涙そうそう | 自分勝手な“好き・嫌い“で悪いか!

自分勝手な“好き・嫌い“で悪いか!

すごく偏った邦画好きの親父が、持て余す時間で観た映画の好き・嫌いを自分勝手に記すブログ

 成人の日が印象的に描かれているジュブナイル映画と言うと、なぜかこの映画が頭に浮かびます。

まあ、ラストに成人式用の「びんがた」が届くだけなのですが…


 私、長澤まさみさんをそんなに評価していません。東宝シンデレラという恵まれた環境にあり、年に1本は主演映画が公開されるという立場にあるのに、私がDVDを持っているのは、「涙そうそう」と「ラフ」と「曲がれスプーン」だけです。曲がれスプーンは本広監督とヨーロッパ企画のコラボレーションを「サマータイムマシン・ブルース」以来観るためで映画館に行ったので、実質最初の2本が長澤出演として認めていることになります。



 「涙そうそう」監督:土井裕泰(TBSドラマのヒットメーカーだった)、脚本:吉田紀子


 「ラフ」監督:大谷健太郎、脚本:金子ありさ、原作:当然の、あだち充




 さて、「涙そうそう」ですが、親同士の再婚により血のつながらない沖縄に住む兄妹のお話です。

まだ二人が小さい時に、父親は蒸発、母親は病死、離島に住む“おばあ”に育てられます。

 兄貴は、病床で死に際の実の母親に、「これからは、カオルをお前が守ってやって!」と血のつながらない妹を託されます。


 離島には中学までしかないので、高校入学とともに妹:カオル(長澤まさみ)が本島で就職している兄:ニイニイ(兄の沖縄呼称:妻夫木聡)をたよって出てきます。この辺は依然紹介した「旅立ちの島唄」(三吉彩花さん )の事情と一緒です。


 久しぶりに再会した妹は驚くほど成長していて、まぶしい女性に変貌していました。意識するニイニイ。

始めてカオルと会った時のことを思い出す。親どおしの結婚。突然現れた人見知りな妹。追いかけて行っただけで階段から転げ落ちて頭を4針縫う大けが。それ以来実の兄弟以上に仲良く暮らす二人。


 父親が出て行っても、母親が死んでも、ニイニイは必死でかおるを守ってきたのでした。


 カオルとニイニイの同居生活が始まります。女性として意識しているのに、ニイニイに甘えようと隣に寝てくるカオル。島の知り合いの話で盛りあがります。


 ニイニイはカオルに彼女(麻生久美子)を紹介します。愕然とするカオル。カオルもまたニイニイを意識しているのです。 三人でのデートになります。心がチクチクして堪らないカオル。


 ニイニイの夜のバイト先の居酒屋で、ニイニイの親友と4人で盛り上がります。自分の店を持つためのニイニイの耐乏生活の話で盛り上がります。

 店の女将に、「あんたたち本当にそっくりだね。笑い顔なんて本当にそっくり」と指摘されて、カオルが嫌がるとニイニイがカオルをはたきます。「もうこれ以上傷ものにしないでよ。ニイニイに追いかけられたから階段から落ちて4針も縫ったんだ!」とカオルがニイニイと初めて会った時のことを覚えていること(血がつながっていない事)をカオルが覚えている事が発覚しそうになり、カオルは間違えたふりをして泡盛をあおります。


 高校の入学式、新入生代表として(つまり進学校に1番の成績で入学した)カオルの姿を見て号泣するニイニイ。嬉しくてたまらなそうに昼間の仕事に精出すニイニイ。夜のバイト先で、このごろよく来る客から、店の開くための土地を安く譲ることを提案される


 カオルの誕生日祝いの後、彼女を家まで送り、久しぶりに二人きりになって愛情表現するニイニイ。

自分が買った土地で自分だけで店を作るニイニイ。訪ねて来たあの客に支払書類を渡す。


 ニイニイの彼女を訪ねるカオル。大学内を案内してもらう。カオルにニイニイはカオルのお父さん変わりだと釘をさす。カオルは4年も付き合っているのになぜ結婚しないのかと切り返す。彼女は、ニイニイが結婚に踏み切れない訳がカオルだと見抜いている。


 カオルはニイニイが一人で作っている店を訪ねる。開店祝いを知り合いを招いて盛大に開いていると、

本当の土地の持ち主が現れる。ニイニイは詐欺にあったのだった。貯めていた資金を失い、借金まで抱える事になったニイニイ。警察で事情聴取されて自分のアホさ加減だけを責めるニイニイ。


 カオルは今までニイニイが苦しい中から、カオルの生活資金として送り続けたお金を、おばあが貯金してくれていた通帳を渡そうとする。固辞するニイニイ「なんくるないさー」と。


 せっかく作った店が取り壊されるのを切なげに眺めるしかできないニイニイ。市場の人々が心底心配してくれる。その時、ニイニイを呼びとめる男が一人。彼女の父親、医師である。

 娘からニイニイの事情を聴いて、娘と縁を切らせるためにて切れ金を渡そうとする。誇示するニイニイ。男のプライドである。

 電話が何度もコールされる。彼女からである。絶対出ないニイニイ。訪ねて来た彼女に会おうとしないニイニイ。二人に別れが訪れた。


 多くの収入を求めて建設現場で、肉体労働するニイニイ。進路指導でカオルの優秀さを再認識するニイニイ。さらに夜の仕事も入れ、お金稼ぎに邁進する。カオルの進学のためだ。


