日本国内、日帰りで行ってくる、と他人に言うと「大変だね。」と返ってくる。

全然大変じゃない。
何なら、激しく潔癖症なので、よほどヒラマツやリッツカールトンや馴染みのラグジュアリーな定宿でない限り泊まりたいと思えない。自宅に帰りたい。最終で東京に戻ってくると、ホッとする。
なんなら、夜飯だけのために、夕方から超ショートステイで蜻蛉返りする自体が、最高の贅沢だと思っている。
観光?要らない。





そんなわけで、かなり久々(1年半振りくらい?)になってしまったが、長い付き合いの友人…後輩であり先輩でもある友人に会いに、新幹線で名古屋へ。


会いたくてたまらなかったろうと年末に送ったところ「ひとつも会いたくはないが、もつ鍋さんを連れて行きたい店がある。」「もう予約した。」と返ってきた。


こういう粋なところ、誰でも真似はできないなと思いつつ、にしてもどんな店かもトンと検討がつかぬので、さては一周回って小汚いぬるぬる居酒屋やもしれないと、割と本気で思っていた。





店前で、息を飲んだ。
飲みすぎて、ブレた。本当に。





入店し、カウンターと、金箔の壁と、シェフと、生花と、一点の汚れもない整然と陳列された美しい器と調理器具、これらに順に目をやりながら、引き続き僕は、気圧されていた。

だからか「へーぇ、いい店!すごいな〜!」

といった軽薄な言葉が突いて出るはずもなく。

友人は気付いていただろうか。





メニューが面白い、何が出てくるか分からない、どんなジャンルかも分からないんだ、ここは、

と嬉々として僕に説明する友人

嗚呼、だから「どんな店」かも伝えず、待ち合わせも駅だったのだな

(メニューは末尾に)



まずは、泡









ほぼ月1か1.5ヶ月スパンでメニューが変わるそうだが、いくつかレギュラーがあるようで




飾り立て生ハムはよくあるが、美しいものとそうでないもの、千差万別

すごい…インカの目覚めとモッツァレラの…お焼きだそう

こちら、レギュラーメニューではなかったようでもういただけないのが残念



お焼きっていうのもすごいよな、とまたしても嬉しそうな友人



いやぁ…チーズやもちもち生地が好きな客は多いし、それを知って「ほぅら伸びるだろ、もちもちだろう」と出してくる店も多いが、こちらのそれは、あまりにも品がいい

それは、この後も徹頭徹尾





このままただの刺身でもいい、綺麗な平目、中に透明に澄んだ数の子






このジェノベーゼソースをつけて味変を楽しむ

イタリアの風だが、不思議と全く平目の味を殺さない








向こうに何か見える

先ほど、シェフが指をぽすぽす入れて穴を開け、オリーブオイルを垂らしていた、文字通り出来立てフォカッチャ






来た…




コース料理で、なんの躊躇いもなく業務用パンを出す魂売った店が9割9分なこと、それに気づきもせず「焼き立てパンだぁ」と歓喜する表層しか見えていない客が多すぎることはいつも憂いており、それは論外として、自家製にしてもここまで生地が美味いのは初めてだ




もっちゅり指に生地がつくような高加水が流行っているが、ただ高加水なだけでなく、みっちりきていながらもふかっとして、何よりこちらの料理と合う





日本の








なお、友人は見た目に激しく反して昔から激しく下戸

飲めない相手(下半身期待可能性ある異性としか飲みません女子含め)の時、僕も飲まないことが多い

そんな中、僕が気にせず飲むのも珍しい






白子がまたすごく

このカリッとしたの、蕗の薹だぜ

苦味がたまらん










「春だね」と友人に言ったら

「早いやろ笑」と一蹴されたが、この場で言っておく友人よ

料理界では、もう年始から春野菜は出ているのだよ

たらの芽、蕗の薹、うるいなどが、鮨屋や天ぷら屋ではもういただけるのだよ







なんて思っていたら、すごいのが

思わず2人で注目する



うわぁ…




こちらも、レギュラーメニューらしい

炙るというか焼き石で丁寧に焼きが入れられた、なんとも美しい鯖鮨



こんなの食べたことないぜ!

