出逢いはいつも偶然、そして突然にやってくる。


 昨年、とあるビラ配りの手伝いをしていた。そこへ、記者が取材に来た。あれ?見覚えのある…。3つ上の先輩だった。すっかりご立派になられて。
「もつ鍋はこんなとこで何やってんの笑?」
や、もうまさに、こんなとこで何やってんの僕でして文字通り。

 そんなこんなで久々、というかサシは初めてか、先輩と飲むことに。先輩が終電を逃す。
「もつ鍋んち、行っていー?」
「僕んちはヤマタノオロチやろくろっ首がいるから無理で…」
「あ、めんどくせー、じゃ、もうカラオケでいいや」




 まぁ、ここまではありがちな話である。
僕は歩いて帰れるのになーと思いつつ、週末のカラ館へ。先歌いなよと言われ、瞬時に曲を入れた。週5でヒトカラしたりもする僕、躊躇いや恥じらいなどあるはずもなく、無心で踊り狂った。


 汗だくで歌い終わり、先輩を見た。

 寝ている。すごいいびきをかいて。恐らく冒頭の1フレーズたりとて聴いていなかったと思う。
 まぁいいかとデンモクをいじる。ここから5時間、歌い放題だ。100曲歌えるかしらん。


 4時40分、力尽きた。心なし、肺が疲れた。曲が途切れたため、DAMの広告が流れた。ん?
「♬見つめないで〜哀しい方を〜」
心奪うメロディが画面から聴こえてきた。誰の曲だろう。MONDO GROSSO?知らないな。しかし耳に残って離れない。

 検索してみると、音楽プロデューサー大沢伸一氏の手掛けるサウンドらしい。曲名は「ラビリンス」。歌い手はなんと、女優の満島ひかりだった。




 大沢伸一氏、2年ほど前TBSのオーディション番組に審査員として本間昭光氏とともに出演していた。温厚そうな見た目と物言いの一方で、Twitter上では舌鋒鋭い指摘もする、非常に魅力的な方だ。


 そんなこんなで、一気に心奪われ、翌週には彼の経営するミュージックバーを調べ、訪ねた。
 普段、1人でバーなんざめったに行くことのない僕(殊に男で"1人バーで飲むのが趣味です"と粋がって言ってのける輩は苦手だ。聞いてるこちらの背筋が寒くなる)。だが、大沢氏の作った空間で音を聴いてみたい。しかも、奇遇なことに、この日は「歌謡ナイト」だそうで。昭和歌謡を延々と流す月に一度の特別な日。
 三度の飯…の次に昭和歌謡を愛する僕のためとしか言いようのないイベントではないか。



 まるで金魚鉢のようなカクテル。日本酒ベースだった。これを嗜みつつ、、、

 桃色吐息、異邦人、他人の関係、ダンスはうまく踊れない、飛んでイスタンブール、東京、真夜中過ぎの恋…あぁ、昭和のネオンと煌めきがカクテルグラスに浮かんでは消える。なんて甘美な夜なんだ。
 皆様はこの中で何曲ご存知だろうか。



 フロアーは青く仄暗い。
とても素敵な東京ナイトクラブ。



 程なくして、心臓が止まるような衝撃を覚えた。大沢伸一氏、ご本人がいらした。それはご本人の店だからいらしても何らおかしくはないが、毎日はいらっしゃらないだろうに、なんと幸運なのだろう。僕の目の前で彼がディスクを替える。大沢伸一氏の流す昭和歌謡とカクテルと銀座の夜。夢か現か幻か。幸福を噛み締めながら黙って耳を傾けていると、突如曲調が変わった。モンドグロッソの「ラビリンス」が流れたのだ。ご本人の流すラビリンス。アコースティックなそれは、もう、こここそが"美しきラビリンス"と思わせてくれるものだった。
 ありがとう、全てにそう言いたい。もう二度と一緒に飲んでくれないかもしれない記者の先輩、彼に会わなければここに来ることはなかった。もちろん貴方は知る由もなかろうが。