ある高い山を越えた先に小さな村があった。
その村は四方八方、高く急な山に囲まれていて、村人達は簡単に村を出ることができなかった。
そのせいか農作や医学にも他の村と比べて大変進歩が遅く、村人達は困り果てていた。
そしてとうとう天災が起き、畑や田んぼの半分は枯れてしまった。
これでは充分な米や野菜が採れない。立て直そうとしても、農作の知恵を充分に知らない村人達はどうすることもできない。
今までの貯えが尽きるであろう1年後の春、この村は死んでしまう。
ある若者は言った。
「僕があの山を越えて、他の村を渡り歩き知恵を貰いに行ってこよう。そして1年後の春、確かにここへ戻ってみせよう。」
村人達は反対した。あの山を越えることがどれ程のことかわかっているのか。今まであの山を無事に越せた奴がいたものか。
しかし若者は言った。
「必ず戻ってくるから。だから待っていておくれ。
僕はこの村を愛しているんだ。どうか分かっておくれ。」
村人の反対を押し切ると、若者は手を振って山へ消えていった。
皆はその夜、若者が無事に戻ってくることを泣いて祈った。




凍てつく寒さに耐えながら若者はただひたすら歩いた。
―必ず戻ってくるから。
ただそれだけが木霊して、殴りつけるような雪のせいでもう目が開かない。
―だから待っていておくれ。






1年後の春、彼はまた山を登った。
背負った荷物の中には、数え切れないほどの新しい作物の種や農作や医学ついての文献。
様々な村を渡り歩き彼は村の為にあらゆる物を持ち帰ってきた。
これで村は助かる、村人達もきっと喜んでくれるであろう。
彼はまだ溶けきらない雪の上を、足早に登った。



ああ!まさかこんな奇跡があろうことか!
村人達は口々にそう言い若者を歓迎した。
若者は持ち帰ってきた物を順に見せると村人達は泣いて喜んだ。
ああ、これは奇跡だ。ようやくこれで村は助かる。若者よ、どうか今日は遠路の疲れを癒しておくれ。
温かい布団の中、ゆっくりと若者は眠りに落ちた。




異変が起きたのはそれから2日後だった。
若者の世話係をしていた村の子供の体温が見る見る内に下がっていった。
まるで雪の中にいるように、子の体は冷え切っていく。
その村では前例がなかった。若者が持ち帰った文献にもないような病気だった。
村へ帰ってからからたった2日後の話、村では若者が病気を持ってきたのではないかと噂された。
子はその日の日没に死んだ。
噂はあっという間に広がった。



「まさか奇病を持ってくるとは…」
「私の子を返しておくれ!」
「どうする?あの種が病の元となったら…」
「この疫病神が」



「これ以上奇病を流行らせるわけにはいかん。悪いが出て行ってくれ。」


若者は思った。
僕が病気を運んできていないという確証はない。しかし、僕は、僕は村の為に…。





若者は返された種をしまい、背負うとまた山を登っていった。
殴りつけるような痛みのせいで、もう目が開かない。















報われないとは



こういうことかも。