周りに一切何もないところで降ろされた。
外観から身震いするほど三ツ星オーラが漏れる。
動画なんか間抜けに撮っているが、エントランスからこちらをスタッフさんが見ているの、気づいていたよ。ちょっと恥ずかしい!
いざ!
数ヶ月越しの夢、この旅の目的!
店の看板の横に、小さいおうちがあしらわれ。
ミシュラン三ツ星の勲章。
とんでもなく広い店内、スタッフ全員がとんでもなく洗練されている。
日本の外資系ホテルや三ツ星には、バイト風情の心許ないスタッフも少なくないが、こちらは全員が支配人級に身のこなしから身なりから全てプロだ。
一方で、みすぼらしいなりの僕、こちらが緊張する(帰国後、この日着用したフォーマルな服は、恥と思って廃棄した)。
案内された窓際の席。
なんて美しい店内。
そして、21時前の明るさと思えない。
すぐに担当スタッフがメニューを決めましょうとやってきた。
行きの機内で観たノッティングヒルの恋人のジュリアロバーツにそっくりな、ポニーテールに黒いパンツスーツがよく似合う、何ら所作に瑕疵がなく、それでいて1人客の坊や感丸出しの僕に恥をかかせないためか、絵に描いたように優しい笑顔を終始絶やさなかった。
(ホテル然り、こういうちゃんとした店では、外国人と分かり次第、当然、オール英語)
女性スタッフ「テイスティングメニューとアラカルト、どちらがいいかしら?」
僕「テイスティングって、少しずつたくさんのプレートですよね?アラカルトって一品もの??
ん?はて?」
女性スタッフ「テイスティングは、そうね、全部で15プレートくらいあるわ。アラカルトというのは、これよ(メニューを見せてもらう)。コースのことだけど、ここに書いてある、上の何品かは全て出てくるわ。その後、前菜、メイン、デザートを、それぞれ好きなものから選んでもらうスタイルよ。」
なるほど、プリフィクスのことか!
テイスティングコース!と思ったけれど、15品は多すぎる気がするし、選べるのは嬉しいからアラカルトにしよう。
女性スタッフ「いいと思うわ。前菜、それからメイン、デザート、どれにする?」
僕「(前菜から肉が登場するものもあったけど、後半腹パンになることを危惧、かつ、ここ数日ほぼ野菜を摂取しておらず唇が裂けまくっていたので)この、えっと、サラダ?海鮮のをお願いします。」
女性スタッフ「いいチョイスね。」
僕「メインは…魚…monk fishってなんですか?」
女性スタッフ「モンクフィッシュは…魚よ。そりゃそうね笑。そうね、大きいお魚、白身魚で、淡白だけど噛みごたえがあって、ソースにもよく合うわ。」
僕「食べたことないな。挑戦してみようかな。」
女性スタッフ「今日が、その日(初めて食べる日)に相応しいわ。きっと気に入るわ。あとはデザートね。」
僕「デザートは、とてもこってり、大きいのが好きだから、このカカオスポンジ?のやつにします!」
女性スタッフ「これで全て決まりね。じゃあ、スタートよ。楽しんで。(ウインク)」
メニューを決めるのに、逐一こんな粋な返しをくれる店、少なくとも僕は知らない。
この後、これまた満面の笑みの若い男性ソムリエ(マーベル作品のヒーローのような)が、1杯目は何にするか聞きに来た。
僕「チャコリ!僕、チャコリ飲んだことがなくて、サンセバスチャンに来たらまずチャコリと思ってました!」
ソムリエ「それは嬉しい!最高のディナーの始まりにはピッタリな選択だと思うよ。」
チャコリがやってきた。
(不慣れに、石原裕次郎ならぬ物真似の石原ゆうたろうのようにワイングラスを揺らしてテイスティングした僕)
スペイン人はディナー時間が遅いと言ったが、見ての通り。
20時半に来た僕がほぼ1番乗りな勢い。
素晴らしいね。アンチ朝型!
