30才前後の時、
だいたい今から5、6年前のこと。
新卒採用のメディアを運営する
ベンチャー企業で働いていたことがある。
春夏秋冬理論でいうと夏真っ盛り。
仕事は勢いに乗っていて、
売上は伸びるけど、トラブルも続出。
良くも悪くもバタバタ状態が続いていたが、
とても楽しい時期だった。
その会社では営業マネジャーをしながら、
雑誌の編集長もさせてもらっていたので
仕事が終わるのは毎日終電が過ぎ去った後だった。
運がいいのか、悪いのか、
自宅のある三軒茶屋から会社のある初台までは
毎日30分かけて自転車通勤をしていたから、
終電を気にする必要がなかった。
その日は、帰りが同じ方向の同僚と
終電過ぎの家路を、タラタラとペダルをこいでいた。
すると井の頭通りを渡って、東北沢駅の手前に
差し掛かったところだった。
「あれ、こんな店あったかな?」
怪しげな赤ランプを灯している
バーに気がついた。
10m程通り過ぎたが、気になって自転車を止めた。
友人もつられて止まる。
もう胸のワクワクセンサーが高鳴っている。
視線を合わせた同僚であり、親しい友人でもある彼女の目は、
もう私が店に入ることを察して、「しょうがないな・・・」と言っているようだ。
15平米程の小さい店内は
常連客の溜まり場なっていた。
でも外国パブに入った時のようなフランクさ。
店主の学ちゃんも、人懐っこい。
そして、彼の料理がこれまた上手いとくれば、
OK文句なしって感じで店の常連になることが決定する。
この店に集まってた人々は、
ミュージシャンや有名店の美容師、得体のしれないサラリーマン、
それから常連さんの中にはこんな人もいた。
村上春樹の小説に出てくる
ジョニーウォーカーのモデルになった外国人のおじさん。
その人はいつも、
ブリティッシュ・ウルフハンドという
人間よりでかい犬を連れて店に来ていた。
犬の名は、ベーコン。
(なぜベーコンなんだ!)
飲んでいるのは、人間ではなく犬のベーコンほう。
いつもボウルに注がれたビンビールを
30秒程で飲み干していくのだ。
なんとなく感じることは、
この店に集まってくる人って、
欠けたビスケットのように
心のどこかに欠けている部分があって、
私もそういう一人なんだけど、
でも、この空間では「そこがイイ」って言われている
ような気がして、妙に居心地よく感じてしまうのです。
この、どこかアングラな感じが漂っていて
ジム・ジャームッシュの映画の一コマのような光景が
毎夜繰り返されている店は
ticoという名がついている。
開店時間は店主の気分次第。
20:00を過ぎても開かないこともザラである。
その日から、幾度と無くここへ通った。
というよりは、帰り道にあるのだから仕方がない・・・
夜明けまで飲んで、
朝日を浴びながら家路を急ぎ、
シャワーを浴びて、
また会社へ向う日も何度となくあった。
朝日を浴びて、家に帰るなんて
とても健康的な生活でしょ?
しかし、ここ数年は
足が遠のいてしまっていた。
先日、近くに用事があったので
数年ぶりにticoへ顔を出してみた。
すると、依然と変わらず、
いい雰囲気をかもし出してていた。
オーナーも相変わらず。
うん これこれ。
この空気の流れ方がいいんです。
それから、「爪を噛む男」という話で、
カウンターの女性達や、ソファーの兄さん達と盛り上がる。
もちろん、私からすると初対面ですが。
そんな、ticoも今年の8月で、立退きの関係で、
店を閉めることになったという。
なんか、寂しい気持ちになる。
近いうちに、また行かなくては・・・・
歴史を刻みに。



