ピアノの進化⑤

 

さてさて、68鍵(5オクターブ+8鍵盤)に拡大したものの、

ベートーヴェンがこれで満足するわけはない。

 

エラールのピアノはフランスもの

(アクションはイギリス式というべきかもしれません。)

 

ベートーヴェンはウィーンにいるのだから、

ウィーンのピアノ業者にしてみれば、

できれば自国で最良のピアノを作って大作曲家に提供したい

と思うのは古今東西共通ではないか。

 

 

そこでついに、

1809年から1810年あたりで、

ウィーンのシュトライヒャーが、

という女性ピアノ製作者が、

ついに6オクターブ(73鍵)のピアノを製作し、

ベートーヴェンに寄贈した。

これで、ファ(F1)~ファ(F7)まで可能となり、

それまでは、上がド(C7)だったのが、

さらにファ(F7)まで音域が広がった。

 

 

 

最低音は変わりないが、高い方が4つ上に広がった格好だ。

 

これは、また大きくベートーヴェンを喜ばせたようだ。

このピアノを契機に、

ピアノ協奏曲『皇帝』などを作ってゆく。

 

 

このシュトライヒャーは女性であるのだが、

天才ピアノ製作者と言われている人物である。

 

シュトライヒャーは、ピアノ製造だけではなく、

ベートーヴェンとは非常に親しい関係となり

(恋人関係だったことはないと思われる。そのような

記述は今まで一度も読んだことはない。)

生活面での支援や病気の看護、資産の運用などで

ベートーヴェンを助けたということだ。

 

ベートーヴェンはシュトライヒャー夫妻に対して

100以上の手紙を書き送っているというのだから

その親密ぶりがうかがえる。

 

 

ここからでも察しがつくが、

ベートーヴェンというのは、意外に、女性から、

あるいは男性からも愛されるのである。

 

さて、シュトライヒャーの6オクターブ(73鍵)の

ピアノにより、ベートーヴェンは

ピアノ協奏曲第5番変ホ長調作品73『皇帝』

を作る。

 

 

皇帝の1楽章最後の部分、

思い切り、上のファの音を使い続けている。


 

上の楽譜は、皇帝の2台のピアノ用楽譜

(ピアノソロと、オーケストラ部分をピアノパートにしたもの)

 

 

下の楽譜は、

中学1年生のときに買った皇帝の総譜(スコア)です。

 

上からフルート、オーボエ、クラリネット、ホルン、

以下弦楽器が書かれています。

他に、トランペット、ティンパニも使われていますが、

この部分ではお休みです。

1楽章の最後の部分で、

ピアノが美しい旋律を奏でながら、

一番上からほぼソロで降りてくるところです。

こうして、楽譜で見てみると音楽の構造がよくわかります。

 

改めて、新しいピアノを得た喜びを想像しながら弾いてみたら、

(ゆっくり目ですが)

ベートーヴェンの高揚した気分をより一層感じることができた。

 

 

しかし、ベートーヴェンは、

まだ満足できないのかもしれない気持ちの現れか、

という曲もある。

やはり、低音が一向に広がっていかないのは不満でしょう。

 

また明日