太王四神記15-7
天地神堂の大神官の座についたキハは、タムドク達よりも早く百虎の神器を見つける
ため、ホゲ軍に対し百済の国境から遼河の北に移動をするようにと伝令を送る。
国の安寧と軍の勝利を天に祈ることが天地神堂の大神官の務めであるはずなのに、
あたかも軍帥のように軍隊の行動に関しても指示を出すキハに対し、
先代の大神官の側近であった神官が思いあまってキハに問いかける。
太王四神記15-26
「差し出がましいようですがお尋ねします。今回のことは天の意志なのですか?
天が大神官様に軍隊を百済から退き移動しろとお告げになったというのですか?」
キハは神官を見据えながら言う「私は大神官である前に朱雀の守り主。一介の神官で
あるお前に何故答える必要があるというのだ」と。
そして、ヨンガリョに天地神堂まで来るよう報せを送れと神官に命じる。

太王四神記15-27
キハに呼びつけられ天地神堂にやって来たヨンガリョは皮肉を込めながらキハに
言う。「急な四万の大軍の移動の命令で、兵站の確保に奔走しておりましたが、大神官様
がお呼びだと言うので何事かと駆け付けて参りました」
キハはそんなヨンガリョの言葉もそこそこに尋ねる。「太王軍は国内城に戻りますか?」
ヨンガリョはそれに答えて言う。「戻らざるおえないでしょう。ホゲ軍に向かっていた西百済
の援軍が太王軍の方へ移動しており、それにカンミ城の3,000の軍が加われば数的に
太刀打ちできないのは明らかですから」
太王四神記15-28
それを聞きキハはヨンガリョに、タムドクが国内城に戻って来た時に、城内に入れないため、
先王にいまだ忠誠を誓う重臣達を排除し、ヨンガリョに与する者達で周りを固めるようにと
告げるのだった。
それを聞きヨンガリョは尋ねる「その意図は?」と。
「ホゲ様が百虎の神器を見つけて国内城に戻り、私がホゲ様を新王として迎えるまで
陛下をこの国内城には入れてはならないからです。陛下の軍は今や重なる戦に勝利した
精鋭軍です。その軍が城内に入れば、ヨンガリョ様の座も安泰だとお思いですか?」と答えるキハ。
太王四神記15-29
そこに2人の会話を聞いていた火天会の大長老が姿を現し言う。「ご心配には及びません。
太王軍はカンミ城に討ち入りました。おそらく青龍の神器があの城にあるため、無理を
したのだと思われます。悪魔が護る城をわずか4,000の兵で襲撃するとは欲に目がくらんだ
のでしょ。あの城に打ち入った限り生きて戻れることはないでしょう」その大長老の言葉をキハはじっと前を見据え聞くのだった。
太王四神記15-30



太王四神記15-9その頃、タムドク率いる太王軍はカンミ城への攻撃を仕掛けていた。崖の上に立つ難攻不落な城と言われるカンミ城に、太王軍は弓兵達がパソンが作った硬固な盾で身を護りながら、飛距離と威力のある強弓で徐々に城門近くに攻め入っていく。そして、堅く閉ざされたカンミ城の門に火矢を放つ。
太王四神記15-16太王軍の強弓での攻撃はジワジワとカンミ城の守りを崩しつつあった。そのさ中、城郭から戦況を見守っていたカンミ城の将軍カグンが攻め込んで来た太王軍の弓矢に当たり負傷してしまう。敵軍の将軍の負傷で、形勢は明らかに太王軍が優勢になりつつあった。じっとそれまでは城内の部屋で沈黙をしていたカンミ城主だったが、状況の急変を察知し、自ら馬を駆り城門から単騎で出撃する。
太王四神記15-34

悪魔だと噂されるカンミ城主の登場に城の下に布陣していた太王軍に一斉に緊張が走る。馬に乗り一挙に崖を駆け降りてくるカンミ城主に対して、タムドクはチュムチ率いるシウ部族隊に出撃を命じるのだった。
太王四神記15-13
太王四神記15-14


