感想まとめ | メメントCの世界

メメントCの世界

演劇ユニット「メメントC」の活動・公演情報をお知らせしています。

明治百五十年異聞「太平洋食堂」「彼の僧の娘」には、沢山の感想が寄せられましたので、ご紹介いたします。

 

ドキュメンタリー映画監督 貞末麻哉子

演劇が照らす過去と現在

『太平洋食堂』

. 2013年の初演以来、再々演となる「太平洋食堂」。ご縁あって(がどうしても都合がつかず)ネット生配信で観劇させていただいた。舞台は生だからこそのものだとは重々知りつつ、しかし4K のカメラ複数台でしっかりと撮影された舞台からは息使いさえ読み取れ、この時代だからこそ味わえる新たな芸術との出会い堪能した。背筋が寒くなりながら、熱き時代の熱を感じ、3時間があっという間で感銘感涙した。

 時代は日露戦争が始まった明治37年から44年。非戦を叫び、無政府主義を謳いながらユートピアをめざす社会主義者たちの運動が全国にあった時代の、和歌山県新宮市が舞台。新宮といえば愛おしき中上健次氏が数々描いた生地(土着文学の聖地)だ。

 その小さな町に、大逆事件で幸徳秋水らと共に死刑判決を受けた大石誠之助(貧しい人々に心を添わせる町医者)や、後に幸徳秋水の恋人となった菅野スガ(劇中では幽月名)、また一度は死刑を求刑されたが後に懲役刑に減刑された僧侶や牧師らが登場する。社会主義者らに与えた政府の弾圧の犠牲となった小さな田舎町の人たちのドラマだ。

 観ているとひたひたと背筋に刺してくるのが、この時代の政府がやっていることが今の政府のやっていることと類似していること。まさに、大逆事件が現代に深く打ち込んだ楔(くさび)が描かれる。茶色の朝が迫り来ていることを痛感する。

 同じ時代を生きた 石川啄木はこう詠んだ。

 「時代閉塞の現状をいかにせむ 

    秋に入りてことに かく思ふかな」

 以下、朝日新聞論座に嶽本あゆ美氏が書かれた文章を引用させていただく。

 『それはまさに現代において、思考停止に陥りがちな私達に響いてくる。どうせ何も変わらないとたかを括って服従してしまう方が楽だし、このコロナ禍で声をあげれば顔の見えない他人にネットで中傷される。

 日露戦争後の社会の疲弊は、救い難い社会の貧困を生み、国家主義という抗し難い圧迫を生んだ。まさに1910年の「現代」は、その後の歴史の分岐点であり、この21世紀の「現代」でも繰り返されようとしている。コロナ禍で疲弊する若年層や増える虐待、一人親家庭などの小さき人々の貧困は、本物の「レ・ミゼラブル」なのだ。

 芝居をやってる場合なのか? コロナ感染で中止になれば夢などすぐに破れるし、経済損失は目も当てられない。自問自答するうちに、稽古場で心が崩れ落ちそうになる瞬間がある。今を生きる舞台芸術に関わる誰もが抱える苦しみだ。芸術家はこの先、疫病の未来をどのように生きれば良いのだろうか?

 明治末期を生きた大石らが残した言葉は、俳優の身体から発されて「ともしび」のように煌(きら)めき、明日を生きる力を観客に手渡してくれるだろう。だからこそ芸術は生きる糧なのだ。』

 .....引用ここまで。

 舞台の最終に、今再々演で追加された大逆事件裁判の大審院法廷での弁護士・平出修の最終弁論の言葉は重い。

 今現状に跳ね返って、ずしりと胸に突き刺さる。

以下論座のページは必読。

そしてまだ空席ありとのこと、お時間あったらご観劇ください。

https://webronza.asahi.com/.../articles/2020112100005.html

 

 

 

 

 

太平洋食堂

■作:嶽本あゆ美,演出:藤井ごう,出演:劇団メメントC,「太平洋食堂を上演する会」

■座高円寺,2020,12.2-6

■1911年の大逆事件で起訴された26人のひとり大石誠之助を主人公とした舞台です。 ここでは大星誠之助と名乗る。 最初に登場した若い牧師は語部でした(主人公だと勘違)。 物語りはバルチック艦隊撃破、ポーツマス条約締結のニュースを聞きながら戦争の時代の真っ只中へ落ちていきます・・。

大星はアメリカ帰りの医者ですが料理もできる。 それが彼のレストラン「太平洋食堂」です。 食堂に集まる人々が活き活きと描かれていますね。 当時の階級や差別を乗り越えた会食場面が見所でしょう。

そして<レシピ>という言葉が大星の口からよく発せられる。 ここに彼の思想の鍵があるのかもしれない。 幸徳秋水と平民社を全面で支持しているのですが、何を考えているのか分からなくなる場面が時々ある。 彼が医学と料理、アメリカ=自由主義と社会主義が混ざり合った人物だからでしょう。

作家獄本あゆ美の舞台はこれで2本目です。 最初に観た「安全区、堀田善衛より」もそうでしたが、彼女は僧侶を登場させ語らせるのが巧い。 この舞台でも浄土真宗僧侶高萩懸命が仏教型社会主義と言えるような行動を取り大星を補足します。 僧侶の実名は高木顕明ですか。 同時上演の「彼の僧の娘ー高代覚書」にも登場する(?)ようですがこちらは都合がつかない。

そして事件逮捕後の大審院場面で被告弁護士は「動機信念説」を批判するが大星は死刑、僧侶は獄中自殺で幕となってしまう。 主人公大星は一つの思想に固執するのではなく幾つもの選択肢を考え、悩んでいたようにみえました。 いくつものレシピをです。

*劇場サイト、https://za-koenji.jp/detail/index.php?id=2371

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