祟り神の季節
どうやっても写真が逆さのままです。
東京から東海に入ると、空気はまったりと動きをとめ、寒冷前線の支配が脱したようにぬるりと暖かかった。
ゴールデンウィークは、私の実家ではお茶の季節であり、農村では濃緑色の新茶が出来上がりお祭り気分さえある。
この季節は、夏の陽気と寒気が入れ違いにやってきて、東海では霜さえ降りることもあるのだ。
しかしながら、春は真っ盛りで躑躅やういきょう、ウメモドキなどが咲き乱れる里山はどこも桃源郷に変る。
田では既に水を引いているところもあるので、そうなると一面の鏡のような田園風景に蒼い空が映り込む。
鶯は藪で鳴いている。なんとよい陽気なのだろうか。
その異物の様な茶色い生き物は、庭を片付けていた母の近くに彷徨いでた。
そしてにげもせず、じっと様子をうかがうので、母は気味悪さに家の中に入り、
「犬か猫か分からないなにかがいる。」と孫に告げた。
孫は都会育ちで、畑の中の茶色の生き物を見つけるのに時間がかかった。
私は気味悪さが漂ってくる何かに、視線があるのを感じて、二度見した。
タヌキ、キツネ?
いや、タヌキだろう。
それは体中の体毛が抜け始め、皮膚病に侵された小動物だった。
そしてじっと虚ろな目で、逃げもしないで家の中を見ている。
その視線はこちらを見たまま動かない。
何を考えているのだろうか?
視線が合いぞっとした。
空き缶を投げた。
逃げない。
音を立ててみた。
逃げない。
そして、ゆっくりとそれは植え込みの方へと去っていった。
感染症に侵された動物はまるで祟り神のようだった。
里山の異変はどうしようもないところまで来ているのだろう。
30年前は、野兎があちこちにいて、それも病気になっていなくなった。
雑食のタヌキは餌をもとめて現れて、何に身体をむしばまれたのか?
動物を怖いと思ったことはあまりない。
しかしながら、既に脳機能が失われ、偏桃体さえ、人間を怖がらない動物の放つむき出しの視線は、
何かあれば踏み込んでやるぞ、と言わんばかりで恐ろしかった。
私たちが知らないだけなのだ。
今年の夏はどんな夏になるのだろうか。