この記事は私の告白をシリーズで綴っているものです。
ぜひ①から順にお読みくださいね。
いじめられっ子の私がアイドルと呼ばれ応援されるようになるまで
①~不幸の手紙~
②~「一生恨むから」~
③~舞台上のいじめ~ ★イマココ
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「この役は石川さんがいいと思いまーす」
「ぴったりだよね」
「もう他の役ないし」
そんなノリで、わたしはクラス劇の主役に推薦されました。
「石川」は旧姓です。
中学1年生当時、わたしは分厚いビン底メガネをかけていました。
そして、身長が高くて色白。
出っ歯を直すために歯列矯正の真っ最中。
上下の前歯にはギラリと光る金具。
お化粧や制服の改造はしておらず、マジメというか地味なタイプ。
ついでに、演技上は関係ないけど、成績優秀でした!
いじめられるクラスメイトをかばい、自分も一緒にいじめられるようになってしまう、胸の持病がある学級委員長。
わたしの容姿はたしかに役のイメージに合っていたかもしれません。
でも、クラスメイトからのその推薦は、明らかに悪意からでした。
半分近くが小学校から持ち上がりのクラスメイトたち。
わたしに「不幸の手紙」をくれた子たちが楽しそうにしていました。
わたしは中学校ではかなりおとなしくしていましたが、この流れは不愉快でした。
なんなの、これ。
顔にも出ていたと思います。
と、そこで意外なことが一つだけ起こりました。
1人の男子が声をあげたのです。
「お前ら、押しつけるなよ。それがいじめだべや!」
彼は小学校からのクラスメイトで、
わたしが嫌われていることを知っていたし、彼自身もわたしに嫌な思いをしたことがあったんじゃないかと思います。
それなのに助け船を出してくれました。
それこそ自分が嫌われるリスクを冒して。
今思うとヒーローみたいな男の子です。
だけどわたしは彼の手を取りませんでした。
「いいよ、やるよ!変なこと言わないでよ、主役でしょ?!」
しばらくおとなしくしていたとはいえ、
気の強い性格が変わったわけでもなく。
もっと言い方があるだろうに、中学生になっても、優しくしてくれるひとにさえこんな態度をとってしまいました。
どうしても受け入れられなかったんです。
彼の「それがいじめだべや」という言葉、つまり「いま自分はいじめを受けている」ということを。
彼に悪気がないのはわかっていたと思うけれど、そのときは反射的に彼に矛先を向けてしまいました。
彼は何も言いませんでした。
わたしはクラス劇の主役を演じることになりました。
準主役の「菌」と呼ばれるいじめられっ子を演じるのは、わたしと同じグループにいた友だちです。
その他のクラスメイトは、いじめっ子、傍観する子、いじめを直視しない先生の役、以上。
わたしと「菌」役の友達は舞台上に2人ぼっち。
他に誰も味方のいない舞台です。
いじめの問題提起をする脚本ですから、当然メインはいじめのシーンです。
友だちが「菌」と呼ばれ、触ったところが「汚い」「腐る」と言われるシーン。
わたしがかばい、「調子のってる」「キモイ」と無視されるようになるシーン。
わたしの持病の発作が起き、胸を押さえて倒れると、「なにやってんの?」「もらしたんじゃない?」と笑われるシーン。
友だちがわたしがと書きましたが、実際は「役」の上でのシーンなんですけど、あまり区別がついている実感なく演じていました。
いじめる役の子たちが役と自分との区別がついていたのかはわかりません。
…ちょっと話がずれますけど、
なんでこの脚本をクラス劇でやらせることを許可したのか、どうしようもない担任だったなーと思います。
幸いだったのは、1つは、いじめられる役が2人だったことです。
演技なんだか本気なんだかわからない、境界の曖昧な、教育的にはかなりアウトだろうという舞台上のいじめ。
1人だったら続けられなかったかもしれません。
もう1つは、あくまで主役であったこと。
いじめられる役というのはただでさえ難しい演技を要求される役です。
そのうえほぼ全編登場し、物語の出来を大きく左右する主役。
ここでかっこつけた言い方をするのはおかしな感じもしますが、
わたしの女優魂に火が点きました。
絶対に演じ切る。見事な舞台にしてやると思いました。
針のむしろのような教室で練習をして、
倒れるシーンがヘンだと笑われては実家のリビングで足がアザだらけになっても練習をして。
不本意な流れで推薦されたいじめられっ子の役が、人生で初めて演じた主役でした。
そして、
幕が降りて大きな拍手を聞き、
小学校の学芸会とはまったくちがう達成感を味わったのも、これが初めてのことでした。
季節が変わり、中学2年生に進級したとき、
重要な出会いがありました。
新しく担任になったS先生が、元劇団員という経歴の人物だったのです。
若いころ地元の老舗劇団に所属していたとかで、かなり本気で演劇をやっていたようでした。
S先生が担当する国語の時間に、たまに演劇の話をしてくれることがあり、わたしはそれが楽しみでした。
ある日の放課後、どういう流れだったか、S先生と数人の友だちとで演劇の話をしていたときです。
そういうえば、あれよかったよな。
1年のときの、いじめのクラス劇。
S先生がそんなようなことを言いました。
学習発表会から何か月も経っているのに、まだ覚えていてくれた。
印象に残っていた。
それも、演劇をやっていたS先生に。
なんとも言えず嬉しかったのを覚えています。
そして、
この先生と出会えたことをきっかけに、
わたしは今度こそ本格的に演劇に、表現に関わっていきます。
3年生になり、担任は継続してS先生でした。
友だちの1人が呼びかけ、S先生を顧問として演劇部を立ち上げることになったのです。
わたしは賛同し、ほとんど3年生だけ、というかほとんどわたしの周囲の友だちだけの演劇部に入りました。
高校受験も控えているので、活動の発表の場は1回きり。
秋の学習発表会で演劇部の時間をとってもらい、舞台に立つことになりました。
わたしにとって2回目の演劇。
1回目の、中学1年のクラス劇とは、まったくちがう体験になりました。
この2回目の演劇で、
わたしは、ずっと欲しくて欲しくてたまらなかったものを、手に入れたのです。
続きます。