公演終了 | メメントCの世界

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演劇ユニット「メメントC」の活動・公演情報をお知らせしています。

公演終了 ・・・ 嶽本 あゆ美

二日間の公演が終わりました。ご来場頂きありがとうございました。メメントCに初めていらした方、二度目、三度目の方、あつく御礼申し上げます。演劇が溢れ返っているこの首都圏では関係者の知人でない方にこの公演を知って頂くということは、相当難しく、ましてやご来場頂けるのは奇跡に近いと思います。だから、わざわざ皆さんがコレドまで足をお運び頂いた理由、私はそれを知りたいし、大切にしたいと思います。よかったら是非、教えて下さい。

三回のリーディング、それぞれが全く見事に違ったものになりました。ピアノを弾いている私も毎回、相当違う事をしていました。なぜって、役者の呼吸が違うしBGの長さも変るので。ただ一つ言えることは出演者が呼吸しながら、会話している瞬間瞬間が私の知らなかったというか、書かれなかった行間のドラマでした。何度も稽古し、一幕に至っては今年、七回の本番でしたが、「え、そうだったのか」と何度思ったことか。作者なのに・・・・・やはり、脚本というのは単に設計図であるというのを確信した次第です。

作家の私がよく聞かれることは、「とってもリアルなんだけど、ホントにあったこと?」という質問です。全部が私と云う一人の女が体験していたことだったら、結構とんでもないかもしれません。ただ、全編の中の会話一つ一つ、それは観客の皆さまもどこかで経験のある一断片のはずです。一断片から浮かび上がる、個人個人の「理由」がこの作品をリアルならしめているのでしょう。

中年になって、家庭のいざこざやら何やらの事情が、個人の都合を凌いで行き、若いころにはしなかった遠慮、躊躇が増えてきました。親も衰えるし、自分もはあ・・・と溜息をつくことばかりです。日常生活ではそんなにドラマチックなことは起きそうで起きませんが、もしも何かの歯車が一つ狂ったら、のっぴきならない事情が生まれることもあるかもしれません。自分の選択の一つ一つが、ある事を遠ざけ、ある事を呼びこむわけですから。案外、自分が平凡だと感じている日常のすぐそばに、ぽっかりと黒く深い穴が口をあけていることもあるのです。その崖の縁に立ち止まり、ぞっとしたまま動けなくなることもありました。深呼吸してその穴から立ち去る時、安堵とあきらめの溜息が出る自分は、いったい何に絶望し、何を切望していたのか、その感情の根拠さえもあいまいになります。

若い頃、そのような薄氷を辛くも踏み破らなかった事にあまり気が付かなかったのですが、何年も経った或る時それを思い出し、苦笑いすることが多々あります。きっと、穴に落っこちなくて済んだ理由を積み重ねていくと、こんな話がひょこっと生まれるのでしょうね。まあ、この先もそんな「理由」を拾い集めて身を晒すようでいて、そうでもないようなドラマを書いていくのでしょう。もっとも、私の普段の作風は、演出曰く「重くて、硬くて、長くて、疲れる。ついでに性別不詳」なのですが・・・・・

次回の準備をしています。手ごわいChekhovですが、読んでいると「あるある、これってあるよね」みたいな親近感が湧きます。又、創作の進み具合などご報告したいと思いますが、頭の中のシステムを入れ替えるので、しばし私の日記はサボリがちになります。何しろ、バッファーもメモリも容量が少ないもので、一度にいろいろできないわけです。ごめんなさい。
まずは兎に角、皆さまにお礼まで。ご来場、誠にありがとうございました。よいお年をお迎えください。