演出の戯言 ・・・ 藤井 ごう
あなたは今の世界をどう見ていますかー
本稽古が始まるこの五月に、和歌山県新宮市にある墓の前で問いかけた。
過去の革命は少数偉人の手により為されたりといえども将来の革命は多数凡人の自覚によって行わるべしー
自分は決してストライキそのものを善い事だとは云えぬ。併し悪いものを悪いと主張する元気や、嫌なことを嫌だと言いぬく自由の精神は最も尊重すべきものではないか、こういう元気と精神を青年の頭から取り去ることは即ち、青年を屠ることと同じであるー
今から百年以上前、こんなことを書き記した人物がいる。
大石ドクトルこと、大石誠之助である。劇中、大星誠之助、大星ドクトル。
大逆罪という汚名をきせられた人物の一人。
その発想の豊かさ、自由さ、奔放さ。そして人間らしい身勝手さ。
この人物に惚れこんだ嶽本さんの筆圧は強く、物語は紡がれていく。
もちろん、これはそこに材をとったフィクションである。
明治後期という時代のうねりに右往左往しながら、煌く生きていた人物たちのイキイキとした『現在』が舞台上にあるよう、
稽古場にて、俳優さん、スタッフさんたちとの対話を重ねながら、
今の日本の問題はこの時代に目をつぶったことの多くから未だあるのではないか、なんて思っている(その後二つの大戦を通り過ぎるのだが)。
チェーホフのようでありブレヒトのようでもあり、大衆演劇的(?)でもあるこの嶽本戯曲フルコース。正に一つのテーブルに寄り集まって、最善を探る日々である。
あなたには『今』がどう映っていますか?
ふと思う。この事件に連座した一人一人、またその友人知人にいたるまでどれほどの物語が蓋されてきたことだろうー
本日はご来場いただきありがとうございます。
最後までごゆっくりご覧ください。
(「太平洋食堂」当日パンフより)
藤井 ごう(ふじい ごう) / 演出家・劇作家・R-vive主宰
1974年生まれ。東京都出身 高瀬久男(文学座)に師事。
2001年、R-viveを旗揚げ、現在まで全公演の作・演出も手がけている。今活躍が期待される若手演出家の一人。
<主な演出>
2007年 青年劇場94回公演「修学旅行」(作・畑澤聖悟) 於:紀伊國屋ホール
2008年 劇団コーロ「ハナシがちがう!」(原作:田中啓文)脚本・演出 於・一心寺シアター倶楽 他
2010年 青年劇場102回公演「島」(作・堀田清美) 於・紀伊國屋サザンシアター
2011年 サイン(手話)ミュージカル「CALL ME HERO!~もう声なんていらないと思った~」 (原作・大橋弘枝/脚本・比佐廉)於・世田谷パブリックシアター
青年劇場104回公演「普天間」(作・坂手洋二)於・紀伊國屋ホール
桜美林大学OPAP47「12人の怒れる女」(翻訳:添田園子)
2012年 足利市民プラザ開館三十周年企画「谷間の女たち」(作・アリエル・ドーフマン)