ライブから相当経ったが、まだ放心している。
「もうすぐ辻仁成先生のライブなんだ。」
こう周りに告げると、返ってくるのは、元嫁の名前や"zooの人"といった浅い情報と「推し活」っていいよね、といった軽薄な言葉ばかり。



好きなことって、ついつい他人に言いたくなってしまうけど、言ってワクワクが萎むなら言わぬ方が自分にとっても相手にとってもいい。



僕はそもそも「推し活」をしたことはない。
それは、好きなもの(アーティストにしろ作品にしろ、何でも)に対してはいつだって全力で、その時々の気分で気まぐれに追いかけては飽きると言った、そんな失礼極まりない感情で好きなわけではないから。



僕にとって辻仁成先生は、原作をドラマにした「嫉妬の香り」で衝撃を覚え、主題歌「slow」を未だに日々聴くほど胸打たれ、その後著作を20作品近く読み(制覇するのが惜しく、また絶版も多いので書店を探す楽しみを残している)、そして魂震える曲の数々を聴き、さらに料理の師匠として料理教室に参加し、さらにさらにはエッセイ、小説を見ていただいている文章教室の先生でもある。

もちろん毎日の日記、SNS、dancyuの冒頭エッセイも欠かさずチェックしている。




曲、文章問わず、作品の全てに辻先生の生き様が垣間見れる。

パリが似合う、年齢なんて感じさせないセンスフルなファッションと言葉選びと生活、とにかく明るくてポジティブで周りを和ませる父ちゃんで、シングルファザーとして子息を育ててきたその苦労さえも絵に描いたように美しく(エッセイにもなっている)、子息が目を見張るほどできた方に育ったこともまたその表れであり、…かたや、いろいろと思考が及ぶゆえかとても繊細で喜怒哀楽もしっかり出して、でもいつだって底抜けに優しくて周りを元気にさせる。






そんな父ちゃんこと辻先生、パリのオランピア講演を大成功させた。その後急遽行われることとなった日本凱旋ライブにまさかの行けることとなった。

それも、名古屋と東京2日とも。



7月に決まってから、日々夢のような降って舞い降りた幸福に震えていた。




名古屋。

一部歌唱撮影OKだったが、なんとなく配慮して辻先生の写真は載せずにおく。

しかしかなり良席だった。





泣きながら聴いていたが、余韻に浸る間もなく急いで終電に飛び乗り東京へ。

なぜなら







翌日が六本木ex theaterだったから。




冒頭のがっかりと同様、分からない人に伝えても虚しいだけの情報だが、参列者を視認して鳥肌が立った。

気付いた限りでも、コシノジュンコ氏、湯川れい子氏、宮本亞門氏、ロバート・キャンベル氏…。

いずれも、佇まいを見るだけで立ち尽くしてしまうほど、日本を代表するかっこいい文化人だ。



※ちなみに僕は湯川れい子さんの書く詞が大好きだ。ゴスペラッツの「まさか赤坂ショウタイム」が最も好きだが、辻先生の話から逸れるので割愛。90近くと思えぬ溌溂闊達とした生き様とユーモラスな文章がたまらなく好き。








そして…そんな尊い方々に背を向ける形で、まさかの最前列中央…。あり得ない。。




日々過ごしていて「僕こんな顔だったかなぁ。このままこの顔続けてたら病気になりそう。てかもうなってるかも。」みたいな酷い顔の時と、「本当にいつもにこにこしてるね。」と相手に言われるときとあるが、まさにこの時は言わずもがな。


口角切れそうなほどずっと笑顔で、そして泣いて泣いて、忙しかった。





初めて生でお会いする辻先生、全身黒でシックにまとめていたオランピア講演の時と違い、タンクトップにジーンズ。これがまたかっこいい。何遍生まれ変わってもこうはなれない。




光の子供


♪あいうえお〜かきくけこ〜と楽しいメロディなのに、涙が止まらない。先生の生き様と、我が子や周りに対する愛情が全て集約されている。




ガラスの天井


入りもかっこいいが、大変アイロニカルな歌詞。

この洒落狂ったMVで先生のかっこよさの一端でも伝われば。




これもたまらなくよかった。






これら全てをこの場所から。







そしてアンコールでは、「zoo」、そして「荒城の月」。

zooだけじゃないんだよ、と何度も自虐した辻先生だが、分かる人は分かっているし、少なくともこの会場で初めて他の曲を聴いた人は改心してくれたはずだ。




荒城の月、日本の旧き良き滝廉太郎の描くそれに、辻先生の声に乗せ、パリの風景が重なって見えた。



荒城の月




大人になった今改めて聴くと涙止まらないね。

それは決して僕だけではないはず。


zoo



若かりし辻先生。

今の方がもっとずっとかっこいいけれど。