ちなみに、1人客なんて僕の他にいるわけないと思ったが、この後あの右側の柱のところに、台形のハットを被ったスマートな黒人男性が座して、黙々と1人コースを堪能していた。
アミューズ
鹿肉(ノロジカだそう!鹿自体メインの肉で数度食したくらいで詳しくないが、メジャーな品種なのだろうか)、海藻、そして、アルスイタリカのキャビア
超一口なので、どれが海藻なのか(この外側の皮なのか、アオサみたいのが鹿肉とともに中に含まれていたのか分からなかった)分からないが、キャビアの盛り方が贅沢
調べたところ、アルスイタリカとは、世界中の高級レストランに卸している最高品質のキャビアだそうだ。
麻布台ヒルズ、原宿ラフォーレ近くにもキャビアの店があるが、いずれも人が入っているのを見たことがなく、いつもガラガラ。
さすがに「食の何たるを分かった気になっている人たち」も、キャビア高すぎて(コスパ〜と思って)手が出ないのだろう。
なお、キャビアに関しては僕も分からない。
ランプフィッシュを出されても分からなかったら嫌だな…
ただ、熟知するには触れる機会が少なすぎる
夕陽?が当たって、キャビアも真っ暗に見えるが本当はとても美しいのだ
テーブルクロスから皿一つとっても、汚れもヨレもない。
ホテルやそこそこの店でありながら前の客の食べこぼしまみれの店とは違う(当たり前のようで当たり前ではない)
アミューズ二品目
「われわれの 味付けされた オリーブ」
٩( ᐛ )و?
訳は間違っていないと思うが、どんなものが来るか皆目想像がつかず
そしたら、こんな美しい一皿が
女性スタッフ「この、木に刺さったクリスピーなもの(チーズ?)と合わせて、一口で食べてね。楽しんで!」
綺麗すぎる…
しかし、どうやってワンバイト、一口で…
このサクサククラッカーみたいのに乗せるのも無理そう(手に流れてデロデロになりそう)なので、みっともなくなるよりはと、3回に分けてスプーンですくった
ちょこちょこクラッカーに乗せて
真ん中のはオリーブの実そのものなんだけれど、美しい緑のソースはなんだったのだろう
違う可能性大だが、バジルの葉っぱと、上のまんまるはサンセバスチャン名産のラグリマ(涙豆)かなと
だとすると、ラグリマのソースか?
確かにグリーンピースポタージュに近い味がした
ここで、みっともないタイミングで手洗いへ
(手洗い場チェックも兼ねて)
うぉぉぉ、ハンドソープ一式がジョーマローンなところ、初めて見たぞ!!!
イソップを置いているだけでオシャレ!ちゃんとしてる!と思ってきたが、格が違いすぎる。
(ハンドソープ置いていない店は論外)
現実に戻るようなことを思い出したが、とにかく世の中の皆さん手を洗わない。
野郎に限らず、女性も洗わない。
流石に指摘できないが、友人知人レベルでも、水を先端にちょこちょこつけるだけで、石鹸を使わない人も多い。
先日は、とある飲食店で女性店員さんがそのような洗い方をしていた(客席から見えた)。
さて、と。
マルティンベラサテギのスペシャリテ
「鰻の燻製、フォアグラのミルフィーユ 春玉ねぎと青リンゴのソースを添えて」
ここで、僕の選んだメニューを打ち込んだミニメニューをお土産にと持ってきてくれた
一応僕が日本語訳をつけているが、熱心な料理人の方、是非こちらを参照して、何かのインスピレーションを得てもらえたら。
そして、可能であれば模倣して、僕に出してほしい。
(1人2人のシェフの顔を浮かべて今書いている)
と、パンもきた
予習はしていたが、本当にすごいパンが来た
一つ目のパン
長時間発酵のパン、
アニャナ塩フレーク(ホテルマリアクリスティーナでも売られていた、サンセバスチャンといえばの高級塩だそう)、
アシエンダグズマンアルベキナ?エクストラバージンオリーブオイル、
(調べたら、アシエンダは大農場、アルベキーナは最高級オリーブのブランドで、小粒でほろ苦いのが特徴だそう!確かに味わったことのない美味さだったが、こんな情報、知らないで食べるのはやはり損だ!)
そして目を見張ったのが、イベリコ豚 ベジョータ(どんぐりだね)100%の自家製バター
なんだこれ!
食べ物じゃないみたいな美しさ!
陶器みたいに滑らか!
実は僕、ウインナー大嫌いで、生ハムは好きなものの、レバーパテや豚のリエットの類は生臭く感じて激しく苦手なのだけど、絶対気に入ると踏んで食べたところ、やっぱり!
