太王15-13
夜の闇の中にカンミ城の城郭は夜営の薪の灯りに照らされていた。
その城主の部屋では、カンミ城主に連れて来られたスジニが、まだ意識を失ったまま横たわっていた。カンミ城主はそろそろとそのスジニに近づき、顔に手を触れようとする。
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その瞬間、城主の脳裏に2,000年前に黒朱雀と化したセオの姿が鮮明に蘇ってくる。思わずスジニのもとから後ずさる城主。驚愕の面持ちでスジニを見つめながら、また胸の苦しさに襲われたカンミ城主は、その苦痛から逃げるように、部屋の外に拡がる森の中へと姿を消していくのだった。カンミ城主が部屋から出た直後、目を覚ましたスジニは自分がいる場所に驚き飛び起きる。
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部屋の外に出ようと出口を探すスジニに向かってカンミ城主の声が部屋の中に響く。
「お前はいったい何者なのだ?」と。その声に身構えるスジニに、またカンミ城主が問いかける。「お前を私は知っているのか?」スジニはその声に誘わるかのように、カンミ城主が姿を消した森の中に入っていくのだった。
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その頃、闇に紛れてカンミ城の城門近くに到着したヒョンゴとチュムチ。何かを探している様子のヒョンゴにチュムチが問いかける。「先生、何か探しているのか?」。ヒョンゴは昼間の火弓の攻撃で城門のどこかに焼け落ちた箇所がないかと探しているのだと答える。チュムチが小さな穴だと自分は入れないとヒョンゴに言いながら、2人は姿を隠しながら城門に近づいて行く。
その時、2人の行動を察知したかのように城郭の灯りが一斉に照らされる。自分たちの存在が敵にバレてしまったのかと慌てる2人。だが城門の楼閣に現れたカンミ城の将軍カグンと兵士達が見下ろす先には、馬に乗り高句麗軍の旗を掲げた人物がいた。「いったい誰が?」と驚く2人。
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カグンの声が響き渡る。「太王軍の者か?」それに答えて旗を持つ使者が言う。「太王の伝言を届けに来ました。城主に直接手渡せとの命を受けております」そして胸元から紋章を掲げて見せながら続けるのだった。「これは太王の紋章です」と。
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それを陰で見ていたヒョンゴとチュムチは、余りの驚きに言葉も出てこない。使者として馬で一人カンミ城に乗り込んでいたのが、あろうことか自分達の王様だったからだ。2人の驚きを余所にタムドクとカグンの会話は続いていた。太王はソッキョン城を含め10の城を返して欲しくないかと仰っておられますとカグンに言うタムドク。その理由は?と問うカグンにタムドクは直接、城主に説明申し上げると答えるのだった。太王15-18
それを聞き、カンミ城の城門と釣り扉が開かれる。そしてタムドクは城内へと入っていくのだった。一人で敵の中に入っていったタムドクの姿を見て、思わずチュムチがその場から飛び出そうとするが、ヒョンゴが慌ててチュムチを止めて言う。「今はだめだ・・今は」


カンミ城に入ったタムドクは、カグンに先導されカンミ城主の元へと歩を進めていた。「一人でそなたをこのカンミ城に来させるとは、王はそなたを見捨てたのだな」と言うカグンにタムドクは言う。
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「我らの王の願いは一人でも多くの命を助けることです。あなた方の城主も同じお考えではないですか?」その落ち着き堂々とした返答の仕方に、先を歩くカグンは思わず足を止め振りかえり、タムドクを見る。
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そして一介の使者に対し「自分はカンミ城の将軍のカグンと申す。そなたの名前は?」と問いかけるのだった。タムドクはしばらくの間ためらった後、「答えたら嘘をつくことになります」と返答するのだった。その姿を見ていたカグンの脳裏に高句麗で先ほど行われたキョックの試合の風景が蘇る。そして自分が話をしてるのが誰だか悟ったかのように言う。「この前の高句麗のキョックの試合を見たか?圧巻だった」と。そして話は終わったとばかり、また先を歩いて行くのだった。
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タムドクがカンミ城内に入った頃、森の中を声の主を探し彷徨うスジニは、とある木の下に俯きうずくまっている人物を見つける。スジニが恐る恐る近づいて行くとその人物は言う。
「私は人間ではない、だから今まで痛みというものを感じたことがなかった。」
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「じゃぁ、何だと言うんだ?お化けか?」と気丈に答えるスジニ。カンミ城主は言う。
「悲鳴を上げて逃げるがいい・・・。私を見た者はいつでも誰だって逃げて行くのだから…」
その言葉の中にあるカンミ城主の傷ついた心の痛みを感じたかのように、スジニは城主に近寄って行く。仮面を外した城主の顔が、俯き垂れた髪の中から垣間見える。
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その顔は硬い青い鱗のような樹皮に覆われていた。そして袖から出ているの手も同じく青い樹皮に覆われているのだった。「まさかそれが本当の顔?身体もそうなのか?」と聞きながら、スジニはその手で慰めるかのようにそっとカンミ城主の手に触れようとするが、カンミ城主はその触れ合いに驚いたかのように手を退ける。
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スジニが側に来ることによって胸の痛みに襲われながらカンミ城主はスジニに問い質す。
「お前とあの者とは一体 何者なのだ?私にとって一体 何なのだ?」と。
「あの者?」とスジニが問い返すものの、カンミ城主はそれには答えず、「何故、私の心臓をこんなにも苦しくするのだ?」と言い、またスジニの前から姿を消すのだった。



