2004年1月にジャカルタ郊外のチカランに開校した日本語学校 歩。
このチカラン周辺には、日系企業が集まる工業団地が数多く存在し、
日本語学校 歩のターゲットも、その日系企業で働くインドネシア人従業員であった。
わたし自身は会社勤めをしているため、実際に教えたり、営業したりはせず、全て
インドネシア人のスタッフに任せるつもりであったが、設立時に「これだけは!」と
いうこだわりがあった。
それがオリジナル教材の開発である。
わたしは会社勤めをする前、他の日本語学校でネイティブとして日本語を教えていた
時期があったが、その時に抱えていた1つの不満があった。
それは、教材が、インドネシアの学習者のニーズに合っていないのでは、ということで
あった。
もちろん、日本の、日本語教育に携わる専門家が作成した教材なので、質は高いし、
教材そのものには全く問題がない。
(というより、専門家ではないわたしが口出しできるような問題ではない。)
ただ、問題なのは、一般に「良い」と言われている教材が、必ずしも学習者のニーズ
を満たしているとは限らない、ということである。
歩の学習者は、平日は会社で働く従業員。
仕事で疲れ、しかも週2回(1回2時間)という限られた時間では、一般に「良い」と
されている教科書の語彙数があまりにも多すぎる。
そして多すぎる割には、実際に仕事で使う語彙がほとんど出てこない。
仕事で日本語を使いたくて歩に来ているのに、
「すみません。りんごはいくらですか?」
などという会話ばかりでは、学習者が覚えた日本語を実際に使う機会がない。
そこで、ジャカルタにある国際交流基金の図書館で借りた教科書や、日本から
取り寄せた教科書10冊あまりを参考に、
インドネシアの日系企業で働き、歩で日本語を勉強し、限られた時間で
最大限の学習効果が出せるような日本語の教科書
を開発した。
それが「働く日本語」である。
この「はたらく」には2つの意味がある。
1つは、働く人のための日本語。
そして、もう1つは、日本語が「働く」=役に立つ。
言語を学習する目的は、人それぞれである。
ただ、歩で日本語を学習するほとんどの人の目的は、「使える日本語」を
身に付けることである。
だから、身に付けた日本語が、実際に「働か」なければ意味が無い。
日本語学校 歩が、この「働く日本語」をオリジナル教材として日本語クラスを
スタートさせてから早5年。
この教科書は今でも、歩には欠かせない存在となっている。