J:キム・ジチョル

S:キム・ジュニョン

K:イ・シアン

 

 

ジチョルさんのJ、ジュニョンさんのS、シアンさんのK、という前期からの続投組で観てきました!

凄かったです!

世界観の構築の妙というか、没入度が凄かった!

JSKのお三方ともに、アドリブや台本にない台詞がポンポン飛び出して、まさに「舞台上で役を生きている」状態。

絶対に忘れたくない、記憶に残しておきたい公演になりました。

 

 

ジチョルさんのJは、私が今まで観てきた中では一番狂気度の低いJに思えました。

憔悴し道を踏み外してはいるけれど、わけもわからず狂ってしまっているのではなく、「自ら進んで地獄の扉を造っている」という印象。

狂気的な気迫を押し出す時にも「覚悟の上」というような悲愴感があり、それがとても切なかったです。

 

 

ジュニョンさんのSは、基本路線はどの回でも同じでJへの想いに満ち溢れているSなのですが、相手役によってというかその回ごとにJとのケミの色合いが変わるんですよね・・。

この回で印象的だったのは、過去のJと現在のSの視線が交わるシーンが多かったこと。

過去と現在が交錯しその境界が曖昧で、そのテイストがなんとも切なく苦しかったです・・。

 

 

ジチョルJの特徴の一つとして、ピアノ演奏の技量の高さが挙げられるかと思います。

演奏の力量と作曲の才能は別のものだとは思いますが、舞台上の表現としてはどうしても演奏力の高い方が音楽的才能も高いように感じてしまうのは致し方のないところでしょう。

誤解を恐れずに申し上げると、ジチョルJとジュニョンSでは明らかにピアノ演奏の技量に差があるので、私の感覚としてはSよりもJの方に音楽的才能を感じてしまうわけです。

 

 

しかし、それでも物語に齟齬が生じないのは「そこに存在しているJ」が「SがJの日記を読んで思い起こすJの姿」なのだというイメージが強く押し出されていたからではないかと感じました。

ジュニョンSは、心から自分よりもジチョルJの方に才能があると思っているわけですから。

現在と過去が交錯し、日記から浮かび上がるJがまざまざとSと交感するさま・・。

ジチョルJからはジュニョンSへの深い想いが感じられ(ジュニョンSはいつもJへの愛に満ちていますがw)相思相愛感が強いので、より一層悲劇的。

残酷で切なくて哀しい舞台でした・・。

 

 

ここからは思い出せる限り、印象に残ったシーンについて語っていきたいと思います。

 

 

<M2.死の瞳>

 

序盤にシアンKから「君には余裕というものがない」と言われたジチョルJ。

「余裕・・」「余裕・・」と、何度か自分に言い聞かせるようにつぶやいていました。

Jが本当に「余裕」さえ持てていたならば・・。

そう考えると、やりきれなさが募りました。

 

 

作曲作業中にSから電話がかかってきて、「これを聞いたら連絡してくれ」というメッセージを聞いた時のジチョルJの反応。

台本どおりなら「もう君に連絡することなどない」という台詞が入るのですが、ジチョルJはこの台詞を言いません。

これはお友達から聞いて知っていたので、改めて「やっぱりジチョルJは言わないんだ・・」と確かめたという感じ。

台本にないのに新しく挿入された台詞は気づきやすいですが、「言わなかった台詞」というのはわかりにくいので、教えて頂いていて良かったです。

 

 

<M5.僕の元にやってきた音楽>

 

BeKlemmtについて、JからSに電話をかけるシーン。

「君が望みさえすればまた戻れるさ」というSの台詞の後、通常ならJの「いや、もうそんな日は来ない」という台詞が入りますが、この台詞もジチョルJは言いません。

Sのその台詞に対しては無言を貫き、BeKlemmtの本題に入っていきます。

ここも教えて頂いていたところ。

ジチョルJは戻りたいんですよね、戻ろうとしているんですよね、Sの元に!

