クリティカルチェーンの考え方 | プロジェクトマネジメントの現場
2009-01-17 18:11:55

クリティカルチェーンの考え方

テーマ:プロジェクトマネジメント関連

PMBOKにおける「タイム・マネジメント」における重要なスケジューリング手法として「PERT/CPM法(Program Evaluation Review and Technique/Critical Path Method)」というものがあります。


スケジュールの計画を策定する際に、最も期間が長くなるアクティビティパスを特定し、各アクティビティの所要期間短縮に必要な費用の増額を見積もり、全体スケジュールの短縮に最も効果のある費用配分を行うことによってプロジェクト総費用の最適化を図る手法です。

PERTではアクティビティの見積もりに「3点見積もり」という統計的推定に基づいた見積もりを行います。3点見積もりは、アクティビティの楽観値、悲観値、最頻値を取り入れ、「加重平均値」によって見積もり値を算出します。


PERT加重平均値 = (楽観値+4*最頻値+悲観値)/6



CPMに対して、TOC(Theory Of Costraint:制約理論)に基づいた「クリティカル・チェーン法(Critical Chain Project Management)」というスケジューリング手法があります。クリティカル・チェーン法についてはPMBOKは概要レベルの説明に留めてあるため、ここではその考え方を紹介します。


TOCはエリヤフ・ゴールドラット氏の著書「ザ・ゴール」で有名な理論です。「ザ・ゴール」シリーズの中で、TOCをプロジェクト管理に適用した「クリティカル・チェーン」という書籍でこのスケジューリング手法が示されました。


まずゴールドラット氏はPERTにおける加重平均値の考え方が問題であると指摘しています。

工場のライン作業のように単純且つ繰り返し行われる機械的な作業とは異なり、プロジェクトのような不確定なアクティビティに対する時間的ばらつきは、「心理的要因」によって平均値を軸にした正規分布になるのではなく、β分布になるケースが多いということです。

更に不確定が故に見積もりの際に心理的要因が働き、90%以上の確度を持って見積もるだろうと指摘しています。β分布では50%の確率で見積もった場合と、90%の確率で見積もった場合とでは期間に3倍の開きが出てきます。


つまりPERTで採用する3点見積もり法をプロジェクトのような不確定な作業に適用し、クリティカルパスの計測を行うのは現実的ではないと指摘しているのです。


もう1点、TOCの重要な指摘は「学生症候群」についてです。学生が夏休みギリギリになって宿題に取り掛かるように、作業者は余裕期間を一杯に使おうとする「心理」が働くため、トラブルが起きた時に即クリティカルタスクになってしまうというものです。


人間は不確定なタスクについては大幅に余裕を持たせ、且つ実際の作業においてはその余裕を最大限に使おうとする「心理」が働く。


この「心理」を逆に利用して、TOCでは以下のようなアプローチを取ります。


まず「心理的要因」によって大幅に見積もられた余裕期間を「バッファ」として切り出します。90%の確度で見積もられた期間を50%に戻し、その差分期間をバッファにします。これを各タスクに対して適用し、バッファを積み上げます。これを「プロジェクトバッファ」と呼びます。


確度50%で見積もったクリティカルパスに対して、実績に基づいてプロジェクトバッファから時間を割り当てることによってクリティカルパスを守ることができると考えます。

加えて、クリティカルパスに合流するパスが遅延した場合もクリティカルパスに影響がでます。この合流パスの直前にもプロジェクトバッファから時間を割り当てます。


更にクリティカルパスに人的リソースを割り当てたものを「クリティカル・チェーン」と呼びます。クリティカルパスと並行で進むパスに対して同じ人間が割り当てられていた場合、並行に進めることができません。人的リソースの割り当てを考慮したパスに対して上記の「バッファ割り当て」を行うことにより、全体のスケジュールをコントロールする方法を「クリティカル・チェーン手法」と呼びます。


私はクリティカルチェーン手法を学んで以来、自分が担当した全プロジェクトに適用しています。

以下のような理由から、効果は非常に高いと感じています。


・管理対象がプロジェクトバッファ及び合流バッファ、リソースバッファのみになるため、コントロールの負荷が減る。

・クリティカルパスがプロジェクト期間中に変わるリスクが極めて小さくなる。

・リソースをあらかじめ考慮したパス上で見積もっているため、期間中にリソースの組み換えを行うリスクが極めて小さくなる。

・自分で見積もることのできないタスクに対しても、「心理的バイアス」を考慮してバッファを切り出すことにより、スケジュールの主導権を握ることができる。


まだ適用されていない方は、是非お試しください。





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