酷い誤解だと謝罪したくなったのは、エントランスを潜ってすぐ。
僕の記憶する限り、マンダリンのロケーションと内装、生演奏の質は、比類なきクオリティだと思っていたが、相変わらずだった。
憂慮していた客層も、そうは変わることなく安心した。
僕?
僕は、確実にこの場で1番美しいと言い切れるほどの激美人と一緒だからね。ふふん。
しかし、相変わらずうっとりするような空間。
絶対に誰とでもは来れないが、これ以上なく相応しい相手。
彼女は、僕とホテルラウンジで過ごす時、必ずブラックのコーヒー(と、たまに微々たるお菓子)しか飲まない。
いや、昔は一緒にアフタヌーンティーを食べることも多かった。
だが、ここ数年は、何時に待ち合わせようと、カロリーのないコーヒー。
そしてチョコレートボンボンや焼き菓子は、勧められるがままほぼ僕の胃袋の中へと。
「また今度美味しいご飯でも食べましょう。この後歯医者さんなんです。」
…前回会った時「僕とは飲めない食えないってやつかい?」という僕のサイテーネチネチな問いかけに対して、そんな弁明をした彼女。
夜8時から処置してくれる歯医者ってどこだい?歌舞伎町の歯医者にでも通ってるの?てゆうか、歯医者行くのに、なんでそんな入念にトイレでメイク直ししてるの?
…それら脳内に浮かんだ疑問符の数々は吐き出さなかった。言ったところで「そんなことないですよー。」と気を遣わせ、そして嫌われるだけだ。
何より、相手次第で口にする量を変え、努めて胃と肝臓の無駄遣いをしたくない気持ちは痛いほどわかる。なぜなら僕も同じだから。
いいんだよ、コーヒーの人で。
僕なんかに君のような激美人が時間を割いてくれるだけで、心底嬉しい。
この日も、なんだかんだで5時間くらい話し込んでいた。
しかし、マンダリンは手洗いの美しさも桁違い。
プライスレスな時間。
帰り際「四郎さん、本当に好きです」なんて言いつつ八天堂のクリームパンと生食パンをくれた彼女。
「八天堂かぁ!好きだよ。」と言うと、ちょっとがっかりした顔をした彼女。
(いつも何故か手土産をくれ、そして必ず僕が知ってるもので、それを言うとがっかりする可愛い)
要冷蔵のクリームパンはどろんどろんに溶けていたけど、帰り道僕は2個とも貪り食ったよ。
僕の方が好きだ。ありがとう。