 

 

電話での会話シーンの終盤。

ジュニョンSは「どんな対価もなしには何も得られないから」と言った後、下手に向かって歩いていきます。

ここで過去の時制から現在の時制に戻っていったと思うのですが、途中まで行ったところでふと足を止め、もう一度「どんな対価もなしに」と言いながら振り向くんですよね。

そして、しばしの<間>・・。

ジュニョンSは自分の発した言葉がJに及ぼした影響に気づき、はっと顔をこわばらせるんです。

 

 

一方、ジチョルJは解決策を見つけた喜びに顔を綻ばせます。

そして笑顔でジュニョンSに「ありがとう」と言うんですよ~・・。

この時、ジチョルJはしっかりとジュニョンSを見つめていて、二人の視線は確かに交わっていました。

息が詰まるような残酷な対比。

ピアノの所まで戻ったジュニョンSが、Jの日記から該当箇所を探そうと必死に頁を繰る姿が、見ていてとても切なかったです・・。

 

 

<M6. BeKlemmt>

 

ジチョルJは、死体を運んできた時まず自分が部屋に入って「教授に~む」と呼び掛け、Kがいないことを確かめてから死体を運び入れていました。

とても冷静です。

凶行に至るまでの心情に狂気がみられず、冷静に「対価から得られるもの」を手に入れようとしているように見えました。

 

 

<M8.名前のない人>

 

ジチョルJは自分の手の甲にペンを突き立てた後、「何も聞こえない、何も」と言いながらしっかりとジュニョンSの方を向きました。

そして視線を合わせてから、ペンを投げ捨てドアから飛び出していったんです。

ジュニョンSは反射的にJを追いかけました。

「ちょっと待ってくれ!」と言いながら・・。

この場面も衝撃的でした。

心臓をぎゅっと掴まれるような感覚。

過去と現在が交錯するこの感じ、とても切なく感じられました・・。

 

 

<M10.Murder>

 

箱詰めのバラバラ死体に話しかける時、ジチョルJは狂気の様相は見せず、涙を流しながら真摯に謝罪していました。

そして第3楽章の楽譜に口づけをして、箱の中に一緒に納めました。

第2楽章の時にも同じように楽譜に口づけをして、遺体袋に入れていました。

あくまでも正気は保ったままあえて地獄に踏み込み、その対価としてソナタを完成させるのだという切望だけが浮かび上がってくる・・。

そんなイメージだったように思います。

 

 

それでも地獄の中にいるが故の憔悴で、冷静な判断力は失われていき・・。

第4楽章を書くことが出来ず、さらなるインスピレーションを求めるかのようにナイフでシアンKに襲いかかります。

かなり激しい二人の攻防だったけれど、最後はKが優勢に。

K「私を殺したからといって、インスピレーションが生まれるのか?」

J「わからない」

K「わからないのにむやみにしたらダメだろう」

こんな会話シーンがあったのですが、会場からは少し笑い声も漏れていました。

 

 

私自身は、Kの発言はJを落ち着かせるためのもっともな発言だと感じたし、特に面白いとは思わなかったのですが、こうして改めて振り返るとそこはかとない面白さがありますねww

思わず笑ってしまった観客の方々の心情も十分理解できますww

 

 

<M11.心の火>

 

「僕の音楽になる人」と歌い終わるやいなや、ボロボロと涙を流すジチョルJ。

すでにジュニョンSのことを思い浮かべて、感情が堰を切ってあふれ出して止まらないといった印象でした。

涙を自分の手で拭ってSからの電話に出るけれど、涙止まらず・・。

「ちょっと会えるかな。僕も話したいことがあるんだ」と言う間にも、ずっと泣き続けていて・・。

電話を切った後、シアンKがジチョルJの顔を両手で包んでから左手の親指ですーっと涙を拭ってあげていたのが、とても印象的でした。

 

 

<作業室での再会シーン>

 

作業室に入ってきたジュニョンSは、くんくんと匂いを気にする仕草をします。

異様な空間や異臭に気を取られているんでしょうね・・。

いつもやる「やあ」っていう感じに手を上げる挨拶は、タイミングが遅くてジチョルJの視界には入っていなかったです。切ない・・。

 

 

S「今までこんな風にすごしてきたのか?」

J「ああ。何で?」

S「何でってなんだよ・・」

このあたりの会話は、本当にただの普通の友達同士の会話のよう。

以前の近しい関係性がうかがえるような、気さくな雰囲気がかえって切なかったです・・。

 

 

ジュニョンSが机に両手をつき身を乗り出すようにして「帰ろう」と声をかけると、それに対してジチョルJは「もう帰ることもできないんだ」と返しました。

そして、その言葉を口にした瞬間、涙がポロポロと零れ落ちたんです。

ここ、めっちゃ切なかったです~!!

帰りたかったのに、もう帰れない所まで来てしまったんですよね・・。

切ないっ!!

 

 

ジュニョンSは、明らかに様子のおかしいJに動揺し気を取られているのか、会話を続けていてもどこか上の空。

Jの変貌の原因を探すかのように、落ち着きなくあちこちを見まわします。

そして、ちょうど<黒鍵のエチュード>のエピソードを話している時、ジチョルJの手背の傷に気づくんです。

この時のジュニョンSの動揺ぶりが切なかった!