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城内では、カグンがタムドクを城主の部屋の前まで案内し、扉の前でタムドクの来訪の意を説明していた。部屋の中から「入れ」との返事と共に扉が開く。タムドクが部屋の中に入ると、そこには城主の椅子があるだけで人の姿は見当たらないのだった。タムドクはその座に向かって言う。
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「10の城を返すつもりだ。だが条件がある。それは今人質に獲っている女をこちらに返すことだ」と。その返事に反応するかのように部屋の中には風が舞い、部屋の灯りが消えてしまう。そして「そなたの恋人か?」と問う声がする。タムドクはその問には答えず声がした方、城主の座の奥に広がる光の中へと入っていくのだった。
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その頃、なんとかカンミ城の中に入ったチュムチとヒョンゴはカンミ城主の部屋の前まで来ていた。だがその扉は硬く閉ざされ頑として開かない。なんとか扉を開けようと、あの手この手を試していた二人の背後から、先程タムドクを案内していたカグンが姿を現す。
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敵将の登場に慌てる2人にカグンが問うのだった。「一つ尋ねる。高句麗の王は本当にチュシンの王なのか?」と。ヒョンゴが答えて言う「私達より玄武の神器が先にあの方をチュシンの王だと認めました。それが真実ならどうしますか?」と。
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カグンはその言葉を聞き言うのだった。「私も長い間チュシンの王を待っていた。チュシンの王だけが、神器の呪から我が主君を解放出来るからだ。チュシンの星が輝いてから高句麗に密かに行っては、チュシンの王の可能性のある人物の動向を探っていた、ヨン家ののホゲとそなたの王の。そなたの王は先ほど来た。もし本当にチュシンの王ならば、神器の呪いを解いてくれるはずだ」と。カグンの話に驚きながら、ヒョンゴが思わず聞く。「ならば、神器はどこにあるというのですか?」カグンはその問に、タムドクが姿を消した扉の方を見つめるのだった。



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タムドクがカンミ城主を捜し入った森の中は、不思議なこの世ならぬ空気に包まれていた。そして森に分け入って程なく、その存在を知らすかのように風がタムドクの周りを舞い、それと同時にタムドクが腰にいつも携えていた天弓の柄が光を放ち始める。
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そしてタムドクの周りを囲むかのように天の社がを現す。それを見たタムドクは天弓の柄を手に持ちながら、暫し目を閉じ自分の近くにいる存在に意識を集中させるのだった。すると、周りを舞っていた風が静まり、その風から姿を変えたかのように、タムドクの後ろにカンミ城主が姿を現す。
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城主はタムドクに向かい槍を構えるが、タムドクの姿に2,000年前のファヌンの姿が重なり、またそのファヌンに召されて黒朱雀と戦った青龍の記憶が蘇ってくるのだった。カンミ城主はタムドクの真の力を試すかのように槍を向けて挑んでいくが、タムドクを守る天の力により、後ろに吹き飛ばされてしまう。
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タムドクこそが待ち望んでいたファヌンの生まれ変わりだと確信した城主は、タムドクに懇願するのだった。「この苦しみから救ってくれ」と。タムドクはその姿を見ながら、自分のするべきことが何かを理解したかのように、ゆっくりと天弓の柄を掲げるのだった。すると柄の部分だけだったものが光を放ちながら弓の形になっていき、タムドクはその天弓の矢を城主に向かって放つのだった。
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矢が城主の胸を貫くと同時に、城主の体から四方に龍の姿の青い光が解き放たれるのだった。それは空高くカンミ城の上空まで立ち上っていく。城主を捜して同じく森を彷徨っていたスジニや、タムドクの後を追って部屋に入って行ったカグンとヒョンゴ達もまたその閃光に何かが起こったと、光の放たれた場所を目指すのだった。


