「とってもかわいいサイモン!!」


この店を訪れた年末から、もう随分と経つのに、この台詞が未だ頭を離れない。










年末、高円寺阿佐ヶ谷熱が高まり、何度も足を運んだ。我ながらクソほど寒いのによく行ったな。







名前が可愛かっただけでなく、窓越しに見える雰囲気がとてもよく(混雑していない、若者がいない、清潔そう、暖かそう)、吸い込まれた。






メニューとともにこれが置いてあった。
……?








どうやら、aiboを置いている店のようだ。なんて愛らしい。ますます好感が持てる。
なんて思いながらメニューを眺めた。なかなかにこれが本格的。





これこれ、僕が求めてるのは。量産型スイーツではなく、店主がシャカシャカ卵白を泡立てる系の手作りのやつ。












悩んだが、初回は黒ごま豆乳プリンにした。
ご覧の通り、年末の阿佐ヶ谷は空いていて穴場のようで(なんていうと、来年から混むかな…やだな…いやいや、我ながら己の影響力を如何程と。)。






サービスで黒豆とは珍しい。一足早いお正月の気分。






バニラなんたらという紅茶。いろいろ衝撃的なことがありすぎたからか、名称を忘れてしまった。
そして黒ごま豆乳プリン。
ありそでなかった初めての味だったが、黒ごま大好きの僕はたまらなかった。黒蜜が合うこと。







これは別日のバナナケーキ。
見るからに美味しそうでしょう。本当に美味しかった。バナナの密度が濃くて、しっとりねっとりしていて。





と、前後するが、南阿佐ヶ谷からこの店までに見つけた、ブックマークな店たち。

















こういう個人店がこの辺りは本当に多い。








これは有名な「七つ森」








プリン。



と、常連らしい老齢の男性(さながらムツゴロウ)と店主の会話が始まった。


店主「生まれ変わったらサイモンになりたいですよ。いうこと聞かなくても、みんなから愛されて。」


客「そうだよな、呑気なもんだよなサイモンは。…っておい、おまえ、まだ俺いるよ、バイバイじゃねぇよ笑!追い返すんじゃねえよ!」


店主「とってもかわいいサイモン!!」


…(客の後段の台詞はサイモンに向けて。念のため)。微笑ましいんだかカオスなんだかわからなくなってきたが、年末のこの日、こんなあったかい空間にいる自分が幸せに思え、ニコニコしながらその光景を見ていた。





縦横無尽に遊びまわる、とってもかわいいサイモン。





閉店21時の10分前、まだ店主と客が話していた。この会話が途切れたら、僕もお会計しよう。


店主「紅白僕は楽しみなんですよ」


客「そうかぁ?生放送なだけで、のど自慢と変わらないぞ」

店主「のど自慢は素人さんの紅白ですね。でも、NHKの紅白は、みんなプロなのに全力出しきるじゃないですか。ミスが許されないから、自分の今の全力を見てもらいたくて出し切る。あれが面白いんですよ。」



…なるほどなぁ。
なんて、また、サイモンと彼らとを交互に微笑ましく見ながら、大人しく席で待っていた。


店主「よいお年を。年明けは元旦から営業してるんでまたどうぞ。」
客が満足そうな年の瀬の挨拶をして帰った。
冬の日に、温まるいい光景を見たな。


と、



店主「もう閉店なんですけど!!!!!!」


え……?


僕「あ、はい、すみません、急いで出ます(いそいそと財布を取り出す)」



…と、気のせいではないほどのけたたましい音で、店主が皿を洗い始めた。ガタンがちゃんゴトン!!…え、なんなの、何が逆鱗に触れたの?まだ5分前だよ?サイモンを撫でなかったから?かわいいって言わなかったから?滞在は1時間半だけど、長すぎた…なに、なんなの?


ひとまず会計を済ませ、なんだか全然よくわからないがとりあえず謝罪した。



僕「遅くまでいて、なんかすごくご迷惑をお掛けして、本当に申し訳ありませんでした」


店主「お気をつけてお帰り下さい(顔こわい)」




…世にも奇妙な物語の中にいるようだった。ちなみに、2度訪問したが、思い起こせば1度目も常連らしい老齢男性には温かく接し、横で微笑む僕は視界に入ってもいないようで対応もかなり塩だった。なんだろう…ムラのルール的なアレかな。昔話か何かにあった…島の村人が優しくにこやかにもてなしてくれてだけど、何か禁忌に触れた瞬間、全員の顔色が変わる的な。サイモン村のルール、禁忌を破ったとか…そもそも僕初めからもてなされてないけども…。



狐につままれたどころか、かぶりつかれたような気分になって夜の阿佐ヶ谷をあとにした。



誰か勇気のある人は、行ってほしい。僕の気のせい勘違いならそれが1番よい。僕はもう怖くて行けないけれど。



「とってもかわいいサイモン!」