春がそこまで来ている。
そう思わせてくれる日差しが病室に差し込む。
自分の病室は西側に窓があり、窓側が年配の患者さんのスペースだ。
2人部屋で自分はホール側だが、よく晴れた日には夕方近くから十分に光を感じれる。

そんなある日、看護士さんから病棟のフロアを業者によるワックスがけをするとの事で、荷物を上にあげておくよう指示があった。
キャリーケースをベットに上げるくらいで済み、あとは部屋からしばらく出ておくようにするだけだ。
他の病室も騒がしく患者さんが出てきて、ホールはこれまで見た事がないような騒がしさだ。
こんなに多くの患者さんを見るのは初めてで、改めて世の中は多くの人が入院していると感じた。
慌ただしく作業が行われている時間、自分は一人ホールで時間をつぶした。

1時間程で自分の病室に戻れるようになり、周りの物を自分の位置に戻したりした。
この作業は全く問題なく一人で出来るが、隣の高齢の患者さんはスタッフさんが戻す作業をする。
患者さんの体の様子では難しいだろう。
隣のスペースと自分のスペースを隔てる棚があるが、結構高くそびえ立っている。
自分の方には棚の上に物は何もないが、隣の患者さん側には何やら物が乗っている。
病状も違えば入院期間も違うだろう。
入院期間が長ければ荷物も自ずと増えるものだ。
その棚の上には多くの積み重なった埃が乗っかっている。
恐らく数年分はあろうかという積り方だ。
とても高いので、ここまでは掃除が行き届かないのだろう。
そんな中、ワックスがけが終わって荷物を戻したりする中で、スタッフさんが上にある荷物を下ろしたり置いたりした。
その時、西の窓から差し込んでいる光に照らされた埃が勢いよく宙を待った。
ふわっと浮き上がり、その埃はゆっくりと自分のスペースに舞い降りてきた。
ベッドの方までは届かなかったが、多くは何もない床に到着した。
その誇りと、この年月を重ね合わせて思った。
数年分の埃がこれまでの患者の積み重ねのように感じ、多くの人を診てきた部屋に、病院にスタッフさんに感謝した。
掃除道具がないので埃はそのままにしておくしかなかった。
清掃の方が毎日掃除してくれることに、すっかり慣れてしまったぐうたらな自分が居た。
退院したら出来ることは全て自分でやる。
出来るかな、今の自分に。
入院というのは本当に何もしなくなると痛感させられる。
最低限、自分の出来る事だけをしていれば過ごせる環境はヤバいと思った。
自分は治療らしい治療は何もない。
注射も点滴もない。
リハビリも苦しいと思った事はない。
ある意味、とても快適な日々を過ごさせてもらっている。
しかし、このままゆっくりしていてはダメだとも改めて思った。
退院が待ち遠しい。