死んだ
消えた
変わった

どれも正しいようで、どれも少しズレてる
命がなくなった訳ではないし
弟という人間が消えた訳でもない
人格がガラッと変わった訳でもない
むしろまったく変わっていない
弟は弟のまま
同じ人格
ただ以前のままであることを
弟自身がまったく分からないというだけのこと

記憶喪失というものに関しても
どう表現すれば良いのか迷うことが多々ある
精神疾患の一つであることを
否定しようとは思わないけれど
『患った』『治る』という言葉をそのままには使えない

患った→記憶を失ったこと?
治る→記憶が戻ること?

どうしてもそうは思えない
では、今の弟はなんだというの?

どんなに難病でも
『こうなったら完治ですよ』
というものがあるのならそれに向かって頑張れるのだと思う
そこに辿りつける可能性が例え1%未満であったとしても
光がそこにあることは分かる
でも、目指すべき確かな場所が分からないとしたら…

まず、その場所を定めるところから始めなくてはならない
それを病院やお医者様は教えてくれない
弟自身、そして私達周りが定めるしかない
そしてまだ私達は、確固たる光を定められていない

ただ一つ言えることは、もう弟が
家族について悩むことはない
自分の子供時代について悩むこともない
記憶を失い、実感を失った
幾ら物語として聞いたとしても自らのお話ではない
それはある種の解放で
『完治』ではなくても安定ではあるのだと思う


出来ることなら
ご家族や恋人や親しい友人が
記憶喪失になった方に実際のお話を伺いたい
勿論ご本人であれば弟にとって最も幸いだけれど
けれど症例があまりに少ないからそれは無理な願いなのかもしれない
諦めるしかないのだろうか