カンミ城主がその手に持つ槍は青白い光を放ちながら、砂嵐を起こしていく。馬でカンミ城主に向かって行こうとしていたシウ部族達も一斉にその砂嵐に巻き込まれてしまう。馬は嵐に混乱し足踏みして前に進むことが出来ない。槍はまた青白い光を放ってさらなる強烈な風塵を巻き起こし、風の刃となって兵士達の身体を切り裂き、次々に薙ぎ倒していく。その中でチュムチ一人が混乱状態から抜けだし、カンミ城主に向かっていく。
太王四神記15-18太王四神記15-19
仲間を傷つけたカンミ城主に対し、チュムチは猛然と斧を振り上げていくが、カンミ城主はその攻撃を尽くかわしていく。チュムチの斧が一瞬、その腕を捉えるが、即座にカンミ城主は迎え撃つ槍でチュムチの身体を付き、落馬させる。太王四神記15-41太王33-41太王15-40
血を流すチュムチに馬上からカンミ城主が槍の矛先を向けようとしたその時、スジニ率いる弓部隊が馬を駆ってチュムチの救援に向かう。カンミ城主は自分に向かってくるスジニをじっと見つめながらも、シウ部隊に行ったと同じように、槍が起こす砂嵐で弓兵達を薙ぎ倒してしまうのだった。その砂嵐に巻き込まれ、スジニもまた馬から落ち、意識を失ってしまう。
太王四神記15-23
それを見たタムドクはカンミ城主に自ら馬を駆けさせ向かっていく。すると、噂通りの悪魔のような強さで太王軍を圧倒していたはずのカンミ城主が、急に胸の痛みに襲われたかのように、手で胸を押さえながら、タムドクから背を向け、倒れたスジニを自分の馬に乗せ、カンミ城内に姿を消してしまうのだった。
太王四神記15-21
太王四神記15-20
太王四神記15-24
太王


一旦、カンミ城の北の陣まで撤退した太王軍。陣内では負傷したチュムチの手当をタルビがかいがいしくしていた。
またフッケ将軍と息子のタルグはタムドクがいる陣幕前で逡巡していた。その様子を見たコ将軍が厳しい口調で問い質す。「何をしているのだ?お前達は王命に背き大切な兵士の命を失わせた。責任をとり自決すべきなのに、どうしてその様に立っていられるのだ?」と。コ将軍の言い方にカッとしたフッケ将軍は思わず、私が跪くのは陛下の前だけだと強がり、それを見たタルグがその場をなんとか納めようとオロオロとするのだった。
太王四神記15-32
そんな幕外での喧噪をよそに、タムドクはじっと一点を見つめ考えに耽っていた。ヒョンゴがその様子を見て言う。「王様、これ以上遅らせるわけにはいきません。西百済の援軍が明後日までにここに到着します。一刻も早く軍を引き返さなくては。」と。
3太王四神記15-2
太王四神記15-3
それを聞き傍らにいたヒョンジャンが言う「それではスジニはどうなるのですか?」
「我々コルム村の人間はチュシンの王に仕える民族。一人の女の為に義務を止めることは出来ない」と答えるヒョンゴ。それまで2人の会話を聞いていたタムドクだったが、口を開き告げる。
「準備して下さい。日が暮れる前に全軍の撤退を始めます」と。即座に命令を伝える為に幕外に出ようとしたヒョンゴだったが、意を決したようにタムドクに向かい言うのだった。
「王様、今お考えになっていること、スジニを助けようとするお考えはどうかお捨て下さい」と。タムドクが兵を撤退させる命令を下したものの、スジニ救出への思いを捨てきれないと分かってのヒョンゴの言葉だった。そんなヒョンゴの言葉を辛そうに聞くタムドクだった。
太王四神記15-4太王四神記15-35




