ニューヨークのレッド・ストッキングズ | メメントCの世界

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ニューヨークのレッド・ストッキングズ

 

 

さあ、間もなく、「ワーニャおばさん!」も劇場入りです。

 

写真はチラシの裏と、セットの小道具。またしても、逆さになって直せないので、ごめんなさい!

 

今回の物語の主人公は、元女優のヴィクトリアです。女優を引退して、ブロッサムズという女性のコミュニティを立ち上げる、

私と同世代のアメリカ人女性という設定です。

そこには、いろんな人が現れます。物語の中で一番強烈なのは、田岡美也子さんが演じる、ローレンスという老女です。

女性解放論者というと、明治時代に戻ってしまいそうですが、今回は、1968年にニューヨークを行進した、過激な女達の一人が、登場人物というわけです。

過激な女は、「太平洋食堂」の管野須賀子ですが、その頃のアメリカには、エマ・ゴールドマンがおりました。

マザーアースという雑誌や新聞編集を経て、無政府主義者として活動したエマです。

大平洋食堂の執筆時にも、エマについて書いたんですが、私が知ってるエマは、小説「ラグタイム」の中のエマです。

ラグタイムは、ブロードウェイ・ミュージカルにもなりました。

彼女は看護術もあり、また武力闘争も辞さずで凄腕の過激な女でフェミニストで、伊藤野枝に絶大な影響を与えたのです。

 

彼女は産児制限によって女性の出産のコントロールを提唱し、刑務所に2年、ぶちこまれます。

その後、ロシアに追放になって、ロシア革命を見るのですが・・・・1940年、カナダで死去。

戦後のラディカル・ウイメンズを見ることはありませんでした。

 

私は1968年のアメリカのフェミニズムの資料を眺めていてあ!!っと思ったのは、Our Body'sという女性の健康についての本です。

高校生の頃、1980年代前半ですが、それに似た本が我家にあったんあです。ダイヤモンド社から出ていた、「ウーマンズボディ」と言う詳細なる女性や男性の体の図説の入った書籍でした。それを買ったのは看護師の母で、私は母の言いつけで、高校の同級生の母親へと貸して回ったのでした。

ある日、間違って??中身を見て、びっくりこきました。性教育本でもあったし、女性が自分の性器を見るための、スペキュラーの扱い方とか、まあいろんな体位とか、図説でどばっとのっていたんですね。

ぎゃ~~私はこんな本を配達させられていたのか!!!!!

 

なぜ、その本が日本で生まれたのか、それはアメリカの女性たちで医師ではなく看護師などが集まって、自分たちの体の本を作ろうとして作った本が元だったそうです。日本へ版権フリーで渡ったそのOur Body'sを日本向けに変えたものが、「女のからだ」「ウーマンズボディ」になったわけです。今のような版権が厳しい時代には信じられませんが、そういう女性の健康のための本、女性の体を知る為の本が、必用なのだ、という日米の連帯があって生まれたのでしょう。

 

手元に資料で頂いた、大昔の宝島に寄稿された「女のからだ」特に男のためのレビュー 江崎泰子 著のコピーがあります。

その中で引かれた「私の分泌物は清潔なのよ。それは私の体の中から、細胞から出てくるんですもの。私はワイセツではない」

というのがあり、そうそう、健康の問題がワイセツにされがちなのは、今も変わらないなと思いました。

 

男性と違って女性は通常の状態で自分の性器を見ることが出来ません。だから、病気になっても分からないし、正直、母の所に相談に来る近所のおばさんの達の子宮筋腫の大きさの話を聞きながら、そんなことがお腹の中であっては大変だ、しかし、なぜ、彼女らは病院へ行かずに看護師の母の所にくるのか?という大いなる疑問が湧いたものです。

 

それは婦人科に気軽には行けないという羞恥からでした。病気なら病院にかかって何の不都合があるのか?でも、女性の生殖器の異常は正常とのグラデーションの中にあり、生理が重すぎて子宮内膜症になっても分かり難いのです。

実際のところ、もっとそういうことを早く知っていれば、苦しまずに済む人も沢山いるのでしょうね。

見えないばっかりに、手当が後になるのが、女性の体です。

同じく、中絶の問題も子どもを産む、産まないの問題ではなく、妊娠を選択すると言う意味で、女性の体の健康状態の問題なのだという感覚は、反対運動の叫びでかき消されてしまうのでした。

 

今年になって、アメリカの連邦最高裁判所で、女性の人工妊娠中絶の権利を保障したロー対ウェイド判決が、覆され、各州の判断によって既に多くの州で、中絶手術が違法になっています。大きな抗議の声がアメリカ全土であがり、それをもう一度元に戻すには、州ごとの住民投票が必用なのです。大きなデモのニュースがあったのですが、ウクライナのこともあり、あまり報道されていません。

 

1968年の公民権運動の中で、女性たちが人種問題と男女差別問題を同列に扱うべきだと抗議の声を上げます。

なんと、人種差別運動の中である種の分断が生まれます。女性の権利は一番最後だったんでしょうか。赤い靴下を旗印に、彼女達はデモします。赤い靴下っていうのは、青い靴=青鞜の対極です。文芸なんかでちゃらちゃらすんじゃないよ!っていうアンチなんです。労働者階級のフェミニズムなのかもしれません。

 

資料を読んでると、そこまで分派しなくっても、もうちょっと妥協して協力すればいいんじゃないか、と思うのですがみんな過激です。女性らしさを拒否しつつ、結婚制度を否定し、ついでに結婚まで否定したので、今度は既婚女性から総すかんをくらいます。あれやこれやと、ぶつかり合うエネルギーが凄いなあと感じました。

 

それらのウーマンリブの運動の中で、アメリカの女性は1973年に人口妊娠中絶の権利を勝ち取ったのでした。

それまで、中絶は非合法だったので闇の堕胎医という名の医師や医師でない人が秘密裏に処理をしていました。

また、大ウソの劇薬を中絶薬と言って売り、それで死ぬ人もいたわけです。

そしてまた、アーヴィングの「サイダーハウスルール」の様な世界があったわけです。

 

ジェーンと言うのは、シカゴで活動したグループで、ある電話番号に電話すると、中絶の家へのアクセスを教えてくれて、そこで非合法の処置を受けることが出来ました。最初は、闇医者が担当していたのを、グループのサポートメンバーの女性達が自らそれをやるようになります。高額な料金を請求されないように。

しかし凄い勇気なのです。他人の為の法を犯して手を貸すということ、また「サイダーハウス」に描かれた様に、命を奪う処置に手を染めることは、キリスト教徒ならもっともっと難しい事だったでしょうね。

その一人が、ワーニャおばさん!の中にも登場します。

 

田岡さんは全共闘世代で、稽古をしている時にいろんなことを話してくれました。そして、ローレンスという役、そのものの気迫で演じてくれています。彼女は他人の為には身を捨てるようなことをしたのですが、自分の娘クリスをネグレクトし、そして老齢に達して再会します。

 

ワーニャおばさんの中で、このローレンスとクリスのエピソードがとても大きな核になって来ます。

というようにですね、この物語は伯父さんが愚痴を垂れる話ではないのでした!!!

乞ご期待!