タムドクが城主の胸を射るとすぐにまた、天弓は元の柄の部分だけになり、タムドクの手に残される。そしてタムドクは矢を射られて崩れ折れた城主の側に跪き、その仮面を取ってやるのだった。城主は死んだかのようにピクリとも動かない。
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そこに、先程の閃光が放たれた場所を探しあてやって来たスジニが現れる。スジニは城主の様子に驚き思わず身体に手を当てる。そして脈拍が打っていることを確かめると「生きています」とタムドクに知らせるのだった。2人が城主の様子を見守っていると、矢が貫いた城主の胸から、青白い光を放つ物が姿を現す。
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それは光りながら徐々に形を成していき、タムドクはそれを胸から取り出す。タムドクとスジニがその光り輝く物体が何かと見つめていると、そこにヒョンゴとチュムチを引き連れたカグンがやって来て告げるのだった。「それは青龍の神器です」と。
そしてカグンはその場で起こったことをすぐに理解し、チュシンの王の前で跪きながら事の顛末を説明するのだった。
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城主が10歳の時に、神器を奪いに城を襲ってきた敵から青龍の神器を護るために、城主の父が息子の心臓に神器を刺し入れたのだと。以来、城主は青龍の神器の力により、異形の姿になってしまったのだ。カグンの言葉を証明するかのように、チュシンの王によりその呪いを解かれたカンミ城主の顔からは、それまで覆っていた硬い鱗が徐々になくなっていき、人の姿を取り戻していくのだった。太王15-55



一方、国内城では短期間に10の百済の城を落したタムドク率いる太王軍と、戦わないままに遠征先を変えたホゲ軍に対して、戦前とは逆に民意は明らかにタムドクに傾きつつあった。
そんな中、コムル村のヒョンミョンは慌てた様子でパソンの鍛冶場に駆け付けていた。15-80-1.jpg
鍛冶場内で捜す人物を見つけたヒョンミョンは「おい、本当にお前か?コムル村の者が火天会の奴らに誘拐されたと聞いたから心配していたんだ。だが誘拐されたなら生きて帰れるはずがないからな」と声をかける。
15-81-1.jpg男は酷く怯えた様子ながらヒョンミョンの問いには答えず「行かなければ・・・」と言いながらヒョンミョンを押しのけて立ち去ろうとする。「おい、どうしたんだ?」というヒョンミョンに「パソン姐さんに知らせなけらば・・・」とうわ言のように言うのだった・・・。



夜が明けたカンミ城では、タムドク達が国内城に向けて旅立とうとしていた。チュシンの王を守る役目のコムル村の村長として今回のタムドクの無謀な行動に、黙っていられないヒョンゴは「どこに自軍を全て帰還させておいて、自分一人で敵に会いに行く王がいますか?」と諌めるように言うのだった。タムドクは何度も聞かされてうんざりしたと言いたげに「もう耳に栓をしたよ」と答える。
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言いだすと止まらなくなったヒョンゴはそんなタムドクには構わず、[これから4人だけでどうやって国内城まで帰るというのですか?ここから全て百済の地を通らねばならないのに。全てと戦うつもりですか?」と続けるのだった。前を見ていたスジニが「私達だけじゃないみたいだけど」と、とぼけた口調で言う。ヒョンゴの言葉に苦笑していたタムドクも、その目線の先を見る。そこにはコ将軍やフッケ将軍、タルグ達がタムドクを迎える為に駆け付けて来ていた。
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「私の命令を受けなかったのか?」と厳しい顔で問うタムドクに、コ将軍が答える。
「全軍を国内城に戻せとの命令を受けました。」「では、何故ここにいる?」とのタムドクに、コ将軍は落ち着いた様子で言うのだった。「陛下がされた最初の約束を守りました。私とした最初の約束を。それをフッケに話して、ここでお待ちしおりましました」と。フッケ将軍はコ将軍が落ち着きぶりの裏で、実はどんなにタムドクを心配していたかを捲し立て始める。
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その様子を見ていたタムドクはそれまでの厳めしい表情を崩し、思わず微笑みを浮かべていた。タムドクの笑みを見て、タムドクの身が無事であったことや、帰路の心配をしなくてよくなったことへの安堵に、将軍達やヒョンゴ達の顔にもまた自然に笑みが広がっていくのだった。
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