私のページにお越し下さり、ありがとうございます。これは、私が実際に経験した実話です。事実だけを綴っています。


はじめましての方はこちらから見ていただけると嬉しいです☆登場人物紹介を追記してます 





前回↓の続きです



エンジンをかけ、シートに身を沈めました。

勢いよく熱い排気ガスが

車内に入ってきました。




その排気ガスの臭いで

一気に気持ちが悪くなりましたが、

少し我慢すればすぐに眠くなり、

意識の無いまま逝くはずだと思い、

気を取り直して

赤ちゃんがいた頃のように

お腹に手を当て目を閉じました。




そして、

今までの人生を振り返ってでもみようかと

思いました。




しかし

徐々に強まる排気ガスの不快さからか、

それとも恐怖からか、

深く息を深く吸い込むことができず

人生を振り返る余裕など一瞬でなくなり、

すぐに苦しくなってきました。




これは単に

息ができないための酸欠の症状なのか、

ガスを吸い込んでいるせいなのか、

判別がつきませんでした。




どちらにしても息を止めては

意味がないと考え直し、

気を取り直して

深く呼吸しようとしました。




でも、やっぱり息を吸えない…

まだ全然意識もなくならない…





私はパニック状態に陥り始めました。

どんどん苦しくなってきて、

とうとう我慢ができなくなり

車のドアをこじ開けようとしました。




しかし、もたついてしまい、

思うように身体が動きません。

さらに

ドアを目張りしているガムテープのせいで、

力いっぱいドアを押しても開きませんでした。




ガムテープを剥がしながら

なんだか、少し、どうでもいいような

気持ちになってきました。

全身の力が抜けていくようでした。




しかしその時、強烈な吐き気がやってきて

車内に嘔吐することが憚られたので、

はっと我に返り

必死になって再びドアを押しました。




バリバリという音と共にドアが開いて、

その隙間から

上半身だけが車外に飛び出しました。

その勢いで地面に頬を叩きつけられました。




私は雑草の隙間から大きく息を吸い、

おかしな格好のまま空嘔を繰り返しました。




「何やってるんだろう…」




そうは感じながらも

あまりの苦しさに、

自分の馬鹿さ加減を

笑うこともできずにいました。




その後もしばらく

激しい頭痛と倦怠感に

身動きできずにいると、

追い打ちをかけるように

雨が降ってきました。




ああ、

いつか同じような雨を見たことがあるな…




私は瞼を閉じて記憶を探りました。

そこには雨の中、

先生を姿を探している私がいました。












いつの日だったか、

先生を驚かせようと思って

先生の住む団地から5分程の場所にある

人気のない駐車場で

先生を待ち伏せしたことがありました。




予測したよりも意外と先生は遅く、

待っていると雨が降ってきました。

今日と同じような小雨でした。



「遅いなあ、先生」



寒くなってきたので、

足踏みしながら先生を待ちました。




何時間か経って先生の車がようやく現れ、

びっくりしながら嬉しそうに

先生が車から降りてきました。



「ナオコ?!待ってたの?

 アホやなあ…」

 



そう言って先生は私を抱きしめました。




「会いたくて待ち伏せしてみた…

 先生、

 待ち伏せなんかしても大丈夫だった?」




先生の腕の中で私がそう聞くと、

先生は優しく答えてくれます。




「大丈夫」




そう言って先生は私の手を握ると、

またくしゃくしゃに私を抱きしめながら

言いました。



「ナオコ…寒かったやろう?」





私は笑って答えました。



「大丈夫、先生に会えたから」




笑い合う二人の会話を見守るように

止みそうで止まない小雨は、

降り続いていました。















「大丈夫…」



記憶から醒めて、

今度はひとりで

草むらに顔を突っ伏して、

かつての日の言葉を

もう一度つぶやいてみました。





そして無様な格好で雨に打たれたまま、

私は眠りはじめました。





【次へ続きます】