なお、この写真、僕が尊敬して愛してやまない某店のシェフとソムリエにお見せしたところ、
「うちでもできないかな?」と材料、工程を真剣に模索しておられ、そのやりとりに僕は震える感動を覚えた。
同じ飲食業だからといって、「へー、スペイン?サンセバスチャンよく知らんけど、パエリア食べた?あー、なにこれ美味そ!まぁ海外も美味いもんは美味いよね、日本が1番だけど!」みたいな雑い返しだって十分ありうるのに。
なお、上で書いた、この丁寧なメニュー描写を数名のシェフに宛てて書いている、というのはまさにその店のこと。
(読んでてくれたら嬉しい!!)
パンもまた、都内のどこのパン屋も太刀打ちできないくらい美味い。
手の指に引っ付きそうなほど高加水の生地に、歯茎切りそうなほどガリゴリ分厚くて香ばしいクラスト
何より、何より!
予約時の備考欄に敢えて書かなかったのだが、僕、フォアグラも大大大の苦手なのだよ。
ビルバオのラヴィーニャデルエンサンチェで食べたものの、やはり苦手は苦手と痛感したほどに。
けど、これを食べずして帰れないと思い、苦手と書かなかったのだ。
よかった…こんな美味しいフォアグラ初めてだ。
ミニマムなのに綺麗な鰻の身がわかる。鰆か何かかと思う
フォアグラも、キャラメリゼで誤魔化しているわけではなく、しっかり分厚いのに全然フォアグラ特有の臭みや嫌なくどさがない。
女性スタッフ「これも、一口で、パクッとこうして食べてね(ウインク)」
毎回、「楽しんで!」と言葉を残し、ウインクをしてくれるジュリアロバーツ激似のスタッフが、僕の幸せ気分を最高潮に高めてくれる。
誰かと来ればよかった…
とは、全くもって思わなかった。
1人で、ゆっくり味わえてよかった。
だからこそ、今こうしてブログを書いていてもなお、味を思い出せる
まだまだアミューズが続く
「ヒルダ マグロのタルタルとともに アンチョビクリーム 冷やしたバスクチリペッパーと農風景出汁のケッパー」
…いよいよ訳が怪しいが、すごいのが来た
これぞガストロノミーの真骨頂、サンセバスチャンの革新的料理という感じで
女性スタッフ「まずスプーンのヒルダを一口で、その後、ツナタルタル、最後にアンチョビを食べてね。エンジョイ!」
忙しくなってきた( ◠‿◠ )
ヒルダもバスク名産で、オリーブ、アンチョビ、辛味のない青唐辛子の一種のギンディージャを合わせたものだが、このスプーンにそれが込められているのだろうか
農風景なんたらが、もしかするとそれなのか。
水滴のようだが、皮感はほぼ感じなかった。
オリーブを主に感じた
マグロとアンチョビは、どう味付けされているのかまでは分析できなかったし、順番の意味合いも僕には分からなかったが、エンジョイした。
パンがうますぎてバターを食い尽くしそう(尽くした)
さらに前菜として豪華過ぎる前菜が続く
「甲殻類(海老?)のカネロニ 結晶化させた甘いきゅうり サーモン シトラスハーブのジュース」
このソース、というかハーブジュース?は、あとがけで、ミルクポットみたいな白い容器から、たっぷり注がれた。
きゅうりがシャーベット状になっている!
女性スタッフ「混ぜて食べてね」
それぞれ食感が全然違うものが混在して、楽しい!もったいなくて、最初は指示を無視してそれぞれ味わってみた。
ただソルベにしただけで氷やん!ではなく、何かわからないが甘く味付けされ、きゅうりの青臭さもない。
白いのは、何のチーズだったんだろう聞けばよかったな。クリーム?
カネロニも、いつもよく食べるカネロニの形状と全然違った。
別の女性スタッフが、さながらリチャードギアな男性とその連れの女性(奥さん?)に丁寧な説明をしている。
この置物は、マルティンベラサテギのトレードマークなのかな。どこの卓にもあった。
ようやく前菜?が終わり、カスタムオーダーしたプレートがサーブされた。
またしても見目麗しいがすぎるサラダ。
「野菜のハートサラダ 海鮮 レタスクリームと何たら(ヨウ素??)ジュースを添えて」
ここ数日、食べたいものを食べていたら、すっかりノー野菜生活だったので、野菜野菜!と栄養面を考えて選んだが、結果大正解。
海老も、丸まったボイル海老は大嫌いなのだが、こちらは牡丹海老か甘エビのようで甘くねっとり、ハーブとドレッシングによく絡む。
上品に平皿に盛られすぎて、上手にすくって音を立てずに食べるのが難しい!
