ごきげんよう。栗毛馬です。
本日は、ピアノの話。
自分のレベルを極端に超越した難曲を愚直に練習することは、演奏技術をぐぐっと底上げしてくれると再認識。
Eテレ「3マスピアノ」のおかげと確信しています。
「3マスピアノ」をきっかけに練習を始めたショパン「革命」。
週に何度か、片手練習とヨロヨロ両手練習をしている程度で、進捗ははかばかしくありません。
しかも、2月の初めに突発性難聴を発症。
大きな音を聴くのがしんどくて、練習時間は激減。
距離ができると、熱意も下がる。
生意気にも、曲に飽きてしまいました。
わかっていたことですが、「革命」は、私には難しすぎます。
今は、誠実かつ愚直に繰り返し練習をする気持ちにはなれない(それが一番の近道だと知ってはいても)。
「革命」からは少し離れたいかな…。
こういうときは「浮気」をするに限ります。
「浮気」とは、練習中でない曲に手を出すことです。
到底手の届かない憧れ曲や、アプローチしては振られ続けている曲なんかをつまみ食いして、気分転換を図るのです。
(そうだ、久しぶりにアレを練習してみよう!)
私はショパンのワルツ集を手に取り、「13番」のページを開きました。
↓図々しくも付箋をつけてあります
ワルツ第13番 変ニ長調 作品70-3。
ショパンらしい、優雅でおしゃれで、ちょっと小悪魔な曲です。
臨時記号が多いし、のっけから「小指で音を保持しながら親指でなめらかに内声を奏でる」などという無体なことを要求してくるので、万年初心者の私にはかなりハードルが高い。
↓中間部など、やはり右手小指でメロディを保持しつつ、他の指で和音で内声を奏でつつ伴奏も担当し、左手は朗々と歌いまくる(中~低音域の豊かな響き!)…みたいな感じでそりゃあ素敵なのですが(私は曲の中でここが一番好き)、難しい。
「この曲、おすすめですよ。そんな難しくないです」
かつて紹介してくれた人は、
「右手と左手が近づいたり離れたり、まるで男女のかけひきのようで面白いんです」
涼しい顔で楽々と演奏していたけど、上級の腕前をもつ君だから『そんなに難しくない』のであって、万年初級レベルの私には十分以上に難曲だよ…!
初めて譜読みをしたのは、数年前です。
冒頭から、例の変な動き。指が届かない。
しばらくは練習したけれど、
「いや~、とてもじゃないけど無理だー」
あきらめました。
しかし、ほとぼりが冷めると、全然ダメだったことなんか忘れて、また挑戦したくなるのです。
「練習するぞ!」
張り切って攻略を試みるけど、
「やっぱり無理…。また今度」
こんな感じで、挑戦と挫折と放置を幾度となく繰り返してきました。
こんなこともありました。
「全曲通してが無理なら、せめて好きな中間部だけでも弾けるようになりたい!」
切なる願い。
手ごわい冒頭をすっ飛ばして憧れの中間部に取り組んでみれば、なんとますます難しくて、全く歯が立たない。
右手の指は届かないし、左手の指はいうことをきかないし…!あえなく挫折。
その、ショパンのワルツ13番。
例によってヨタヨタと、目玉を楽譜に釘づけにして音を追っていくと。
(あれ…?意外とできそうかも?)
- 楽譜を読むのが楽になっている。
- 指がスムーズに動く。
- 指が、さほど苦労せず、楽譜どおりの音を取りに動いてくれる。
- 指が開く。
- 指の分離ができている。
- 中間部の、右手がキッツイところもなんとか大丈夫。指が届くし、固まらない。動いて、鍵盤が押せる。
- 同じく中間部の、左手。指またぎが下手で、動きを覚えられず、何回やってもミスタッチばかりだった旋律が、楽々弾けているじゃないか…!
衝撃的でした。
どうしちゃったの、自分?!
自問して、すぐに気づきました。
「『3マス』効果だ!」
と。
- 楽譜が以前よりすらすら読めるようになったのは、課題曲(革命、ジムノペディ)にしっかり向き合って練習したから。
- 右手が開くようになったのは、5和音や4和音を掴んで、バランスよくきれいに鳴らす努力をしてきたから。
- 指がスムーズに動くようになったのは、本田メソッド「手を鍵盤に直角に」「第三関節を意識する」を愚直に励行したおかげと、長く続く音の連なりに地道に取り組んできたから。
- とりわけ左手には、革命を練習した成果が出ていると思う。
「革命」のあの広い音域を動き回るアルペジオに比べたら、ワルツ13番の中間部、朗々たる歌い出しなんてかわいいもの。お茶の子さいさいです。 - 右手が黒鍵で転びにくくなったのと、左手で和音が掴みやすくなったのは、ジムノペディのおかげだろうなぁ…。
(これなら、気長にやっていればいつか弾けるようになるに違いない!)
初めて、手ごたえを感じました。
つれなかった13番が、こちらを向いてほほ笑みかけてくれたような気さえしました。
(『3マス』効果、凄い…!)
しみじみと、感じ入りました。
正しい練習は、嘘をつかない。
すぐには効果が出なくても、上達しているように思えなくても確実に力になってくれている。
それが改めてわかっただけで、練習に向かう気持ちがもりもりと出てくるのです。
ただ…、
調子に乗って、図々しく早くも両手を合わせて通すと。
「それ、おしゃれな曲ね!」
うちの老婦人こと母が言いました。
「でしょう?ショパンだよ!」
全然弾けてないくせに得意がると、
「えっ」
老婦人、驚愕顔。
「ショパンなの?ショパンだとは全然思わなかった!」
今度はこっちがびっくりです。
「えっ!こんなにショパンぽい曲を?!じゃあ誰の曲だと思ったの」
「分厚くてドスンて重いからブラームスかしらと。ショパンでは絶対にないと思ったわ」
ぐっ…。いくら私がショパンをダサく土臭くトロく鈍重にガタガタ弾く「迷手」だからって…。
かように、老婦人の耳はとても鋭く、音楽的にはとても優れているのでした。
※ブラームスを貶めているわけでは決してありません。念のため。
↓「モーツァルト」はあるのに「ショパン」はない…。