ごきげんよう。栗毛馬です。
千葉市美術館で開催中の『板倉鼎・須美子展』へ行ってきました。
この展覧会はインスタで流れてきて、偶然知ったもの。
妙に心を惹かれるものがあり、足を運びました。
趣のある建物。
1階のホール(?)では、シンセサイザー(たぶん)による演奏が行われていました。思いがけず生演奏に触れることができ、得した気分…!
さて、展覧会ですが…。
いやあ、素晴らしかった!
ここ数年で最高の展覧会だったかもしれません。
まず、陳列がわかりやすい。
年代順になっているので、画家の歩んできた軌跡がよく見える。
作品ごとの解説も充実していました。
何よりも…空いているのが素晴らしい!
週末でしたが人影まばら。
静かな空間で、気に入った絵を心行くまで鑑賞できる、このなんという贅沢。
以下、感じたことを記します。
板倉鼎画伯…。写真を見ると、とても美形。
細面にぱっちりした黒目がちの瞳、ふっさりと豊かな髪。
太宰治をぐっと若くして甘くしたようなお顔立ち。
ご本人も、自分が美形だったことは十二分に承知していたのではないかしらん。
というのは、自画像が少々ナルシスティック。「俺格好いい」オーラがぷんぷんするような…。あ、悪口ではないですよ。率直な印象です。実際、格好いいですし。
画風が、パリに渡ってからぐっとあか抜けます。
すごく見ごたえがあります。
エコール・ド・パリの只中に飛び込んで最先端の文化に触れ、色々な出会いがあったのだと思います。
貪欲に、猛烈に吸収しつづけて血肉にした。
勉強熱心で、好奇心旺盛で、変化を恐れない方だったのでしょう。
筆まめな方でもあったようで、たくさんの書簡が残されています。
文章表現も巧みで、心に残る言葉がいくつもありました(会場の壁に大書されているものもあります)。
とりわけ好きだったのは、奥様・須美子さんについてのこのフレーズ。
若くして亡くなられ、残念でなりません。
長命だったならば、その後どのような絵を描いていたのだろうと知りたい思いでいっぱいです。
作品の中でいちばん好きだったのは、こちら。
「金魚と花」
※画像は松戸市ホームページから拝借しました。
金魚鉢の色!クリーミーな黄色に、薄いピンクやブルー、緑などが入って夢のような美しさ。見ても見ても、見飽きません。まるでオパールのよう。
あまりに美しくて、目に焼き付けるように見続けてしまいました。
これは、画像などでは凄さが全然わからないタイプの作品です。実物を見ないと。
実物を前にすると…、脳にぽっと金魚鉢色の明かりが灯ります。
金魚鉢モチーフはこの後もいくつか出てくるけれど、私は断トツでこれが好き。
↓オパールは憧れの宝石…。持っていませんが。
この「黄衣」もよかった。
※画像は松戸市ホームページから拝借しました。
いいですねぇ…。この黄色。
どういうわけか、私はフェルメール「真珠の耳飾りの少女」「手紙を書く女」などを連想してしまったのですが、それらに触発されて描かれたものなのでしょうかね?
「白いシャツの須美子」
あら、これは…ツイリー?
なわけないですね。
ふとしたことでエルメスに思いを飛ばしてしまう、いけないクセです。
金魚鉢モチーフはマティスだし、マネの「オランピア」へのオマージュと思われる作品もあった。
乳白色の表現はフジタのそれだし、モネの「印象 日の出」っぽい作品も。
セザンヌ、キュビズム、フォービズムなどの要素が散見され、とても興味深い。
繰り返しになりますが、絵に対して本当に貪欲な方だったのだろうと思います。
奥様の須美子さんの絵も素敵です。
結婚してから、鼎氏の手ほどきで油彩を描き始めたそうですが、めきめきと腕前をあげ、早々に「サロン・ドートンヌ」に入選されたそうです。
「午後 午後 ベル・ホノルル12」
なんて楽しそうな。
仲間に入りたい…。この画面の一員になりたい!そう思わされるような絵です。
このロバったら!
お二人とも、生きていらしたらあの後どんな絵を描いていただろう…。
たいていの展覧会は40分から45分程度で見終えてしまうことが多いですが、「板倉鼎・須美子展」(と、同時開催の「千葉市美術館コレクション展 両洋のまなざし 石井光楓」)は、たっぷり80分かかりました。
お腹があんなに空いていなければ(ぐるる ぐるると鳴っていました)、もう少しゆっくり見たかった。
1階のミュージアムショップでポストカードを買い求めました。
「公営のところは安いからね~」
そう思って気軽に4枚を選び、会計をしたら
「880円です」
なんと1枚当たり220円でした…!
あまりの高さにのけぞりましたが、今はこんなものなのでしょうかね…。
驚きで呆然としたままお金を払い、ショップを出たところで聞こえてきたのは、どこかで聞いたことのあるイントロ。
あれ、なんだっけ、よく知ってる曲…あっ、「樅の木」だ!
フィンランドの国民的作曲家、シベリウスのピアノ曲の小品。
激しく、強く、ときおり可憐で、どこか寂し気で…格好いい曲です。
ものすごくメジャーではないけれど、ものすごくマイナーでもない曲。
その「樅の木」の生演奏が聴けるなんて、何たる僥倖!堪能させていただきました。
絵と音楽の両方に触れることができた、大満足のおでかけでした。
板倉鼎・須美子展は6月16日(日)までです。