観に行ったのは結構前だが、筆が進まなかった。
小説も映画も、それこそ飲食店も、好きゆえに筆がギュンギュン進む場合と逆の場合がある。今回は後者。
数年に一度ペースでしか映画を観ない僕、恋愛モノも泣かせる系も万人ウケ優しいヒューマンコメディもノーサンキューで、北野作品以外基本拒絶反応な僕が、珍しく今年2度目の映画館。
観る前から絶対好きだと思ったが、予想以上に好きだった。
「あー、四郎ちゃん、ピンクでポップで可愛い系好きだもんね〜。かわいいよねBarbieの世界観〜。」
「公開前にキノコ雲とか物議醸したあのブラックな感じ、四郎ぽいわぁ笑」
…何人かの友人から、こんな返しがあった。
いや、違わないけどさ、僕はそういうのが好きだけどさ、そんな軽薄な感じでザクッとまとめないでくれよ、僕のこの思いを。
といっても、そもそもBarbieなんて名前しか知らなかったし、多分家にはバービー人形はなかった(あったかもだが記憶にない)。
けど、ついつい周りよりBarbieを知っているとBarbieマウントをしたくなるのはおそらくこの曲のせい。
高校1年の冬、イタリアはローマのブティックで僕は、ニットのセーターを試着していた。
「ナーイス、ベリーナーイス。」
と女性店員に煽てられ、
「検討します。」の英語訳が即座に浮かばず、やむなく購入を決めたその瞬間、この曲が流れた。
店員さん、曲に合わせて乗ってるよ。
キャッチーなメロディラインと、店員さんのその姿があまりに可愛くて、そして「あー、僕は今外国にいるんだ!」という実感も相俟って、思わずアーティスト名を店員さんに聞いた(検討中、も英語で言えなかったのに!)。
「AQUA」
と紙に書いてくれた。
その紙を持ってカフェグレコに入ったら、サービスでクロワッサンダマンドを運んできてくれた老齢のギャルソンが、ペンで「AQUA」に「C」を足した。
「水のスペルはこうだよ。」
…違うんです。さっきのブティックで流れてた歌を…とfluentに言うだけの英語力はなく、なんなら「ありがとう。」のイタリア語版も分からず、「ボーノ!」と笑って返した。
その後たどりついたレコードショップで、無事AQUAのアルバムを見つけて購入した。
「Barbie girl」…なんて可愛い曲なんだ。
いや、歌詞はよくよく聴くととんでもないけど、本当に可愛くて何故だか切なくて、我ながらTommy februaly6が好きな僕が好むのがよく分かる!
他の曲も全部好きだった。セカンドアルバムも買ったし、カラオケに行くたびにデュオ曲なのに2人分歌った(ヒトカラ)。
もっとも、残念ながらAQUAの曲は、大人の事情で本作ではエンディングでアレンジバージョンが僅かに使われているだけ。
でもいい、上述の通り、予想を遥かに凌駕して好きだったから。
フェミとかルッキズムとか同性愛推奨か否か(ゆえにどこかの国で放映禁止とかなんとか)とか、大それた主義主張論争はまるでどうでもよくて、とにかくバービー(主役のマーゴットロビー以外にもいっぱいいる)やケン(これもいっぱいいる)のキャラクターが愛くるしくてならなかった。
バービーにアプローチをかけてもかけてもぞんざいな扱いを受けていたケンが人間界で男活躍社会を目にし、「男!馬!男たるもの!」と目覚める様は滑稽なまでに可愛く(ちなみに身近な日本のオッサンで、さながら股間を屹立させて「男!男として見てくれ!」とアピールする人は山ほどいるが、ケンのような愛らしさはゼロミリなので全く重ねたくない)、
失敗バービーは、失敗といっても不潔キャラではなく、どこか夏木マリに似たかっこよさがあり(同じこと思った人〜!)、
そしてローラーブレードでバービーを追いかけるスーツ姿のマテル社の重役たちの、これまた滑稽で可愛いこと…うーん、なんだかんだで可愛いしか言ってないな笑
でも、横の劇場でやっていた、哲学本原作の鷲だか鷹のポスターのソレより、よほど「どう生きるか」というメッセージ性が(かなりメタな感じで)込められていたように思う。
マテル社本社で逃げ惑うバービーが扉を開けた先に突如現れる気品ある空間で、紅茶を淹れる気品ある老女が、実は実在したマテル社の創業者ルーシーだということは、鑑賞後ネタバレ記事を見て知った。
そして、本作最後のバービーの台詞の解釈がネット上でかなり分かれていることも(男性客もかなりいたが、彼らはどう思ったのだろう。劇場入口で一人一人問うてみたかった)。
とまぁ、長い割にペラッペラな感想だが、素人だから良いのだ。
すんごい深いやつは、鈴木涼美氏か大石蘭氏のコラムを見てほしい(検索すればすぐ出てくる)。
とりあえず僕は、また観に行こうか(まだやってるかなー)、でも絶対大泣きしてしまいそうで迷っている。
だってこれ見て既に泣いてるから。↓
AQUAの「バービーガール」を本作に合わせたやつ。これだけでもみてほしい。本作でAQUAがほぼ流れないので、むしろこちらの方が泣ける。
というか、この歌詞こそ本作全てを凝縮しているじゃないか。あー、もどかしい口惜しい、大人の事情とやら!
そして、AQUAのMV。もう20年以上前の曲なんだな。泣ける。