会話の途中、「さあ、10年も(傷を発見)・・・・・・・・・(絶句)」と、突然言葉を失い硬直してしまっていました。

顔を背けて気持ちを落ち着かせて動揺を隠そうとするけれど、まったく隠せていないのが痛々しすぎました・・。

 

 

<M12.色あせないように>

 

ジュニョンSが「色あせないように」のメロディを弾き始めると、嗚咽混じりに激しく泣き出すジチョルJ。

机に手をつきうずくまるようにして泣き続けました。

あまりにJが泣くので、なんとかJの気持ちを解きほぐそうとジュニョンSはわざとふざけたような態度を取ったりするけれど、空回りしている様子がなんとも切なかったです・・。

 

 

連弾では、ジチョルJは最後まで曲を弾き切りました。

でも最後の1音を奏でた時、現実に戻ってしまって涙を流すんですよね。

ジュニョンSは満足そうに「良いね(ちょった)」と言おうとして、「ちょっ」まで言いかけてJの様子に気づきます。

最後まで言えなかった言葉が空しく消えていくようで切なすぎました!

途方に暮れたように「君、どうしたんだよ」と声をかけますが、ジチョルJは机のところまで戻って、両手で顔を覆って泣き続けるばかり・・。

ジュニョンSも泣きそうになりながら「どうしたんだよ~うん?」としか言えない・・。

重苦しい空気があまりにもつらかったです。

 

 

なんとか言葉を紡ぎ出すジチョルJ。

グロリア・アルティスについて言及する時、ジチョルJは「なぜ言わなかった」ではなく「なぜそうしたのか」と訊いていました。

ここからの会話シーンでは徐々にジュニョンSも感情的になり、大声で叫ぶこともしばしば。

「本心だったよ!君、わからないのか?全部本心だったよ!」とか

「そんなことじゃないってわかるだろ?どうしちゃったんだよ、いったい!」とか・・。

 

 

そんな感情のぶつけ合いのような対話の中でも、ジチョルJとジュニョンSの関係性を端的に表していると感じられた台詞もありました。

それは、「才能」についての二人の会話の部分です。

ジュニョンSの「君には才能があるよ」という言葉に対し、ジチョルJは「何の才能?君の曲を受け取って書き起こす才能?」と返しました。

この初めて聞いた「受け取って」という言葉が、とても印象的でした。

盗んだのでも、ただ書き取ったのでもなく、ジチョルJはジュニョンSからいつも曲を「受け取って」いた・・。

その言葉は、ジチョルJとジュニョンSの関係性を象徴しているように感じられました。

 

 

<M13.君の存在>

 

「君はいつも余裕があって 僕はいつも不安だった」の所から、ジチョルJは正面からジュニョンSと向き合い、その両手首のあたりを掴みました。

そこから「地獄の扉を自ら造ったんだ」にかけて、Sにすがりつくようにずるずると崩れ落ち、ついに床に膝をついてしまいました。

そして、Sのカーディガンの袖のあたりを握りしめ、顔を大腿のあたりに押し付けて泣くんです・・。

 

 

ジュニョンSはしゃがみこんで膝をつき、そんなジチョルJを抱きしめました。

「それは、そんなことじゃないよ・・そんなことじゃない・・違うんだ・・お?」

抱きしめたまま、震える声で絞り出すようにそう言ってJの背中をさするジュニョンS。

耐え切れずにSも泣き始め、「わかったよ・・僕が全部悪かった・・だから・・・行こう」とJに語りかけるのですが、「僕が悪かった」のあたりからSの胸の中でJは首を横に振り始め、顔を上げると「行けよ・・君はもう僕のインスピレーションにはなれない」と目を合わせて静かな口調でそう言いました。

立ち上がってドアを開け、戻って椅子に座り、それでも動こうとしないジュニョンSに対してもう一度静かに「行けよ・・」と・・。

 

 

冷静な判断力を取り戻したJは、本気でSを帰そうとしていたのに・・。

Sの言葉を聞いて、衝動的にSを刺してしまうJ。

凶行の間中ジチョルJはずっと泣いていて、差し伸ばされたSの手がぱたりと落ちた後、Sの身体にすがるようにして泣き、その後、身の置き所がないように身をよじりながら泣き続ける姿がなんともやるせなかったです・・。

 

 

<M14.君は僕の音楽>

 

「君と僕」の演奏シーン。

今回は、椅子ではなく机に座って演奏を聴いていたジュニョンS。

「これ、僕が口ずさんでたの?どんな風に完成させるのか期待してるよ」と言いながらJに歩み寄り、ひそひそ話する時のように手背を口元に当てて「完成したら僕から(最初に)聞かせてくれよ」とささやき声でJに言いました。

