ごきげんよう、栗毛馬です。
あまりにもしょうもない話なので書くのをやめようかと思っていたのですが、アメブロがしきりと「今年の思い出は今年のうちに!」とけしかけてくるので、書いてしまいます。
私の小ささを露呈することになり恥ずかしくもあるのですが、うちの老婦人(母)のひどい話を聞いてください!!
老婦人たら、私が寒空の下、45分も並んで手に入れたかりんとうを、断りもなく人にあげちゃったんです!
こんなひどいことってあるでしょうか。
詳細を記しますが、長いです。
読んでも別にいいことはないので、お忙しい方はスルーしてください。
お時間のある方は、どうぞおつきあいください。暇つぶしにはなるかもしれません。
なお、後になって、恥ずかしくなり削除するかもしれません。悪しからずご了承ください。
では、参ります。
おいしいもの好きのエルメス愛好家の方はご存じかと思いますが、メゾンのある銀座には、かりんとうの老舗「たちばな」があります。
たちばなの創業は明治。商う品はほっそりした「さえだ」ところんとした「ころ」の二種類のみ。
通販やデパートなどへの出店は一切なし。よって、食べたければ店へ足を運ばなくてはなりません。
「たちばな」のことは、7年半前、松浦弥太郎さんの著書「くいしんぼう」で知りました。
あまりにおいしそうに描いてあるので、かりんとうは特段好きではないけれど、「どれどれ」と買ってみたら、唯一無二のおいしさ!
以来、ときたま訪れては「さえだ」を買い求め(「ころ」も気になるけど「さえだ」一辺倒だという松浦さんに倣って必ず「さえだ」)、金色に輝く美しい姿に目を細め、口にしては天上のカリカリに恍惚とし、すっきりした後味に感心し…。
貴重なかりんとうだから大切に食べたいのに、おいしすぎて手が止まらなくなるのも毎度のこと。
揚げてあるのに酸化臭がしないのは、きっと良い油を使っているからと、糖衣がしっかりしているから。
とにかく、最高のかりんとうなのです。
メゾンからは少し歩きますが、ぜひ召し上がっていただきたい逸品です。
母も当然、「さえだ」は大好物です。
師走を目前にしたある日のこと。
「今年やり残したこと」について、母と話をしていました。と言っても、もっぱら食べ物のことです。
これを食べた、あれを食べ忘れた、あの味をもう一度食べたい…。
ふいに思い出されたのがたちばなのかりんとうです。
「あ!たちばなのかりんとう!」
「あ!食べたい、食べたい!」
「今度銀座に行ったら、買って来よう!」
「年末は混むだろうから、今のうちにね!」
それで、師走に入ったある土曜日。
私は一人でメゾンに行き(もちろんスカスカで何もありませんでした)、その足でたちばなへ回りました。
しかし!
行列ができています。遠目でもわかる繁盛ぶり。20人近い人が並んでいるように見えました。何度か訪れていますが、こんなことは初めて。テレビか何かで紹介されたのでしょうか?
私は怖気づきました。
うわあ。すごい人。12月の土曜日だからな。またにしよう…。
並ぶのも待つのも嫌い。かりんとうを欲する気持ちも吹き飛んで、しっぽを巻いて逃げ出しました。
ところが、翌日。
吹き飛んだかりんとう欲が、ブーメランのように戻ってきた。うなりをあげて。威力を増して。
やっぱり、たちばなのかりんとうを食べたい!
だってもうかりんとうの口になってしまっていたのだもの。
かりかり食感欲がむくむくむくむくと湧いてきて、止まらない。
私は激しく後悔しました。
ああ、なんで買ってこなかったんだろう?
年末年始、たちばなのかりんとうをつまみながらゆっくりすごしたかったのに。
ダメなんだよ、たちばなのかりんとうじゃなきゃ。
どうしても、たちばなのかりんとうを食べたい!
一計を案じました。
この間は土曜日だったからあんなに並んでいたのだろう。平日ならば、空いているのではないか?
そうだ、休みを取って、銀座へ行こう!
かりんとうをたべたくてたまらない老婦人も「それがいい!!」と大賛成。
ついでに、今年の「メゾン納め」としよう。平日だもの、何かあるかも?!
