「三人姉妹」と原発 | メメントCの世界

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「三人姉妹」と原発 ・・・ 嶽本 あゆ美

 題名が剣呑ですが、今まだ脱稿していなくて、毎日チェーホフの三人姉妹を読み返している嶽本です。
 で、本当に「スリー・シスターズ」は今の日本人に必要な気がするんですよ。今年は、ほとんど主要劇団で上演されてます。別にメメントがチェーホフの三人姉妹をやるわけじゃないので、脱線ですがね。
 こないだ、FBで高校の同級生が浜岡原発についての真剣な議論をしていました。地元民ですので、ほんとにみんな言葉を選びますし、真剣に成らざるをえません。匿名のFBの書き込みはあちこちで見るのですが、内容にも寄るのですが、読んでいてあまり建設的な気分がしません。扇動するつもりがなくても、数字、修飾ひとつで他人にはものすごく違ったものに取られますし、二極対立の問題にすり替わっていきます。高校時代には全くお互いを深くも知らなかった同級生が、四十五過ぎになってFBでの再会以来、深夜に熱い議論と下ネタ話を吐露しているクローズドの集会です。あんまりFBに好感を持っていなかったのですが、この議論ができただけで、何だか同級生が居てよかった、などと思ったのです。

 幸いな事に同級生には言うなればその筋?の工学博士やら理系の人、地元の人しかいないので、原発について何というか変な誤謬がないし、ぶれがなくて嫌な気分にならない珍しい建設的な討議でした。みんな、どうすればいいか分かってるんですよ。ほんとにちゃんと止めるしかないと分かってる。でもそれをどう実行するのか?という事はロシア革命みたいなもんです。この場合、革命とは共産化を言うのではなく、農奴制の上に成り立っていた専制君主国の大多数の無産者である貴族やなんかも、長い昼寝をやめなくちゃ近代化できないよ、という意味です。ホワイトカラーの事務職でいいから、手に職つけて働かなくっちゃいけない。女子なら電信係、現代ならテレオペですね。貴族でも貧乏なら、大学出て、鉄道技師になって親方に怒られなくっちゃいけなくなったわけです。それが20世紀のどあたまのロシアです。今からだいたい、110年前。

 で、なんで三人姉妹かっていうと、冒頭、オーリガがイリーナの「名の日のお祝」しかも父親の一周忌あたりに、昔の栄華を思い出して「あーだこーだ」とぶつくさ言ってます。それに対して、妹達は、「そんな事思い出してどうするのよ!」とすげない返事です。で、軍人やらお客がやってきて、今、当時のロシアに押し寄せている変革の波「近代化」と「ロシア革命」ですね、これがもう避けられないのだが、「どうしようもないけどどうしよう?」と言い合います。まあ、貴族で軍人のトゥーゼンバフが「僕は一度も労働したことがない。~あと二十五年か三十年もしたら、人はみんな働くようになりますよ。一人残らずね!」と言い、医師のチェブトイキンも「大学を出てから出たきり、指一本うごかしたことがない。」と言います。そこへ、45歳の優男、ヴェルシーニンがやってきて、未来の素晴らしい生活について語ります。このセリフをある演出家や研究家は、単なるキザな口説き文句で、他にやれることも言える事もないからそう言うのです、という解釈をします。が、私にはなんだか身にしみるのですよ。いきなり、「三人姉妹」のテーマなんですよ。テーマですよね??有名すぎるセリフですが、抜粋です。

 田舎町にうずもれるインテリの三人姉妹に

ヴェルシーニン「まあ仮にこの町の十万の人口、それはもちろん、時代おくれな粗野な連中ばかりですが、・・・・その中にあなたがたのような人は、たった三人だとします。言うまでもなく、あなたがたには、周囲の無知もうまいな大衆にうち勝つなどということは、できますまい。一生のうちには、あなたがたも段々譲歩しなければならなくなって、やがては十万の群衆のなかへまぎれこみ、あなたがたの声も現実の雑音で掻き消されてしまう。だからと言って、あなたがたは空しく消え去るのではない。なんの影響も残さずに終わるのではない。あなたがたのあとに、あなたがたの様な人が、今度は六人~それから十二人、それからまた・・・ついにはあなたがたのような人が、大多数を占める事になるでしょう。二百年、三百年後の地上の生活は、想像も及ばぬほど素晴らしい、驚くべきものになるでしょう。人間にはそういう生活が必要なので、よしんば今のところそれがないにしても、人間はそれを予感し、待ち望み、その準備をしなければなりません・・・・・」新潮文庫・神西 清 訳

 とここまで書いて、自分の「スリーピース」の改稿が終わっていないので、止めました。巨匠への道は遠い・・・・・嶽本


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