好きだけれど詳しくない分野は割と多い。コーヒーもだが、ワインにも全くもって明るくない。そう言うと、「気になったものは何でも調べる姿勢を身につけないと」とかビービー説教してくる輩がいるが、大きなお世話である。好きなものをどれくらい掘るか掘らぬかも含めて好きにしてこその好きなものだと心底思う。
かつてダイニングバーでアルバイトをしていた際、ワインの銘柄について客に尋ねられた。最初の頃は必死に味や産地を覚えようと努力したものの、途中で諦めた。わかりませんと答えたのが店長にバレると叱責されるので、テキトーに答えることにした。
「こちらはチリ産のワインで、パッションフルーツのようなトロピカルな風味と軽い舌触りがお楽しみいただけます」
「オススメですか?今日のような寒い日は、こちらの赤がよろしいかと。度数は高いのですが甘味もあって、お姉さんのような若い方にも喜んでいただけると思いますよ」
…もちろん、赤か白か以外全部口から出まかせである。こんなことを書くと元バイト先から抗議の連絡が来そうだが、とうの昔に建物ごと消えて無くなったので問題ない。
そんなワインにまつわるエピソードを思い出しながら入った、ずっと気になっていた隠れ家的ワインバー。
フランス好きな店長が1人で切り盛りしている。まず感動したのは、お通しのこのチーズたち。珍しくも美味しいチーズと、どっかしらの産地のワインが合うこと合うこと。
ケークサレがある店は珍しい。わからない方のために説明すると、甘くないパウンドケーキのようなもの。お店で手作りしており、さくさくホロホロ、中はしっとりで実に美味しかった。こちらもワインに合いすぎるほど合う。
シャルキュトリー。
見た目にも甘さが伝わるだろう。そして、僕がバターマンであることをマスターは知っていたのかと思うほどのバターの量。マヨもついており、たまらない。友人もなかなかのバターマンだったため、この後バターを追加し、上のケークサレの粒マスターソースと合わせて付けた。
この日は福岡から来た友人と。
秋山監督ファン、ホークスファンになった7年前、福岡を訪れた際にふらっと入ったカフェで出会った。今では、彼女とその店の従業員、常連客に会いたくて年に何度も福岡を訪れる。そして今回は彼女が東京に来てくれた。
また一つ、僕の思い出アルバムが、素敵なワインの味とともに上書きされた。