「空(くう)の空(くう) 空の空なる 全ては空(むな)しき哉」 | メメントCの世界

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演劇ユニット「メメントC」の活動・公演情報をお知らせしています。

「空(くう)の空(くう) 空の空なる 全ては空(むな)しき哉」
    ダビデの子、エルサレムの王である伝道者の言葉

 明日、いよいよ初日です。昨日も今日も激しい余震があったりして、本当に予断を許さない状況ですが、どうにか本番に漕ぎ着けようとしている所です。現在進行形ですね。まだまだ、被災地は大変ですし、放射能もレベル7と、溜息はつきません。ですから、明日以降、交通事情も不便な中、ご無理を押して来て下さる皆様方に、心より感謝致します。まずこの時期に上演致しますことが、世の中の為になるかどうかはさて置き、心の中のもやもやとした何かを観客の皆様と少しでも共有できましたら幸いです。もちろん、会場では事前に避難誘導の説明をし、いざとなったらすぐ避難ですが・・・・・

 明日14日のダリューシカは田中史子、15日は杉嶋美智子を予定しております。では16日は?ペンディングです。ダリューシカが変わるとアンサンブルも当たり前ですが、変化します。それが生み出す余韻が、稽古するたびに面白く、愛おしくもあります。こうやって、稽古をしている間とても幸せなのですが、これらが全て、社会の安全と健康の上に成り立っていることを今まで思う事は少なかったのです。ですから、どうも心が何か強いものや、声の大きなものに吸い寄せられるような気分になりがちです。

 そこで神様仏様の出番ですが、日本の仏教は割と親切で、聞くところによると現世はダメでも、あの世では万民をあまねくお救い下さるようですが・・・でもって、私が演じるモセイカはロシアの虐げられるユダヤ人で、その神様であるエホバはイスラエルの民を守ってるのか、虐げてるのか、部外者にはよく分かりません。旧約聖書をパラパラめくる限り、いつもとんでもない災厄に見舞われています。三倍以上返す感じで。モセイカは帽子職人だったのですが、自分の工房が火事で焼けてしまった為に、精神に異常をきたしました。彼を襲った災厄は彼の人生と人格を破壊してしまったのです。それ以来、第六病棟に入りまして、あまりにも人畜無害な為、精神病棟の患者の中でただ一人、外へ出ることを許されています。町の人に1コペイカをねだったり、パン切れを恵んで貰っては第六病棟に帰り、全て看守のニキータに巻き上げられます。それを延々、死ぬまで繰り返すのでしょう。

 さて、チェーホフの小説には、「空は空なり!」とヤケクソ気味につぶやく人物がよく登場します。この「空は空なり」を色即是空だと思ってしまっていた私ですが、これは旧約聖書の伝道の書、ソロモン王の言葉でした。栄耀栄華を極めたソロモン王が、自分の得た富も名声も全ては無駄で空であったと言うのです。この言葉の続きをまとめると、「人の為したことは跡かたもなく無く消えるが、自然は変わらない。太陽は昇って沈み、風は来ては去り、潮は満ちて引く…」とまあこういう具合です。これは絶望だろうか?

 チェーホフは「あきらめ」というものを様々なセリフで表現していますが、原作を脚本に起こし始めた頃の空は、何でもない空でした。しかしあの日以来、広い空一面にこの「空は空なり」の言葉がたなびいているような気がします。さて、明日の空は何色なのか・・・・何に祈ったらよいのか分かりませんが、今日一日、制作の仕事をしながら私達の思いが届くのを願ってやみません。では皆様、劇場でお会いしましょう。くれぐれもご無理無き様に。

  ・・・ 嶽本 あゆ美