まぼろし
とうとう、千秋楽です。
私の南京は今日でおしまいです。これと同じ条件で再演できるかといえば、できないのではないかとも思います。
この南京のために集って、私の脚本という地図を信じて、過去への旅に出てくれた俳優さん、
スタッフのみなさん、ありがとうございました。
何度目かの通しのたびに、ふとよぎるものがあり、ああ、南京だと思いました。
ハードな芝居です。
考えれば考えるほど心えぐられ、いたたまれなくなることもあります。
しかし、これをやらないと次へ進めないと思いました。
なぜか?わかりませんが・・・・・・・・
稽古の間、どうして自分がこんなにこれをやろうとするのか、とまどうほどに強い衝動を感じました。
そう、衝動なのです。これを書いている間、プロットだのなんだのは考えてはみたのですが、結局のところ
こうだから仕方にという感じで、思いつづけて一気に書き上げました。
私は実際に中国へ行ったのは、香港だけです。
見聞きしたこと、それが全てです。脳内劇場のドラマを書き写す間、見てもいない記憶というか、私に中国を語ってくれた、ある女優の目を思い出すのです。
そこには、中国の積もり積もった悲しみを見てきた色がありました。
新京の忘れ去られた残留日本女性、万人抗、奉天、平頂山、南京、北京、大連・・・・・・・・
私の書くものは本当のそれとは違うのかもしれませんが、舞台の上の光景は、やはり見たかったものです。愛おしい時間の中、俳優達はつかの間、あらわれて消える幻のようにその役を演じきります、一期一会、どうか、少しでも多くの皆様にご覧いただけることをお願い申し上げます。