手術の予定が決まった日、術前の準備としてやっておくよう指示されたことがあった。

それは口腔ケアだ。

手術は呼吸できなくなるので人工呼吸器を使用するという。

口から気管まで機器が入るというものらしい。

この際、口を通った機器が口腔内の虫歯菌等が付着し器官や肺に入り込んで合併症を引き起こす可能性があるというのだ。

これを防ぐ為に事前に歯科に行き、治療をしておくようにということのようだ。

自分はここ2年ほど前から年2回はケアにいくようにしていた。

この間、虫歯は無く全体的には悪くない状態だった。

お陰で慌てて歯科を探すようなこともなく、かかりつけの歯科に行き、いつのもケアを済ませることができた。

やはり定期的なケアは必須である。

一生自分の歯で食べていきたいものだ。

今回の事前の歯科ケアも虫歯ゼロで手術に臨める。

 

自分は歯科に通うようになってより口腔を気にするようになった。

職場でも昼食後は歯磨きをするようになり、しないと落ち着かないくらいに。

男性では珍しいのでは。

携帯できる歯磨きセットを準備し毎食後、せっせと磨いている。

因みに職場の者には見られないよう隠れてやっている。

自宅では定期的に歯間ブラシが欠かせない。

これも習慣になれば、どうっていうことはなくなった。

こうして自分でできる口腔ケアは無事クリアできた。

 

改めて手術に渡された書類で心臓手術に伴う危険性に書かれた説明がいくつもあった。

その中の一つが口腔ケアだ。

ただこれは何度も言うが自分でできるケア、管理だ。

これ以外は自分ではどうしようもないことばかりである。

合併症について、全身麻酔について、気管挿管について、中心静脈カテーテルについて、輸血について、身体抑制について。

更に事細かに手術に伴う危険性が記されている。

自分が健康なら、こんなに危険がある手術なんか受けられるか、というような内容が沢山ある。

死亡や植物状態になることもあると。

冷静なら、とても同意できるものではない。

しかし、これは手術をお願いした時から自身ではクリアしたこと。

藁にもすがる思いで、やってもらわないと自分は生きていけないのだ。

どっちみち死を本気で考えることになる。

これを乗り越えれば元気で元の暮らしに戻れるのだ。

ただノーリスクではない。

この思考が永遠と繰り返される。

ここまで来ても、だ。

こんな手術の説明を今になって読むもんじゃぁないな。

もう断って帰る訳にはいかないのに。

往生際が悪いとはこの事だ。

と同時に、いかに人間が、全ての生きものの命が尊いかを思い知らされる。

わたし達は自信がコントロールしていない意識外のところで、こんなにも絶妙に機能し生かされている。

自分がコントロールできるのはほんの一部だと。

思いつくのは筋力的な体力の管理、睡眠、、心のケア、食事くらいか。

どの臓器や機関も正常でなければ、こんなふうに普通に元気でいられないのだ。

頭では解っていたつもりだが、しみじみ感じる瞬間であった。

そして、もっと重い病気や緊急性のある状態の人が世の中には沢山いるのだと。

それに比べれば自分は本当にラッキーだ。

先生や多くのスタッフのお陰で、こんなにも準備してもらい手術に臨める。

これを乗り越えれないなんてのは本当に失礼で裏切り行為でもある。

これに応えるのは先生やスタッフに迷惑かけず平然と手術や気回復に努める事くらいだ。

破裂しそうな心を抑えるように平静を装いスタッフとのやりとりを楽しく過ごす日々であった。