それに、クリスマスと年末に備えて、銀座で調達しておきたい食料がたくさんある。行くしかない!
かくして。
有給休暇を取得し、「栗毛馬のエルメス経由銀座くいしんぼツアー(参加者1名)」は敢行されたのでした。
期待に胸を轟かせ、まずは三越の地下でパンと山文さんのおかき、たねやのおまんじゅう一箱を購入。早めに行ったのに、銀座三越の地下は大混雑で、いやはや大変でした!
次はメゾン。
大荷物とともに乗り込んだ店内。空いているだろうと踏んだのに、ここも人だらけ!
おいおい、平日だよ?みんな、会社はどうしたの?私もだけど。
さっと流し見ると、安定の品薄ぶり。さっぱりした店内には、探しているカレは当然ありません。
ウェイティングリストに載せてもらうまでもないや。
バッグもどうせ出てこないだろう。両手に食品紙袋をぶら下げて4階へ突入するのも気が進まず、回れ右して再び寒風の中へ。
メゾン滞在時間、2分未満。最短記録です。
シヅカ洋菓子店でクッキーを買い求めたら、いざ、本命のたちばなへ!
気が急いて、小走りで向かったたちばなの前には、長い長い行列が。
なんだこりゃ!30人以上はゆうにいる。この前よりも、ひどくなってる。
ひるみかけましたが、「これを買うためにわざわざ休みを取って来たんだから!」
気持ちを強く持って、列の後ろにつきました。
大荷物を抱えて走ったから軽く汗ばんで暑い。
コートのファスナーを下ろし、スカーフを緩め、待ち時間対策の文庫本を取り出して読み始めました。
列は、遅々として進みません。
よりによってその日は北風が強く吹く、寒い日でした。
あっという間に体は冷え、慌ててスカーフを締め直しコートのファスナーを上げたけれど、時すでに遅し。一旦冷えた体は暖まらず、指がかじかんで本のページがめくれないほど。
しまいには手袋をつけて、震えながら待ち続けました。
順番が近づくと、ショーケースのガラスに「年末年始営業時間のご案内」が貼ってあるのが目に入りました。
通常、営業時間は「11時から夕方まで」ですが、年末はなんと「11時から13時」。
あ、だから混んでいるのね!
メゾンでもたもたしていたら間に合わないところでした。危なかった!
「ご案内」の影、ショーケースの陳列棚には美しい「さえだ」と、かわいい「ころ」。ころはころころとしていかにもおいしそうです。
老婦人の指令は「さえだを2袋」でした。
「自宅用に1袋、お世話になった近所の方に1袋。買い過ぎないでね!食べきれないから」との厳命でしたが…。
こんなに大変な思いをしているのだから、「ころ」も買ったっていいんじゃないかと思いました。
電車を乗り継いで、走って、並んで、寒くって、荷物も重くて…。
私には、「ころ」を買う権利がある!(お金出すのも私だし!)
母には、「どうするのよ、こんなに大きなのを2袋も!」と怒られるかもしれませんが、いいじゃないか、私は「ころ」も食べてみたいんじゃ。
さえだ2袋、ころ1袋を買って店を出たときには、並び始めてから45分以上が経っていました。
さあ、さっさと帰ってお昼にしよう。
ああ、楽しみだなぁ、「ころ」!
「ただいま!45分も並んだ!せっかくだから『ころ』も買った!」
オーダーを破ったことについての小言はありませんでした(ほっ)。
遅いお昼を食べ終え、早速「ころ」の味見をしたいなと思いましたが…。クリスマスの後、年末の愉しみに温存しておこう。ぐっと我慢。
ところが。
しばらくすると、突然、昔おむかいに住んでいたけれど今は隣県にお住いの方の息子さんが、おかあさまの代理で年末のあいさつにいらっしゃいました!
「仕事で近くまで来たので。母は足が悪くて来られないので代わりに」と、まさかのアポなし急襲です。
息子さん、老婦人とおしゃべりして、お茶を飲んで「では…」おみこしを上げられました。
私が台所で片付けをしていると、
「よかったらこれも持って行って!おかきとおまんじゅうとかりんとうなんだけど、ちょうど今日銀座で買って来たの!」
などと言う声が聞こえてきたではありませんか!
