花組大劇場公演『巡礼の年〜リスト・フェレンツ、魂の彷徨〜』。

 

初見からしばらくは、れいちゃん(柚香光さん)以外はあまり観られなかったのですが、観劇を重ねるにつれ、他の方のお芝居にも目が行くようになりました。

 

キャスト別に、印象に残ったことを書いておこうと思います。

 

とはいえ、わたしはどうしてもれいちゃん中心に観てしまうので、片寄っているかもしれません。

 

また、あくまでもわたしの感じた事ですし、記憶違い等あるかもしれませんが、ご容赦下さい。

 

以下、公演の内容に触れますので、知りたくない方はご注意下さい。

 

 

 

フランツ・リスト(柚香光さん)

 

れいちゃんのリストに関しては、観劇の都度かなり書いてきたと思うのですが、それでも書き足りない思いがします。

 

とにかく圧倒的な魅力と存在感でした。

 

わたしの観た印象で言えば、初見の頃は作品前半のリストの印象が強く、観劇を重ねる毎にだんだんと後半の印象が強くなっていった感じでしょうか。

 

 

冒頭の屋根裏部屋のシーンでは、れいちゃんが、演技と言うより本当に若い男の人という感じで、その魅力、色気、野心、切なさなどが入り混じって、心をつかんで離しません。

 

ル・サンクに、この場面の音楽について“時代考証をあえて無視して”と書かれていましたが、1950~60年代の映画のシーンのようだと思いました。

 

 

サロンでのスーパースターぶりは圧巻で、初見の時は衝撃的でした。

 

それ以後しばらくは、オペラでひたすらリストさまだけを見つめることが続き、前方席でオペラを使わなかったとき、はじめてこのシーンの全貌がわかりました。

 

貴婦人たちに取り巻かれ、得意の絶頂にいるようにみえながら、ふとその眼差しが翳るのですが、公演後半では、その翳りが増していったように思います。

 

S4~5の苦悩するれいちゃんリストの姿は、本当に切なくて、苦しくなるほどでした。特に、過去の記憶に苛まれる様子と、ショパンへの複雑な思いの表現は、胸に響きました。

 

マリーの居室へ行くシーンでは、初見の頃は颯爽としていて恋の部分が強かったように思うのですが、だんだんと、傷つき助けを求める感じに変わっていったように思います。

 

また、豪華な宮廷服を着て、高笑いをするところは、公演終盤では、泣き笑いのように見えるときがありました。

 

わたしは、魂の彷徨で、ショパンと対話するときの、なりふりかまわず自己中な感じも割と好きで、後半に行くほど面白く感じました。

 

 

ラストのマリーと再会するシーンは、初見の頃は少し唐突な感じがしていたのですが、公演が進むにつれ、しみじみとした情感が感じられるようになったと思います。

 

公演終盤で見せた一瞬の笑顔は忘れられません。

 

 

れいちゃんのお芝居が大好きなのですが、細部にまで繊細な心配りをされていることを、いろいろなところで感じることができたように思います。

 

お芝居に関することを中心に書きましたが、もちろん、ピアノを弾くれいちゃんも、踊るれいちゃんも最高でした。歌も、少し喉を心配したときがあったのですが、とても心に響いて良かったです。

 

 

れいちゃんのいろいろな魅力が詰まったリストという役。

 

この役を演じるれいちゃんを観ることができて、とても幸せでした。

 

れいちゃんにとっても、やりがいがある役だったのではないかと思います。

 

 

 

マリー・ダグー伯爵夫人(星風まどかさん)

 

初見の時の印象は、美しく可愛いけれどもそれほど個性を感じない人、だったのですが、観劇を重ねるにつれ、存在感を増していきました。

 

少しずつ、マリーの感じている閉塞感や悲しみが伝わってきたように思います。

 

S3で歌う「アルルカンの哀しみで」はとても良かったです。

 

ジュネーヴの森のシーンは、初見の頃はそれほど好きな場面ではなかったのですが、ある日ふと涙が出てきて・・・、二人の幸せそうな様子に心が動かされました。

 

ちょっと脇にそれますが、このシーンのまどかちゃんの走り方がとても可愛くて、うまく言えないのですが、とととと・・・と、小刻みに走る(というか、動く)姿が本当にお姫様だと思いました。舞台と平行に走るときよくわかります。

 

リストにすぐ謝る様子なども、マリーの純真で素直な人柄が出ていたように思います。

 

わたしが、まどかちゃんのマリーで一番好きなシーンは、S11の象牙の戦いの場面、ショパンの歌でリストと踊るところ。

 

実際のマリーは離れて立っていて、リストとタールベルクの対決を見守っているわけですが、リストが「巡礼の年」を弾き始めると、リストの側に寄り添い、喜びに溢れて踊るリストと共に踊ります。

 

なんだか、リストとマリーの魂が一番近づいた瞬間に思えました。

 

前回書いたように、マリーの描き方が、わたしには今ひとつすっきりしないのですが、まどかちゃんの演技の深化によって、少しずつ共感できる部分が増えていったように思います。

 

ラストシーンは、れいちゃんのリスト共々、しみじみした情感が出ていたように思いました。

 

 

 

フレデリック・ショパン(水美舞斗さん)

 

初見の時、マイティー(水美舞斗さん)がお痩せになったように感じ、病身で早世したショパンを演じるためなのかな、と思いました。

 

一般的なショパンのイメージとマイティーのこれまでのイメージは、少々違っていると思うのですが、繊細な感じも音楽家らしさも、よく出ていたように思います。

 