2個目のパンは、ベーコンブリオッシュ
こちらも、パサパサになりがちなブリオッシュと思えないしっとり感と角っこの焦げ目が美味い!
生ハムバターをたっぷりと!
…と思っていたら、モンクフィッシュが来た!
初めて見るビジュアル!
女性スタッフ「これがモンクフィッシュよ。横の黒いのは、イカ墨。一口で食べないと、プシュッと飛び出て洋服を汚すから気をつけてね!エンジョイ!」
調べたところ、モンクフィッシュは、あんこうとのこと。なるほどー。
「黒アンコウ アニシード(アニス、八角の種らしい) 魚卵(これ何だっけ?いくらの小さい版みたいの!思い出せない!) 赤ちゃんイカの墨を入れたキャンディ」
そしてこれが、世にも美味いベーコンブリオッシュ
(生ハムバターが、もうほぼない!)
すっかり夜になり、よい雰囲気に。
僕は、スペイン、サンセバスチャンの三ツ星で、1人最高のディナーを楽しんでいるんだ!!
生まれてきてよかった!!
モンクフィッシュ、はじめての食感。
アンコウとは聞いたものの、アンコウ鍋で数度食したそれとは全然違う。
白身と言っても、ナイフがなかなか通らないくらい、もきゅもきゅとした噛みごたえがある。でも確かに淡白だ。
ソースは全く何か分からないが、僕好みの濃いめのクリーム(生クリームとバターにデミグラスのようなイメージ)が、淡白な魚と合う。
(逆に塩だけでこの量食べるのはキツい)
イカ墨ボンボンは、本当にボンボンで、
何皿か前の一口ヒルダの玉と違い、膜もものすごくしっかり、まるで水風船のようだった。
弾けて飛び出るイカ墨自体は、よく口にするあのイカ墨だったが、これは確かに面白い!
オーガニックココアとタラゴンのパンもきた。
全てのパンが加水率高め!ココアだが、もう少しほろ苦いチョコレートのよう。
ちなみに写真忘れたのかもだが、これの前に、フェヌグリーク(ハーブの一種)のパンも来た。
合計四つのパンを、生ハムバターとアニャナソルトと、あのウルトラハイクオリティオリーブオイルのほぼ全てを使って、ペロリ
…なもんだから、急に込み上げてきた。
それも、ちょっと苦しくて、なんて可愛らしいもんじゃなく、このまま食べ進めると、緊急搬送され、三ツ星の地を汚すことになりそうなほどに。
僕、そんな少食だったかなぁ、クソゥ、と思ったが、こうして見返すとかなり食べている。
よかった、僕、少食じゃない。
ともあれ、もはや亜空間を見つめて、腑抜け、もののけ姫の「こだま」状態の僕。
このままでは明け方になってもディナーが終わらないので、女性スタッフを呼んで、スーパー申し訳なさそうに伝えた。
「お腹いっぱいで。本当はもっと食べたいのに。すみません。」
女性スタッフ「全く気にすることないわ!デザートを入れるお腹の余力を残しておくと思えばいいわ!あ、そうね、よかったら、残りのモンクフィッシュ、パックに入れて持ち帰る?」
…なんて優しく気が効く、相手の申し訳なさを払拭してくれる発言、、、持ち帰り、気持ちは嬉しかったが、明日以降バス移動で持ち歩くのもしんどく、この状態から復活してホテルに戻って食べられるわけもなく、なのでごめんなさいした。
笑顔と、たったの一言だけで、こちらの全ての恐縮を拭い去るあの対応、なんなんだ。
ちなみにちなみに、ワインなのだが、ガバガバ飲みまくるつもりマンマンだったが、もう固形物で腹パンすぎて、ここにアルコールを流し込んだらもう臨界点超えて、人間の尊厳失いそうで、よってもって、2杯目白ワイン(イタリアのもの)をオーダーしたものの、ほぼ全く手をつけず終わった。
ソムリエが相変わらず優しく、「さっきはスペインだったけど、今度はイタリアの白ワインにしたよ。この後のどの料理にも合うと思う。」と、僕のノロノロペースに気を遣ってか、そう言ってくれた。(なのに、一口さえも飲めず申し訳ない)
しかし、復活( ◠‿◠ )
この後、怒涛のデザートタイムなのだが、全て平らげた!(ドヤァ)
写真を何故か撮り忘れたのが悔やまれるが
「ストロベリーフィズ コラゾンベリーとライムの温かくて冷たいの」
みたいなミニデザート。
小鉢くらいの白椀に、赤いストロベリーフィズの温かめクリーム、その上から液体窒素で、シュワーっと女性スタッフが何かかけた。
「しぼむから急いで食べてね!」
そのまんまだが、あったか冷たい!