あーっ、今日の戦利品!
しかも、かりんとうまで!
そりゃ、そうなるだろうとは思っていたけれど…。
そうするつもりでもいたけれど…。
その「昔お向かいに住んでいた奥様」は、グルメな方で、若かった母はおいしいものをたくさん教わったそう。
たねやさんとか、山文さんのおかきとか、銀座ウエストのドライケーキとか。
そう、銀座を駆けずり回って買ってきたものばかり。
だから、無念このうえないけれど、言われなくても、戦利品のうち、おまんじゅうとおかきは差し上げることにしようと思っていました。
でも、かりんとうは!
何より、「自発的に供出する」のと、「断りもなく勝手に持ち出される」のでは、こちらの気分が全然違う。
あげるのはいいけど、せめて形だけでも、私の許可を取ってほしかった、と思うのは心が狭いでしょうか。
それに、あちらのおうちは、奥様(高齢で歯が悪く高血圧)と息子さん(高齢で糖尿と通風持ち)の二人暮らし。
かりんとうを差し上げても、困らせるだけのおそれもありました。
歯が悪い人と糖尿の人にかりんとうって…いやがらせに近くないですか?
食べてもらえず、もしかしたら迷惑かもしれないお土産品に、たちばなのかりんとうを捧げるなんて惜しすぎる。
おかきを二種類二袋、たねやのおまんじゅう。それで十分なんじゃないかと思っていた。
偶然とはいえ出来過ぎですが、おかきも、たねやも、その奥様に教えていただいたもの。喜んでもらえるのではないかな、と。
でも、かりんとうは!
しかし、制止することなんてできるわけもなく、かりんとうはもらわれて行ってしまいました。
かりんとうが我が家に滞在した時間は、1時間少々…。
しかも、確認したら、「さえだ」じゃなくて「ころ」をあげてた!
歯が悪い人に、よりによって「ころ」を渡すとは…。
そこは「さえだ」だろ、どんだけ気が利かないんだ、老婦人よ!
たまりかね、さすがに文句を言いました。
「45分も並んだのに!すごく楽しみにしてたのに!せめて私にことわってからあげてほしかった!しかも『ころ』をあげちゃうなんて!歯が悪くて食べられないかもしれないのに!」
老婦人、
「えっ?ころだった?ああ、失敗した!よく見なかったから!」
さらに、「お饅頭におかき二袋もあげたのだから、かりんとうはあげる必要なかったわねぇ。甘いものが多すぎるわ」「なんだか慌てちゃって」
と、しきりに言い訳するばかり。
考えなしに、よく見もせずにあげたのか…。そうですよなあ、アナタはこれらの調達に対して一片の努力もしてませんものなぁ。ろくろく考えもせず、軽やかにあげてしまっても仕方ないでしょうなぁ…。
で、私、謝ってもらってないけど?
「あーあ、45分も並んだのに。三越も混んでてすっごく大変だったのに。今日買って来たもの、ほとんどなくなっちゃったじゃん。重くて大変だったのに。
あーあ、『ころ』食べたかったなぁ」
口調が強くならないように注意しつつ、暗に謝罪を求めてじめじめと言い募りましたが、これも限度を超えると逆切れされることはわかっていたので(「どうしてそんなに心が狭いの?!また買ってくればいいじゃない!!」)、この程度でやめて、収めました。
めったに取らない有給休暇を買い物に費やした挙句、成果物は取られて台無しにされ、しかも怒られたんじゃ全く割に合いません。
でも、後日電話があって、とても喜んでいらしたようだからよかったです。
おいしく召し上がってくだされば、それでいいのです。
それにしても、こんなに食い意地の張ったエルメスブログがあるでしょうか。
長々とろくでもない内容の記事をお読みいただき、ありがとうございました。
最後に、「さえだ」の写真を。
美しいでしょう?
カリカリと香ばしく、糖衣は薄く甘く、実に上品な味でした。
かりんとうの最高峰。
いわば、かりんとう界のエルメスです。
容易に開けられないよう、ダブルクリップのダブル留め。
いい袋なので、湿気ません。