闇の中 | メメントCの世界

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闇の中  ・・・ 嶽本 あゆ美

 物を書くようになって十年、紆余曲折がありました。未だに葛藤は収まる気配も無いけれど、四十も過ぎて疾風怒濤が収まらない精神状態というのも、いささか何ですわ。人間というのはつくづくどうしようもないと思います。

 私の日常の風景として、日曜日午後にママ友同志が集まってダベリング大会するのが恒例なのですが、皆、何がしかの闇を抱えてます。大抵は誰もがその闇のチラ見せ具合で相手の懐を推し量ったり、距離を変えたりと大人の対応をしてくれるのですが、やっぱり、のっぴきならない事を抱えていたりする事もあるんですね。

 ネタばれするかもしれませんが、この「理由」という作品は、三年前に第二部を一番先に書いたのです。私の最寄駅の隣は大昔、「金妻」で有名になった駅。そこにある「イトーヨーカドー」のマックか何かでぶらぶらとコーヒーを飲んでいたところ、ある会話が耳に飛び込んできたんですね。まあ、そこに努める中年パート女性の取り留めのない会話ですが、ある出来事をすごく楽しそうに話してるんです。当時、私は次男を出産して半年位だったのですが、ボーっとベビーカーを押しながらそこに居た。「彼女」はどうやらパート先の上司にマックでコーヒーをご馳走になった。それは相当、「彼女」にとっては特別な事だった。

 うーん!分かる分かる!そういう気分でした。そんなわけで、第二部のストーリーがダダダッと雪崩のように頭に落ちてきたんです。そこまではよかったが、その時は劇作家協会東海支部主催・劇王5という催しに出演要請があって、そこでその短編を上演する事になっていた。しかも時間制限付き。そのアイデアを20分の芝居に収めるには、その後、血みどろの戦いになりました。

 結論から言うと私は切れなかった。演出と女優が切った。名古屋に向かう新幹線の中で・・・・未だに頭が上がりません。作家って切れないんです。ほんとうに駄目です。未練がましいふぬけです。
 
 結果として、劇王で私たちは負けました。客席で本番を観ていた私は勝ったと思った。でも負けました・・・・悔しい。どれだけ悔しかったか・・・それはあの話がここまでの三部作になった事で分かるでしょう。そう、作家ってしつこいんです。いやらしい人種だね。

 長くてすみません。もう一つだけ。
 高校時代、変わった数人の国語教師と出あった。一人は現代国語でテストの答案に点数以上のコメントをくれた。それは嬉しい恥ずかしいようなコメントだった。あの頃、必ず高校の国語教科書には夏目漱石の「こころ」が載っていたように思う。その頃の私は、はっきり言って何の興味も持てずに、「先生」が死んだ理由についての作文を書いた時、「男の人って変ですね」と書いた。それ以来、コメントは無くなった・・・・何故だ??
(続く)