かくも碧き海へ漕ぎ出そう | メメントCの世界

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「かくも碧き海へ漕ぎ出そう」

 

椿組公演「かくも碧き海、風のように」の稽古が始まり一週間、稽古場では21人の俳優が、脚本、そして時代と格闘しています。226事件の夜から始まるこの物語、1人の若者をとりまく人々の青春群像です。

 最初の本読み稽古の間にも、脚本は改定を加えられて進化します。真剣勝負と言う感じで、俳優さんが声にしていくせりふは、どんどん像を結んでいくのです。

 主演の三津谷亮さんが演じる「若者」は「若き日の詩人たちの肖像」の主人公をモデルとしています。ただ、時間の制約や舞台の制約もあり、長大な物語のなかの演劇や芸能をめぐるドラマを中心に展開します。しかしながら、第一声を聞いて、そこに風が吹き渡るのを聞いた脚本家は、小躍りしていたのでした。

 

 オペラやミュージカルでゆうめいな「キャンディード」という物語があります。荒唐無稽な冒険譚ですが、純粋で楽天家の青年が一途に、恋人をもとめて様々な不条理な試練、冒険、に出会いヨーロッパから南米までを旅する物語です。筋を追うとあり得ない設定で、ブレヒトとクエンティン・タランティーノと浦島太郎を足して割ったような話です。音楽がバーンスタインで、壮大なので、なんかものすごくその筋に意味があるんじゃないかと、深読みするんですが、ひたすらに荒唐無稽で、漫画ワンピースもこれにはびっくりするくらいです。そうそう、どっか読んだぞ、ああ!ワンピースじゃん、これって。18世紀に哲学者のヴォルテール先生が書いたんですがね。

 

 若者の冒険譚、とくればこんなふうに恋もあれば危険に試練がつきものです。「かくも碧き海~」にももちろん、戦争という不条理な試練がこれでもか、と襲いかかってきます。昭和11年からの時代というものは、重く太平洋戦争へと転がり落ちていく時代ですから、そんなワンピース!海賊王に俺はなる!なんてことは言ってられないように思いますが・・・・

 

 しかし、この時代の日本は荒唐無稽なほど、不条理な時代なのです。そしてアジアの王に俺はなる!って言ってるわけですし、すぐに留置所に入れられちゃったり、友人が戦争で死んでいきます。恋人も警察に理不尽に攫われてムショに閉じ込められます。今という離れたところ、離れた時代からみると、それらは、荒唐無稽なほどにとんでもない理由で戦争してるんです。八紘一宇やら、ナチスやらです。しかし残念ながらそれらはなんだかあれ?というほど現代的でもあるのです。

 

堀田善衛の「若き日の詩人たちの肖像」は時代の変わり目を描き日本という国が主人公でもありますが、その若者の青春は、あり得ないほどの偶然と小説よりも奇なりといわんばかりのスリルに満ち溢れているのです。運命は不思議です。戦争で死なないために若者は日本中を駆け回ります。

 

「若者」を演じる三津谷さんのさわやかな声と、詩の朗読を聞いて、あれ?キャンディードがここにいるぞ!と驚いた稽古始めでした。そう、俳優によって脚本の若者は冒険者に変わり、その物語世界を駆け巡るのです。キャンディードは恋人をもとめ、ルフィーはワンピースを探しに行き、若者は自分の人生を探しにいきます。何が見つかるのか??

 

チケットはお急ぎください。