支配的な母親による虐待とその逆襲の悲劇を描いた短編で、ニコの鬱憤と、家への責任から逃れた伯父に対してなんとなく憧憬を抱いていることが示唆される。

淡い好意を持っているらしい小料理屋のママ、その元夫とのつかの間の交流を経て、また仕事の日々となるのだけれど、出勤の車を運転しながら、穏やかに笑っているうちに涙ぐんでくる平山の、心の動きを演ずる役所広司が素晴らしい。

 

なぜかわからないけれど「神は細部に宿り給う」と言う言葉を思い出しました。

それから、平山が毎晩眠りにつくまで読書を楽しむのですが、寝落ちしそうになるのを幾度かこらえるシーンがあって、「読書で寝落ちの心地よさって、分かるわあ」と共感しまくりでした。

 

★★★★☆

 

監督
ビム・ベンダース
脚本
ビム・ベンダース  高崎卓馬
製作
柳井康治
エグゼクティブプロデューサー
役所広司
プロデュース
ビム・ベンダース 高崎卓馬 國枝礼子 ケイコ・オリビア・トミナガ 矢花宏太 大桑仁 小林祐介
撮影
フランツ・ラスティグ
美術
桑島十和子

キャスト
役所広司   平山正木
柄本時生   タカシ
アオイヤマダ アヤ
中野有紗   ニコ
麻生祐未   ケイコ
石川さゆり  ママ
田中泯    ホームレス
三浦友和   友山