明石家さんま「俺たちは『古いカギ』やで」の自虐コメ 「FNS27時間テレビ」大好評で見えた世代交代
7月20・21日放送の『FNS27時間テレビ 日本一たのしい学園祭!』(フジテレビ系)は、大好評のうちに幕を閉じた。オンエア時にはSNSやニュースサイトでも放送内容が常に話題になり、最後まで視聴者の熱が冷めることがなかった。
それは個人視聴率・コア視聴率という数字にも表れていた。番組全体で高視聴率をマークしており、エンディングを含む21日18:30~21:54の時間帯は、フジテレビの2024年の最高記録を更新した。
テレビの影響力が年々衰えていると言われる中で、改めてテレビの底力を見せつけた。そして、ここ数年ずっと元気がなかったフジテレビが、ようやく復活に向けて反撃の狼煙(のろし)をあげる格好となった。
成功の要因は、「日本一たのしい学園祭!」という明確なコンセプトを打ち出して、オープニングからエンディングまでそれを貫いていたことだろう。
今のフジテレビには『新しいカギ』の「学校かくれんぼ」と『逃走中』という若い世代に支持される人気コンテンツがある。これらを軸にして、若者をターゲットにした番組作りに振り切った。
一般の子どもや若者が全力で何かに挑戦するような企画を多数盛り込んだ。「高校生クイズ何問目?」「ハモネプハイスクール」「生学校かくれんぼ」「カギダンススタジアム」と、これでもかというくらい視聴者参加型の企画を並べて、テレビの力で超豪華な「学園祭」を作り上げていた。
■ハナコ秋山は感動を呼ぶ
中でも特筆すべきは、番組終盤のメイン企画「カギダンススタジアム」である。芸人と高校生がチームを組んで、練習に練習を重ねたオリジナルダンスを披露した。三重高校の学生とともにハナコの秋山寛貴がみせた必死のパフォーマンスは、多くの視聴者の感動を呼んだ。
かつてのフジテレビは「お祭り騒ぎ」をお家芸としていた。『笑っていいとも!』『オレたちひょうきん族』などの番組から、生放送のハプニング性や芸人同士のアドリブのかけ合いを面白がる風潮が生まれた。
1980~90年代のフジテレビのバラエティ番組にはえたいのしれない「熱」が宿っていて、テレビの中で毎日祭りが行われているような状態だった。当時の視聴者はそこに熱狂して、テレビの前にくぎ付けになっていたのだ。
インターネットが発達して、テレビの勢いが衰えた今では、テレビがそのような熱を生み出すのは難しくなった。お祭り騒ぎを得意にしていたフジテレビは、その技を封じられたことで迷走を続けるようになった。
もちろん、その間にも何の結果も出ていなかったわけではない。『逃走中』は子どもや若者に愛される息の長い人気コンテンツになっていたし、『新しいカギ』では試行錯誤の果てに「学校かくれんぼ」というヒット企画が生み出され、中高生に熱烈に支持されるようになっていた。
フジテレビは今回の『FNS27時間テレビ』で、この火種を燃え上がらせることに成功した。出演者もスタッフも熱く仕事に向き合うことで、あの頃のフジテレビのような熱狂が生まれた。
昨年の『FNS27時間テレビ』は、千鳥、かまいたち、ダイアンという今をときめく実力派芸人をメインMCに据えて、フジテレビが「笑い」という原点に回帰するような内容だった。
今年はそれをさらに発展させて、笑いや感動を生む源泉となる「熱」を取りに行った。かつてのフジテレビでは、スタジオの熱を視聴者に分け与えるような番組作りが行われていた。今よりもテレビに権威があり、芸能界に夢があった時代には、そのやり方が通用していた。
■霜降り粗品はヒールキャラに
今年の『FNS27時間テレビ』では、子どもや若者を積極的に企画に参加させることで、視聴者の目線に立ち、視聴者と出演者が一丸となって熱を生み出していった。霜降り明星、チョコレートプラネット、ハナコという比較的若い世代の芸人がメインMCを務め、若者の兄貴分のような役割をまっとうした。
番組全体を通して、MCの1人である霜降り明星の粗品がヒールキャラとして場をかき乱すような言動を繰り返していたのも、一種のスパイスとして機能していた。
お笑い界の帝王が裁判沙汰で活動休止に入っていて、もう1人の帝王である明石家さんまも番組内で「俺たちは『古いカギ』やで」と自虐的なコメントをした。
そんなふうにお笑い界で世代交代の機運が高まっている中で、フレッシュな顔ぶれの芸人たちが大舞台で見事に結果を残した。新しいカギが新しい時代の扉を開く音が聞こえた。(お笑い評論家・ラリー遠田)