キツい酸味はなく、箸休めにはちょうどいい。
そして、写真からは伝わらないかもだが超デカいのがきた。
「凍らせたパカリのココアスポンジ 塩の華 ウィスキーとヘーゼルナッツの燻した香り」
ガツンと濃ゆいチョコレートケーキを欲した下品な僕に、すごいのを出してきた。
フローズンスポンジって、なんだろうと思ったけど、食感が本当にフローズン。
スポンジを凍らせたらパサパサパリパリになるだろうに、これどうなってるんだろ。アイスとも全然違う。
ウィスキーの水玉みたいなアイスも美味しく、上のアイス(それがヘーゼルナッツなのか、もはや分からなかった恥ずかしい)と混ぜるとリキュールアイスのよう。
何より、ラストのミニャルディーズでも登場する「パカリ」なるチョコレート、世界チョコレートアワードを世界一多く受賞した、エクアドル産のプレミアムオーガニックチョコレートだそう。
これまた食べたいな。
某シェフ、作って下さい、、
どこかの日本のグランメゾンで、明らか業務用のシフォンケーキを昨年出されたのを思い出し、1人笑った。
そうそう、1人客の黒人さん、その後もスタッフに嬉しそうに食事の感想を伝え、スマホをいじるでもなく、あとは無心で目の前の料理と対峙していた。
素晴らしい。実に素晴らしい。
なんだか、彼の周りだけ「第三の男」の頃まで時代遡り、フィルムノワールの世界、黙々とナイフを滑らせる姿にスポットライトが当たり、ポールアンカの曲が流れているかの幻想を見た。
これ、この曲↓
なぁんて、ニヤケ顔で夢想していると、大変なことが!!!
オーナーシェフ、マルティンベラサテギ氏が、通訳を携え、各テーブルをまわっていたのだ。
11星…世界一星の獲得数が多いシェフ、長きに渡り、スペインのガストロノミーの一線で活躍されてきたシェフが目の前に…あわわ、何も準備してない…準備したところでだが…あわわ
リチャードギアは、マルティンベラサテギ氏がやってきても全く引けを取らない。絵になる。
釘付けの僕は、最後のデザート、パカリの最高級チョコレートに手をつけられずにいるが、芸術的なオブジェに、以下のチョコレートが
タヒチアンバニラボンボン、
アニスシェル(貝殻型)、
トフィーヘーゼルナッツプラリネ、
ウォールナッツとハニーヌガー
チョコレート越しに、目だけ出して僕は、
じっ(・___・)と見ていた。この顔で。
おおお、グータッチしている!いいな!
く、くる…!!!
来た!!!
もう、場違いなアジアから来た1人客、みすぼらしいなりの身の程知らず…なんて微塵も恥ずかしく思わせない、気さくな優しい優しい満面の笑みでやってきた。
通訳の男性のこれまた映画俳優感たるや!
僕「あ、もう、この日を何ヶ月も前から楽しみにしていました!日本でもいろいろ行きますが、や、もう、1番です!」
(もうこれが精一杯)
スマートに、笑顔で通訳の方が英語でマルティンベラサテギ氏に伝えてくれた。
嬉しそうな顔を見せて頷いて、そして「ありがとう」とスペイン語で返してくれ、僕ともグータッチ。
僕「あの、お写真もいいですか?」
「もちろん!」
( ◠‿◠ )パァァァァッ(幸せ幸せ満面の笑み)
ホッと落ち着いて、チョコレートに手をつけ、紅茶を。
ほらね、白ワインが残ってしまっている。
しかし、さすがに限界だったのか、普段ならチョコレートなんて10でも20でも食べられるのに、僅か5個ほどが口に入らず、とはいえこれを置いて帰る気にはなれず、モンクフィッシュはごめんなさいしたけれど、こちらはテイクアウトをお願いした。
翌日マドリードの夜に冷やして食べた。
セゴビアの灼熱の太陽にやられて溶けて固まったが、それでも最高だったよ、パカリ!
