ごきげんよう。栗毛馬です。

昨日の続きです。


身分不相応甚だしいことを承知で、試着させていただくことにしたカレ90「ブリッド・ドゥ・ガラ」。



「ブリッド・ドゥ・ガラですね?はい、もちろんです。どうぞ!」

にこやかな店員さんが素早くバイアス折りにしてくださったカレを恐る恐る首に掛けて、私はハッとしました。

 

鏡の中のブリッド・ドゥ・ガラと、自分。

 

見た瞬間、ビリビリっと何かが走ったようでした。

 

もしかして、もしかしたら…。似合わないことも…ないんじゃない?

 

この上なく高貴な雰囲気をふんだんにまき散らす、ブリッド・ドゥ・ガラ。


美人でもスタイルが良くも若くもなく、地味で存在感が薄く、色々な店で店員に忘れられてばかりの自分。


なのに、このゴージャスなカレを巻いても、意外と違和感がない。

 

自分に気品があるとか言いたいわけではないのです(滅相もない)。

そうではなくて、きっとこれはブリッド・ドゥ・ガラの持つ特別な力。

 

高貴で優雅。プライドが高そうで、近寄りがたく、高嶺の花の印象が強かったブリッド・ドゥ・ガラですが、意外や意外、包容力にも溢れ、しかもそれが桁外れなようでした。

慕い来る者に優しい。高飛車じゃない。

自らぐんと下まで降りて来て寄り添ってくれる…そんな性格があるような気がします。

 

怒涛の如き敗北感に襲われ、みじめな気持ちでスカーフをはがすことを覚悟していたのだけど…。

少なくとも、スカーフに拒絶はされていないみたいだ。嬉しい。

 

ある種の手応えと安心感で調子に乗って、他の巻き方も試させていただきました。

 

寒いときに便利な、対角線で二つ折りにしただけの「ショール巻き」。


 

肩からかけると、中央の模様が横からチラリと見え、黒の二重線がひゅんひゅんと走る。とても素敵。

何より、地のクリーム色の美しいこと!まるで発光しているかのよう。

 

本来なら苦手なクリーム色が違和感なく似合うと思えたのは、きっと縁の「幅広黒」の引き締め効果。


ネックでしかないと思っていた、強すぎる幅広黒…。

 

その幅広黒は、ぐっと下の方で存在感を放ち、重いと言えば重いけど、耐えられないこともなく、悪くもない。


それに、この幅広黒ラインに囲まれ、包み込まれるとなんとも言えない安心感が湧き上がってくるのです。

守られているような心持ちにほっとする。

 

 

次は、定番のカウボーイ巻き。これは、少し難しいかな。

幅広黒が文字どおり幅を利かせる。

艶があるのにシックでどこかマットな印象の黒は、やはり力強すぎて顔が負ける…というか、勝負にならない。

 

でも、今はなるべく肌に触れないよう、ゆるゆるに巻いているからこの見え方だけど、いつも通りにコンパクトに巻けば、また違った見え方になりそうな予感もします。

ダメってわけじゃない。

 

 

二つ折りにしてから角を結ぶ、「ケープ巻き」。

これも、いい!

柄の見え方がとてもいい。クラシカルなデザインが、マントのような巻き方にぴったり。

 

おや、馬具の部分、黒ばかりかと思っていたけどグレーが使われているんだ…。

だから印象が強くなりすぎず合わせやすいのだ、と納得。

 

これは、スマホの小さい画面ではわからなかったこと。

やはりスカーフは実際に見て、巻いてみないと。

 

 

それにしても。私は感動しながら混乱もしていました。

 

感動したのは、高貴すぎて手に負えないと思っていたエルメスの名品カレが、思いのほか寛容で、親しみやすいと知ったから。

 

混乱したのは、似合うはずのない逸品なのに、妙にしっくり来て、似合うとすら思えてしまったから。


気の迷いか、目の錯覚か、認知のエラーか…。

 

世界でいちばん売れたスカーフである伝説のカレ。しかも「エルメスの黒」が主役のカレが、自分に似合うわけないじゃないか。


なんといううぬぼれか。カレに対する冒瀆ではないだろうか。


暑さで頭がおかしくなって、都合のいい勘違いをしているのではないか?

 

自分には縁がないと思っていた美しいカレが、思いのほか近しい。

そして、店員さんはとてもいい方。

 

手に入れたい気持ちが怒涛のように押し寄せてきました。


どうしよう。

購入するつもりなんて、ないはずだったのに。

 

流れに身を任せたい気持ちもありましたが、踏み止まりました。


 

似合うと思えたのは、このお店のライティングのせいかもしれない。

一応、別の店でも見て、それから判断しよう。

気の迷いなのかどうかも。

 

そして、買わずに店を出ましたが、以来、私の頭はカレに覆われたままなのでした。