鯖鮨数あれど

鯖の肉厚、脂分の旨味はさることながら、シャリが美味い

酸味が立ちすぎず、鯖に合うようにか、かなり粒の細かい米が使われていたように思う


添えられた菊芋、そして何かと思えば、ガリのソルベ…すごい、本当にガリの味だ













たまご

かわいい器からは







ほぼ蟹じゃないかと思う茶碗蒸しが




これは高いコースのグレードアップ食材では?

と、カウンターの奥の甲羅を羨望の眼差しで見つめていたところ、我々のところに来た

コースに含まれているなんて、、、






おかわり




いくらでも出してくれるので、驚くことなかれ、
僕は5個くらい食べたぜ







これもすごかった

まず、鰆がところどころ、オーロラ色に光っている




このソースの添え方にシェフの美学が込められているようで、流しのそばで、ひと皿ひと皿、仕上げていた


ロマネスコを初めて食べたらしい友人に、僕はドヤって説明する(偶然にもこの2日前に、別の友人にも説明した)








そしてこちらもレギュラーとのこと

こんなに美味い肉があるかと

綺麗すぎる



ここで、友人が粋な食べ方をした

フォカッチャに挟んで、ステーキサンドにしたのだ

すかさず真似をした

最高すぎる

この時点で決めた

僕はこれを食べにまた来る、必ず来る






牡蠣の土鍋ご飯





牡蠣そのものもだが、出汁がよすぎるのか、澄んだ味がする米も美味い






それがリゾットに

あおさとチーズで



友人が零した

リゾットにするのが勿体無いと

確かに

と思っていたら、リゾットのおかわりを勧められた

もちろん、2人してもらった







デザートは、柿とチーズ

儚い





数多くの飲食店に足を運んできた

大なり小なり皆、そうだろう

どこまで覚えてますか?

特にコース料理

味を舌が再現できる?シェフの食材やソースの説明を、写真を見てリピートできる?

できないだろう人が多すぎて、「うわぁ」とその場で歓喜して、美味けりゃ何でもいい、雰囲気良ければいい人が多すぎて、他人と飯を食うのが年々しんどくなってきた僕だが、僕自身も覚えていないことも少なくなく、自己嫌悪に陥ることも多かった

覚えていないのは、ひとえに己の意識欠落で、作り手のせいではない、これはどんな店でも



ただ

この日は、今もなお鮮明に舌が、脳が記憶している

そして、この店のために毎回名古屋まで足を運びたい、年に何回もと心から思った








あっけに取られつつ、最終新幹線でメニューを見返した





お土産に持たせてもらったフォカッチャ(乗車即食べてしまった)と牡蠣の土鍋ご飯をチラ見して、紙袋を見て驚いた





こんな店、どこにでもはない
ない、ない
誰かと来ようか、誰かに勧めようかと思って、ふさわしい人はほぼ見つからなかった(ごく数名を除き)
やはり、この友人とまた来るしかないな、それか1人で


なお、飯の話ばかり連ねたが、何だか帰りの新幹線、到着した東京駅、ここ最近一番の至福を感じた
会いに行ってよかった
旧友ゆえ気兼ねなく何でも話せる、それだけではない
「許せない」が多い生きづらい世の中に嫌気がさしている中のオアシス、だからだけではない
彼の話、僕の話、どちらもしつつ、飯を楽しむことを1番にできた時間だった

僕の話を聞き、いじりつつ笑いつつも、それを「暇だから時間があるから、そんな趣味に時間が充てられるんだな」とか「可哀想」とか「できない奴」と短絡的に受け取って不憫のレッテルを貼るのではなく、言わずして言外の意、背景を想像し、評価してくれる(そしていじる)

それは、僕をよく知ってるからこそだ、というのも違うと思う
それなり知っていても、表層しか見ない人もいる


聡明さと、愛情の深度、その大きさ深さだろう
だから好きなのだ
僕を否定しないから、褒めてくれるからとか、そん浅い意味ではなく



ありがとうありがとう
次は、再来月でいいですか?笑