さて、23時。
まだまだ僕よりあとから来た客はくつろいでいるものの、これ以上何も喉を通らないし、早めにねんねしようと、会計とタクシーをお願いした。
まず、会計で2つ驚きがあった。
1つは、金額。
これでも、都内で数多くの店に行ったつもりの僕、鮨やイタリア料理で1人6万、7万の時もあったし、何より世界一の老舗三ツ星、二桁行ってもおかしくない、20万だろうが一切気にせず払いたい、そう思っていた。
日本円にして、40000円だった。
ほぼ飲んでいないから、そんなもん?
いやいやいやいやいや。安すぎる。嘘だろ?と、何度も見返したくらい。
ちなみに、ここまでこれだけ説明してなお、「たっけー!」というやつとは、未来永劫金輪際、飯に行きたくない。
磯丸食ってろコスパ野郎!と思う。
さらに二つ目の驚き。
ドリンク、1杯目のチャコリしかカウントされていなかった。
驚きすぎて確認したが、ほぼ手をつけていない2杯目の白ワインの代金を取らなかったようだ。
いやいやいやいや、そんなことある?
日本、に限らず、飲もうが口に合うまいが、頼んだらもう払えよ当たり前だよ、でしょうに。
(よくある、水の代金、これも入っていなかった。アルコールを紛らわすべくかなり飲みまくったのに)
なんなんだベラサテギ…
と思っていると、タクシーが来たとのこと、ふらふらとエントランスに出た。
ありがとうさようなら、そう告げて乗り込もうとしたら、最後のサプライズが。
僕がこの旅最大の不安として、
真夜中異国の地でタクシーに1人乗るのが怖い、ぼられるならいいが、身体ごと海に捨てられそうで怖い、言っていたのを皆さん覚えているだろうか(確かここまでで書いている)。
僕は予約時のメールにこのように書いている。
↓↓
このメールに事前に返信はなく、当日もタクシーについて、なんら触れられることはなかった。
「worryじゃねぇよwwwdangerousじゃねぇよwwwやばい日本人だなwww」
そう思われていてもおかしくないと思った。
ただ、当日のあまりに真摯なスタッフたちの対応に、そんな下世話な発想はしてないだろうと思い直し、とはいえ回答に困りスルーしているのだろう、くらいには思った(それを酷いとも何とも思わなかったが)。
僕担当のジュリアロバーツ似女性スタッフ
「待って!」
追いかけてきた。
見ると、他の男性スタッフ数人もエントランスの外に出てきた。
お見送りかな?( ◠‿◠ )最後まで感動だ、ありがとう!
違った。
女性スタッフが、タクシー運転手に向かって、ジェスチャーで、窓を開けるよう合図した。
恰幅のいい運転手が顔と腕を覗かせた。
続けて女性スタッフは、僕の両肩に両手を置いて、満面の笑みで、こう言った。
「彼、私の幼馴染なの。あなたがタクシー乗るの不安に感じると言っていたから、幼馴染を呼んだのよ。彼が安全にあなたをホテルまで送り届けるわ。私が責任を持つ。ホテルの名前、教えて?」
運転手がにこやかに笑っている。
…信じられない出来事に言葉を失ってしまった僕は、ぽっけに入れていたホテルの名刺を差し出した。
女性スタッフ「パラシオデアイエテ!(運転手に対して)」
「(僕に対して)分かるから大丈夫よ。彼のこと、みんなよく知ってるわ。ほら、彼も、彼も。」
運転手が、親指を立てて、イイネのポーズをして見せた。
他の男性スタッフの方を向いた。
みんな、満面の笑みで、親指を立てて、グッド、イイネのサインをしている。
女性スタッフは、ウインクをしている。
エントランス、タクシーの前、みんな笑顔。
なにこれ、映画?
「thank you、gracias(ありがとう)」
ただひたすらそう連呼して僕は、タクシーに乗り込んだ。
我が人生で初めての経験であり、多分同じようなことは二度と体験できないだろう。
またここに来ない限り。
タクシーの中、そう思った。
(スペイン語、バスク語が話せないと思ったのか、運転手は何も話しかけてこなかったが、暗闇のハイウェイ走行、微塵も不安はなかった)
またこよう。
必ず、絶対、すぐに。
帰国後、お礼のメールを綴りながらもそう誓った。
マルティンベラサテギ氏と。