ガリレイとカラマーゾフの兄弟① | メメントCの世界

メメントCの世界

演劇ユニット「メメントC」の活動・公演情報をお知らせしています。

ガリレイとカラマーゾフの兄弟① ・・・ 嶽本 あゆ美

 今週、世田谷のシアタートラムで観た「ガリレイの生涯」には、してやられました。どうしてそんなに驚いたかというと、私があまりブレヒトについて今まで勉強もしていなかったし、三文オペラがあまり好きではなかったし、新国立で観た「肝っ玉母さん」の翻訳と歌謡ショーに著しく違和感があって、とっつけなかったという偏見も充分加勢していると思います。要するに、色眼鏡で見ていたのですが・・・・

 千田是也の訳とある今回の上演、ガリレイ役の吉見さんが、そこらの大学の研究室に今でも生きている様なガリレイを演じていました。きっと皆が吉見さんを褒めるでしょうから、一言「ブラボー」でよいかと思いますし、他の役者も完璧に役の立場を演じきっていました。さすがのアンサンブル。

 文系の私は天体と聞いただけで、冬に太陽がどこの緯度を通るかという中間テストの問題を思い出して、思わず首をグルグル回したくなります。もちろん私は天動説の方が好きでした。大亀の上にこの地上が乗っかってて陸地の向こうは滝みたいに落っこちてて、その海にはリバイアサンという名の怪獣がいて…何か間違えてるかもしれませんが、プトレマイオスが描いた太陽が地球の周りをグルグル回ってる天球の方が落ち着くのです。何も考える必要がありませんから。だから私は観覧車が大嫌いです。あんなふうに地球が太陽の周りをグルグル回ってるなんて、17世紀の人には耐えられないでしょう。コペルニクスが唱えた地動説を、天体の運行を望遠鏡で観測して証明した(あってるかな?)ガリレオは観覧車のようなものがあったら、24時間乗っているような人間でしょうね。

 この戯曲の中でブレヒトは、「理性」という言葉を何度も使っています。原典にあたってないのでいい加減ですが、「六号室」でも話題になった、動詞のreason 知性=理性でしょうか。人間には理性がある!それが万物と人との大きな境をなしているのだ!とアンドレイは云いました。その理性によって証明された地動説を、ローマ・カトリック教会は悉く「異端」として断罪し、捨てるように強制します。十年前に地動説側に立った男が火あぶりになった話が出てきて、どっちの側に立つのか?という抜き差しならない思想統制が行われていることが良くわかります。異端審問というのは魔女裁判で有名ですが、ことごとくロジックの世界で聖書に反していないかという重箱の隅をつつくような調査をするわけです。キリストが笑ったかどうか?という話が有名ですが、異端審問所では「キリストは笑わなかった」と定義し、キリストの笑いに繋がる風刺や表現を全て異端視しました。結構アホらしいのですが、これと似た事は現代の日本でも良く起きています。ほらほら、歌ったか?歌わなかったか?あの歌を。

 スペインのゴヤが描く異端審問官は、特大浣腸を手に民衆を締め上げています。見ただけでグロいです。どういう嗜好なんでしょうか。ブレヒトの書くガリレオも、最後に拷問の機械を見せられて降参します。枢機卿は云います。「あの男は物理学者だから、拷問機械を見ただけで、その作用が分かるはず。ですから見せるだけでいいのです」理系の頭を知ってる枢機卿とブレヒトです。見込み通り、ガリレオは地動説をひっこめて幽閉されます。

 さて、異端審問とくれば、カラマーゾフ・ブラザーズの次男坊イワンの出番です。

(続く)


メメントCの世界