「安全区/Nanjing」の稽古場より | メメントCの世界

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「安全区/Nanjing」の稽古場より

もう2月も終わります。閏年で一日、時間が伸びてうれしい限り。
こんなことなら、一年が400日あれば、年も取らないんじゃないかと錯覚さえします。
安全区の稽古も始まってすぐに佳境です。



この安全区、2年前の同じ時期に「南京/Nanjing」として初演されました。今回は、台本をブラッシュアップし、南京の中の安全区という概念もまたテーマになりました。
第二次上海事変の後、日本軍が南京の蒋介石を猛追し、第十軍を上陸させてまさかの事変拡大となりました。日本軍は、上海を九月に出て、一路南京へ、南京へと、杭州、無錫、大乗鎮の三百里を攻め上ってきたのです。
 中華民国首都である南京攻略戦の被害を最小限に食い止めるべく停戦の為、南京在住の欧米人によって南京特別市の中、城壁で囲まれた中心部のそのまた中心に作られました。
 中世の城壁で囲まれた南京城内は山手線の内側位の感覚だと思ったら良いでしょう。結構広いです。

 この「安全区」は作られましたといっても、物理的に安全防備したんじゃなくて、この区域は非武装中立地帯だから、日中両軍は攻撃しないでね、という提案をしたわけです。
中心人物だったドイツ人のジョン・ラーベはドイツのジーメンス商会の現地代表でした。そしてナチス党員でもあります。ここら辺のことは、「ジョン・ラーベ」の映画についても以前、書いたので、それを再掲します。
http://ameblo.jp/mementoc/entry-11924081994.html

 初演の後でラーベの映画を観たのですが、堀田善衞の「時間」の中にもラーベや、経済学者で金陵大学教授のベイツ博士、マギー牧師の事は出て来ます。
 この映画が何で一般公開出来ないのか、馬鹿馬鹿しいとしか思えません。反日的だという事を翳して右翼が脅すそうですが、それをして何の得があるのかと思わずにはいられないのです。当時、アメリカではこの南京事件の後、マギー牧師の虐殺フィルムが公開され、ジャパン・バッシングに火が着きました。南京戦を見る限り、国民党の戦略は国民無視で、大失態。全く当事者能力を欠いているとしか思えません。しかしながら、世界に向けた報道という戦場では、確実に日本の方が羅針盤を欠いていたのです。

 「宋家の三姉妹」次女は孫文の妻、三女の宋美齢は蒋介石総統夫人でしたが、この美麗さんはアメリカの議会を周り、中国への支援を得意の英語で全米に訴えました。名門女子大のウェルズリーを卒業していた美麗さんですから、お友達も名門でそれは、バリューがあったでしょうね。
それに、南京戦はアメリカ新聞では大きく取り上げられていたし、日本軍によるアメリカ艦船パネイ号爆撃事件もあり、ごまかし?隠す?次元ではありません。


 よくネトウヨとか政治家が無かったということに、海外で報道が無かったという理由を上げていますが、ちゃんと有ります。日本国内でも大本営発表とてんこ盛りの浄瑠璃さながらですが、あります。所謂、内向きの報道です。何の羅針盤も批評精神もありません。クリティカルという概念は、封建社会には生まれないのでしょう。公への批判=謀反ですから。いわゆる、桃太郎の昔話とそれほど違わないように思います。「暴支膺懲の聖戦」暴なる中国を懲らしめる聖なる戦いが、上海事変の日本の姿勢です。
 
 日本の徴兵制度での兵隊は出身地域別に編成されていましたから、地方紙の記者は従軍し、お国の兵隊の様子を載せました。その為、地方紙には、各連隊の活躍を血みどろ壮絶な南京戦が掲載されているのです。
 改稿にあたって、偕行社の南京戦の出版物を再読しました。いわば、参加者によるオーラルヒストリーです。これもいろんな立場の人が居たことが良くわかります。なぜ、この証言の一つ一つを見ようとしないのか、残念でなりません。

 のび太が、よくゼロ点のテストを隠します。うちの息子もさりげなく隠します。そういうわけには行かないのです。
 見なかった、無かったという戦争体験者の話も確かにあるでしょう。しかし、人間はそんなに沢山の範囲を見えるわけでもなければ、見たくないものが見えるわけでもありません。演劇をしていると、舞台裏で何が行われているか良くわかります。例えば五輪の開会式のような大きなスタジアムで観客はそのバックヤードまで観ることはできません。本当に、人が実際に見ることができる範囲は少ないのですよ。
 マスコミは見せたいことしか見せません。

稽古場で「なぜ改題したのか?」と俳優に問われ、「安全区」と呼ばれたセイフティでも何でもない地域を、限定された地域として語るのでなく、もっと広い概念で描きたいのだ、と答えました。理解してくれたのでほっとしてます。出演俳優は手練れ揃いです。演出の私は、毎日稽古で自分の書いたものに対しての、全てを語る必要が出ます。説明責任です。
というわけで、稽古場は楽しいけれど死闘なんですよ。観て頂ければ分かります。なかなか再現できない座組みですので、是非、ご来場ください。
つづく~~~