 少しでもニイニイに負担を掛けまいとバイトするカオル。ニイニイの親友に目撃される。


 仕事先にニイニイを訪ねる彼女。国家試験合格を告げる。ハッキリ別れを告げるニイニイ。

 自分だけを犠牲にして、周りを全て幸せにしようとするニイニイ。別れの原因は身分の差だけではなく、カオルの存在だと指摘する彼女。埋まらない溝は埋まらない。


 エイサー祭りの夜。浴衣姿のカオルと落ち合うニイニイ。エイサー見物を楽しむ。親友からカオルのバイトを知らされるニイニイ。進学のことでカオルとケンカになってしまう。一番学歴を気にしているのはニイニイであり、彼女と別れたのはそのせいだ。人のことばかりかまっていないで、自分の好きなことをしろと指摘する、カオル。その押しつけが嫌だとも伝える。バイト先で見付けた、父親の演奏するバーに行くかおる。朝帰りする。


 寝ないでかおるを待っていたニイニイ。素直に謝るカオル。


 カオルの受験した大学の合格発表の日、わが世の春のように喜ぶニイニイ。みなの祝福を一心に受ける。


 カオルから、「一人立ち」を告げられるニイニイ。


 「私、ニイニイのこと好きだよ。」「私もう、ニイニイから離れて一人立ちしたい(ニイニイと兄弟でいるのは辛い)」心からの愛の告白に戸惑うニイニイ。


 居酒屋で、「それは男が出来たんだ」「かおるをバーで見かける事が有った」と教えられるニイニイ。


 バーを訪ねてみると、家族を捨てて出て行った母親の再婚相手がいた。カオルの父親。

 「かおるに、血のつながりの無いことを話した」ことを聞く。義理の父親を殴るニイニイ、逆にのされてしまう。そして、カオルを育ててくれた礼を言われる。このせいでカオルが一人立ちを決意したのだと思うニイニイ。カオルに一人暮らしを勧めるニイニイ。新しい生活の準備をするカオル。ビギンの”サンシンの花”が流れる。


 「私ニイニイのこと大好き。愛してるよ!」「バカかお前」「長い間お世話になりました」

 表向き笑顔で別れる二人。お互いに姿が見えなくなったところで号泣する二人。



 大学生生活を一人で送るカオル。移動販売車を手に入れて商売するニイニイ。新しい二人の日常。



 カオルから1年半ぶりに手紙が来る。父親について語るカオル。そしてニイニイだけが欠け甲斐のない家族であることを認識したことを。おばあのいる島で成人式を迎えるので、来て欲しいと告げる。

 

 大型台風で、部屋の窓ガラスが割れ、命の危険にさらされるカオル。虫の知らせかニイニイが助けに来る。なんとか割れた窓をふさぐニイニイ。高熱で倒れてしまう。ニイニイを抱きしめることしかできないカオル。ふと気がついて、ニイニイのモトカノに助けを求める。



 救急搬送されるニイニイ。治療を受ける。モトカノに、大学入学とともにニイニイの元を出て、1年半会ってていない事を告げる。ニイニイは急変して帰らぬ人になる。



 おばあの島で葬式を上げるニイニイの関係者。一人鼻筋を押さえて涙をこらえるカオル。そんなカオルにおばあが語りかける。


 「泣きたい時は泣いていいんだよ。」「悲しいけれど、ニイニイは25歳が寿命だったんだ。」「私の好きだった人も戦争で死んだ。いっぱいいっぱい泣いた。でも、そのあと私は結婚してお母さんを産み、今こうしてカオルといると。」「死んだ人は永遠にいなくなった訳ではないニライカナイで楽しく暮らしているのだから悲しむことは無い。」おばあも泣いている。



 この映画の良いところと言うか、唯一の救いは、この後なのだ。今日は書いちゃうよ。成人の日だから。




 喪服のカオルの元に、ゆうパックが届く。ニイニイからのプレゼント。

 成人式用のびんがたの着物。ニイニイが奮発したもの。

 そこにはニイニイからの心のこもった手紙も入っていて、

 カオルを祝福し前途を祝う手紙が添えられていた。


 

 正しく以て、「ニライカナイからの手紙」カオルが号泣して、エンドロールを迎える。


 

 そして、エンドロールの中に、ニイニイから届いたびんがたを着て成人式の記念写真に収まるカオルの姿が有る。



 そう、このクライマックスこそが、成人式の感情を良く描いた映画だという根拠。



 騒動を起こしてみたり、自由にハッチャケて見たり、振りそでをおねだりしたり、成人式に当たっていろいろ我儘しほうだいの若者がいると思うけれど、成人式という式典はそういうものじゃない。


 20年間育ててもらったことを感謝し、20年間生き延びられたことを周りの人々と共にお祝いする日なのだ。



 この映画もまた、大事な人が死んでしまう映画だった。でも、その死から救いのある映画でもある。


 カオルは送られたびんがたを生涯の宝として、兄弟のアルバムとともに一生持ち続ける事だろう。



 若者の決意を示す、良質なジュブナイル映画だと思う。



 ここで秘密を一つ。エンドロール後、もうひとつのカオルとニイニイの物語が有る。それはDVDを借りて確かめてね。





 兵庫で、青山美郷さんは成人式に列席しているだろうか?どうか幸せをかみしめてほしい。