 

パリ音楽院の子どもたちとリストの前に現れて踊る場面では、神に愛された存在として、

 

象牙の戦いでのリストの演奏を聴き、歌うシーンでは、心から音楽を愛するものとして

 

音楽と共にある喜びを表現していたと思います。

 

 

この作品でのショパンは、押さえた演技が多く難しい役どころだと思うのですが、マイティーは持ち前の誠実な感じを活かして、リストへの愛がよくわかるショパンでした。

 

リストに向かっていう言葉だけでなく、視線がいつもリストを追いかけ、常に気遣っている感じを受けたのです。

 

なんだか、お互いが片思いし合っているような二人だと感じた事がありました。

 

 

場面設定は少々疑問に思うものの、魂の彷徨の場面のれいちゃんリストとマイティー・ショパンはとても良かったです。

 

わたしが好きなのは、感情的になったリストの自己中発言を受けて「はは、どうやら、俺の身を案じてくれてるわけじゃなさそうだ」とショパンがリストに言うところ。

 

それこそ皮肉ではなく、(お前らしい)とショパンは思って、リストのそんなところも含めて好きなのだろうな、と感じました。

 

それは、マイティーの優しさとおおらかさを感じさせる個性もあって、そう感じたような気がします。

 

その後の、れいちゃんリストへの真情溢れる言葉もとても良かったです。千秋楽が近づき、マイティー・ショパンが熱を帯びてくるにつれて、感動が大きくなっていったように思います。

 

ショパンの最期は静かでしたが、切なくて、胸に沁みました。

 

 

 

ジョルジュ・サンド(永久輝せあさん)

 

ひとこちゃん(永久輝せあさん)のジョルジュ・サンドについても、これまでに何度か触れてきたのですが、本当に魅力的でした。

 

冒頭のリストとのシーンは、回を重ねる毎に濃厚になっていって・・・

 

「行きなさい、フランツ」と言いながら、リストの手を取り寝椅子の方へいざなうところとか、覆い被さったリストの背に伸ばす手とか、どんどん大胆になっていったと思います。

 

 

S10の夜の森では、リストに向かい、「パリにあなたの居場所はもう無いってこと」と言ったあと、

 

「でも、あなた・・・」と、声の調子を変えてささやきかけるのですが、そこもどんどん悪魔的になっていき、続く歌の部分もあわせてすごく説得力がありました。

 

結局リストはパリへ行くことになるのですが、わたしとしては、よくリストは持ちこたえたな、と(思わずキスしかけて思いとどまるようなところが・・・)。

 

ひとこちゃんのサンドは、聡明で、器も大きく、愛情も豊かですが、同時に少しダークな部分も感じられて、そこがまた魅力的でした。

 

 

サンドとショパンの関係は有名ですが、この作品では、ショパンの最期の場面以外、あまり描かれていないように思います。

 

ちょっと残念だったのは、S15でマイティー・ショパンとひとこちゃんサンドが、銀橋で話すシーン。

 

近づく革命の足音に対して、芸術を守ろうとするショパンと、そのショパンを守ろうとするサンド。二人はパリから逃れ、サンドの屋敷があるノアンヘ行くことになるのですが、

 

本舞台のシトワイヤンたちの勢いが激しすぎて、お席によっては、二人の会話が聞き取りにくいことがありました。

 

ここは、マイティーとひとこちゃんのお芝居に集中したかった気もします。ここが、もう少しじっくり描かれていれば、ショパンの最期を看取るサンドの切なさが(史実とは違いますが)、更に感じられたのではないかと。

 

とはいえ、最期の場面でのひとこちゃんサンドの、マイティー・ショパンへの愛の告白のような言葉は、心情をよく伝えていたと思います。

 

カラッとしていただけに、その後の別れの言葉が、余計に切なく感じられました。

 

 

 

ラプリュナレド伯爵夫人(音くり寿さん)

 

くりすちゃんのラプリュナレド伯爵夫人を観るのが毎回楽しみで、登場するとわくわくしていました。

 

幸い、今回わたしが当たった前方席は、どれも、くりすラプちゃんがしっかり見えるお席でした。

 

サロンでリストに夢中な様子や(輪っかのスカートをブンブン振るところが可愛い)、他の女といるリストに嫉妬して「義務を果たしなさい!今夜よ!」というところもとても良いのですが、やはり、一番印象に残るのは、リストとマリーがパリを出たときのこと。

 

パリ社交界の貴族や貴婦人方がこの噂に持ちきりになる中、登場するラプリュナレド伯爵夫人はすごい迫力でした。

 

公演終盤では少し落ち着いた感じを受けたのですが、怖くなるほど目が据わっているときがありました。

 

彼女がどれほどの怒りにとらわれているか、そして、どれほど傷ついているか。

 

リストに裏切られた、恥をかかされたという思いもあるでしょうが、ラプリュナレド伯爵夫人は、彼女なりにリストを愛していたと思います。

 

だから、いっそう彼を許せない。

 

つかさくん(飛龍つかささん)のダグー伯爵(彼もすばらしい)と交差しながら本舞台で歌い、さらには銀橋でもう一度歌ってくれます。

 

歌声はもちろんすばらしく、とても美しかったです。

 

 

くりすちゃんは、この作品の東京公演で退団されるのですが、わたしは未だに信じられない思いです。

 

だから、まだお別れの言葉は書けないのですが、東京公演でも思う存分、くりすちゃんのすばらしいラプリュナレド伯爵夫人を見せて欲しいと願っています。

 

 

長くなったので、いったんここで切ります。