MRI | シン・メンズビギ横浜店ブログ

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メンズビギ横浜店スタッフによる、何でもアリのフリースタイルブログ

そこは初めての部屋だった。

周りの喧騒から隔絶された

無機質な空間からは、

微かに空調の音が聞こえる。

見知らぬ男に指示されるがまま

寝台に横たわった私は、

その男の手で上半身を固定された。

これまで多くの人間を手掛けたであろう、

その男は慣れた手つきだった。

どうにでもなれ…

やや投げやりな気分になった私は

天井のある一点を見つめていた。

すると意外にもその男は

枕の高さはどうか?

と尋ねてきたのである…。



そう。

ここはオーダー枕専門店の…

いや、違った。

ここは大きな総合病院内のMRI室だ。



前回の私の記事でも少し触れたが、

先週私は雨で濡れた階段で転倒した際、

現在重症の五十肩に苛まれている

右側の手で受け身を取ってしまったのだ。

かつて経験したことのない激しい痛みに

ただ事ではないことを悟った私は、

その当日病院に駆け込んだのである。


私がすぐに病院に行くこと自体が稀だが、

今回はそれぐらい深刻な痛みだったのだ。

去年反対側の左肩の治療で通った

I整形外科病院が生憎休診だったので、

今回は仕方なく以前通ったことがある

K整形外科病院に行った。


ただ、私は昔からK医師とは相性が悪い。

その圧のある物言いが苦手なのだ。

去年の五十肩治療では

わざとここを外したぐらいだ。

柔和で時おり笑顔を交えるI医師と違い、

K医師はいつも仏頂面で声も響く。

十数年振りに目の前で見たK医師は

だいぶ歳を取ってはいたが、

相変わらずのテノール声には張りがあった。


「どうしました?」


私は去年からの経緯を説明した。

最初は左肩が五十肩になり一年、

やっと良くなってきたと思ったら

今度は右肩が痛くなってきて、

ここ1、2ヶ月は寝てる時も辛いところを

さっき転んで激痛が云々…


「去年はどこかの病院に行ったの?」


「ええと… あの… 何て言ったかな… あそこの… どこでしたっけ?」


「こっちに聞かれても分かるわけないよ!」


「あ、そうですよね」


「じゃあ右腕を少しずつ上げてみて」


「はい。嗚呼、これ以上は無理です…」


「じゃあ次は左腕を同じように上げてみて」


「はい。左はだいぶ上がるようになってて」


「いや、ダメダメ。普通はもっと上がるはず。これ、このままにしとくと一生治らないよ!」


「はい…」


「仕事は何してるの?」


「ええと、接客業です」


「どんな?」


「販売です」


「だから、何を!」


「ああ。洋服です…」


「既往症はある?」


「ありません」


「最近、健康診断を受けた?」


「去年の2月です。特に問題なしです」


「いま飲んでる薬は?」


「痛み止めを時々…」


「いや、そういうのじゃなくて!」


どうも会話が噛み合わない。

一旦レントゲンを撮った後、

私は再び診察室に呼ばれた。


「骨は異常なさそうだね」


とK医師は言いながら

デスクの上のメモ帳に肩の絵を描き出し、

それを指しながら


「肩関節はね、この3つの骨からできているんだよ。ここが鎖骨、こっちが上腕骨、これが肩甲骨。でね、この周辺は骨と骨の隙間が狭いから筋肉や靭帯に支えられてて、表面は軟骨で覆われているからスムーズに肩が動くんだよ。だからこの軟骨や腱が磨り減ると痛みが出たり動かなくなるわけ。何でこうなるか分かる?」


出た!質問タイプ!

と私は心の中で叫んだ。


するとK医師は私の目の前に

使い込まれた肩の解剖図を開き、

その中の一つを指差した。


「ここ読んでみて」


出た!朗読タイプ!

と私は心の中で叫びながらも、


「はい。この現象は加齢による…」


「そう!その通り!」


これまで否定され続けながら

やっと認められた私は、

まるで学校の先生に初めて褒められた

出来の悪い生徒の気分になり

なんだか嬉しくも誇らしくもあった。


頭では分かってはいる。

会話の中に質問形式や朗読形式という

高等技術を巧みに取り入れながら

相手の心理をグイグイ引き込んでいく…

これは私の接客技術にも匹敵する。


しかし一見ちょっとクセ者だが、

繊細な心理戦を駆使しながら

核心をズバリ言い当てるK医師は、

もしかしたら名医なのかもしれない。

私は徐々に親近感と信頼を

彼に寄せるようになった。


心なしか口調が柔らかくなってきた

K医師はさらに続けた。


「でね、ここの部分はレントゲンでは分からないからMRIになるんだけど、大きな装置だから総合病院にしかないのね。紹介状を書くからそっちでやってきてもらって、記録したものを持ってきてほしいんですよ。それを見てから治療方針を決めましょう。とにかくそのまましては絶対に治らないから。薬や注射で痛みを取り除きながら肩を動かしていく。やり方は後でじっくり教えます。時間はかかるかもしれないけど、きっと良くなるから」


「はい、分かりました」


K医師からMRIのレクチャーを受け

数日後に予約された紹介状を手渡されると

私は椅子から立ち上がり、


「ありがとうございました」


とお礼を言った。


荷物を持って診察室を出ようする時だった。

K医師は私の背中に声をかけた。


「そんなに痛かったら洋服を着るのも大変だったでしょう。大丈夫ですよ。一緒に治しましょう。お大事に!」


K医師の思いがけない優しい言葉に

私の頑なに閉ざした心は完全に溶解し、

思わず涙腺が崩壊しそうになった。




枕の高さ調整が終わると

私は耳栓の上から

さらにヘッドホンを被せられた。

そして見知らぬ男は最後に

「では頑張ってください」

と言って私を見送り、

マシーンのスイッチを入れた。

筒状のマシーンに頭から吸い込まれていく。

初めて体験する不思議な小宇宙…

下界から閉ざされた静粛な世界…

徐々に時間の感覚が失われていく。

と突然、激しい機械音が鳴り響く。

そして再び静粛が訪れ、

定期的にそれが繰り返される。

まるで寝台に横たわったまま

宇宙に飛び立っていくようなこの感覚… 

私は既視感を覚えた。

それはピンクフロイドのアルバム

「狂気」に収録されている一曲

“走り回って” のMVだ。



どれぐらい時間が経ったのだろう。
最初のうちは良かった。
子供の頃から飽きっぽく
じっとしていることが苦手な私は
ただでさえこの特殊な状況の中、
さすがに体を動かしたくなってきた。
一度そう思い始めたらもうダメだ。
きっと睡眠魔の仁田なら
そのまま熟睡していただろう。
左の手元にはSOSボタンがある。
しかし閉所恐怖症でもない私が
気軽に押すことはできない。
頑丈に固定されてない足を
かろうじて動かしながら時を待つ。
それからしばらく経ったその時だった。
にわかに寝台の周りで動きがあった。
ふぅ… やっと終わったか…
と思った瞬間、
ヘッドホンから上ずった声が聞こえた。
「そのまま動かないでください!」
ただならぬ雰囲気が伝わってくる。
まさか何かのトラブルだろうか。
すると再びヘッドホンから声がした。
「実は…  ◯✕∋₷〆☆◆♧☆」

えっ! ウソだろ⁉️


実はこの話はここからが面白い。
仁田に言ったら腹を抱えて笑った。
でも敢えてここで終わろう。
何でだと思います?

出た!質問タイプ!

それはこの記事が
あまりに長過ぎるからに
決まってるじゃないですか!

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