一方、ホゲ軍内では、天地神堂の指示を聞くや急遽行軍先を変更したホゲの行動に、将軍達が不満を募らせていた。その様子を見たイルスとチョクファンがホゲに、将軍達が何を密談しているのかを問い質すべきだと進言するが、ホゲの心はキハに捕らわれ、2人の言葉は酒に溺れるホゲには聞こえてもいないような状態だった。そんな不穏な雰囲気が漂い始めた陣内に、ホゲが来訪を待ち望んでいたキハが到着する。
太王15-41
酒に酔って床に伏せっていたホゲのもとを訪れたキハ。意識をとり戻したホゲは側にいるキハの姿を見ると、まだ夢の中にいるかのように、その姿を見つめるのだった。そんなホゲにキハは言う。
「今でと同じようにこれからもずっと側にいてくれますか?何があっても私がこれからどうなっても・・・。百虎と青龍の神器を手に入れて下さい。そして高句麗も手に入れて下さい」と。
ホゲはそれに答えて夢見るように言う。「私に頼む必要などない、ただ、欲しいと言ってくれ。ただそれだけで私はそなたのものだ」と。
キハはホゲのその言葉を聞いても表情を変えることもなく言う。「では、あなたの魂を私に下さい、そして自由に使い、用がなくなれば捨てます」と。
そして最後にこう告げるのだった。「タムドクがここに来たら殺して下さい」と。
太王33-38
その言葉にしばし言葉を失ったホゲだったが、キハに向かって「いつかは私も殺されるのか?」と自嘲気味に問うのだった。
「そうなるかもしれません」と平然と答えるキハ。それを聞きホゲは言う。「それでは私もそなたに頼みたいことがある。もしそうなった時には、そなたの手で私を殺して欲しい」と。


日が暮れ、カンミ城の北のタムドク陣内では国内城への撤退の準備に追われていた。
指揮を執るコ将軍の側らではフッケ将軍が、これまで手に入れた百済の10の城までも手放し
撤退することに悔しさを隠せない。そんな2人のもとにタムドクを探しに行ったタルグが
慌てた様子で駆けこんで来る。「陛下がいらっしゃいません!これがコ将軍宛てに残っていました」
太王33-39
コ将軍はその書に目を走らせるなりその場から走り出す。コ将軍の慌てぶりを見たフッケ将軍もまた、残された書を見るなりコ将軍の後を追うのだった・・・。

陣幕の他の場所ではまた、ヒョンゴが何処かへ急いで行くかのように足を速めていた。「先生、俺も一緒にいくぜ」とヒョンゴを呼びとめる声。ヒョンゴがその声に足を止めるとチュムチが近づいてくる。「いったい何処にだ?」と最初はとぼけていたヒョンゴだがチュムチが「スジニを助けに行こうとしてるんだろう?」と聞くと言う。「そんな傷を負った身体で何が出来る?おとなしく寝ていろ」とチュムチの問いに否定はしないのだった。
太王四神記15-38
「先生こそ一人で行くなんて無理だ」と答えるチュムチに「私は玄武の神器の守り主だぞ。もし私の身に何かあれば天が私を護ってくれるはずだ・・・」と言うヒョンゴ。「先生はそんなこと信じているのか?」と不審げなチュムチに「そんなはずないだろう」と笑いながら答えるヒョンゴだった。「傭兵というのは金にならないことはしないというのが普通なのに、お前はその傷を負った身体をおしてでもスジニを助けようとしてくれている。お前は本当に心が優しい奴だな」というヒョンゴ。
太王33-40
ヒョンゴの言葉に、チュムチは剛の者の沽券に関わるとばかりに、慌ててヒョンゴに言う。「俺の目的はカンミ城主だ。先生はスジニを助ければいい。俺はその隙に奴にもう一度決闘を申し込んでやるんだ」と言う。笑いながら「お前はいいヤツだよ」と言うヒョンゴ。2人はそんな会話を交わしながらヒョンゴが用意していた馬車の乗ってカンミ城へと密かに馬を走らせて行くのだった。