それに対して、ジチョルJも同じように口元に手を当て、笑いながら「わかったよ」とささやき返しました。

さらにまたSが口元に手を当て「行くね」とささやいて・・。

親友同士な雰囲気が、とても温かくそして切なかったです。

 

 

このやり取りからは、この時点ではジチョルJはジュニョンSの口ずさんでいた曲を受け取って曲を仕上げることに疑問を抱いてはいないように感じられました。

これが二人の作曲スタイルだったんですよね・・。

だから、ジチョルJは部屋を出て行ったジュニョンSを楽譜を持って追いかけるけれども、それは楽譜を返そうとして追いかけたのではなく、幻想から現実に引き戻されたJがこの世から歩み去るSに対しての喪失感に耐えかねて、思わず追いかけてしまったように私には思えました。

 

 

そこからの歌唱は絶唱に近く、思いのたけをぶつける悲痛な叫びのような歌唱でした。

失ってしまったSへの狂おしいほどの追慕。

そして最後は、「僕の音楽」ではなく「君の音楽」という歌詞で締めくくっていました。

ここも、Sから曲を「受け取っていた」ジチョルJらしいな~と感じた部分です。

 

 

<M15.血で書いたソナタ>

 

シアンKが「君の命を捧げてでもこのソナタを完成させろ」と歌った時、はっと何かに気づいたようなそぶりを見せるジチョルJ。

笑いながら虚空を見つめていたかと思うと、「ありがとうございます。先生、ありがとうございます」とKに感謝の言葉を述べました。

これには少しびっくり。

「命を捧げる」という方法を教えてくれたKに対して、きちんと礼をつくしたんでしょうね・・。

ジチョルJはシアンKに対して、純粋に師として尊敬している態度を最後まで崩しませんでした。

JとKの強い師弟関係も感じられた回だったように思います。

 

 

<M16.狂炎ソナタ>

 

「最後の曲を完成させなければ。モルモランド、レリジオーソ・・」と言った後、ジチョルJはジュニョンSの方を振り向き、絶叫に近い大声で「Amoroso!」と叫びました。

ここはほとんどどの組合せで見ても過去のJと現在のSの視線が交わるシーンかと思いますが、今回はそこに至るまでの積み重ねがあるのでより一層切なく感じられました。

哀しい目をして首を横に振るジュニョンSの姿が忘れられません・・。

 

 

下手の椅子に駆け上がり、右足をだんっと机の上に乗せたジチョルJ。

「この対旋律は僕の犠牲を求め」で楽譜の束を上方に投げ上げたのですが、はらはらと舞い落ちる楽譜の1枚が奇跡的にさし伸ばしたJの右手の手背の上にはらりと乗ったんです。

その楽譜を凝視したまま歌い続け、「黒いインクが次の小節を求めて」で水平に薙ぎ払うように右腕を旋回させ、楽譜を吹き飛ばしました。

かすかに残った生命の灯も自らの意思で振り払い、音楽と一体となるようなイメージ。

忘れられないシーンとなりました・・。

 

 

その後のジュニョンSとシアンKの会話シーン。

SがナイフをKに突きつけた時、シアンKはニヤリと笑いながら「なんだ、お前もあいつのようにインスピレーションが必要なのか?」と言ったんです。

ぞっとしました・・。

この人が一番ヤバイ奴なのは、間違いないですね!

 

 

Kを送り出した後、ドアの前に座り込むジュニョンS。

天を見上げて涙ながらに「やー、これで満足か?・・それならいいよ・・」と語りかけました。

この部分、今期から台詞が変わったと聞き及んでいますが、切ないですよね・・。

 

 

<M17.死の顔rep>

 

Sが歌っている時に、楽譜を2つ手に持って入ってくるジチョルJ。

立ったまま、後ろ手に楽譜を持ってSを見守っていました。

ジュニョンSはJを見つけると、顔をくしゃっと歪めて泣きました。

泣きながらJの元に歩み寄り、向かい合う二人。

ジチョルJは「じゃじゃーん」という感じで背後に隠していた楽譜を1つずつ左右の手に持って掲げてみせました。

ジュニョンSは向かいあったその状態のまま左右の手で1つずつ楽譜を受け取り、笑いながら「じゃじゃーん」という感じに掲げて暗転。

 

 

この時、珍しく会場から拍手がおきました。

両手に掲げた2つの楽譜が「君」と「僕」のように感じられ、なんだかジーンとしてしまうようなラストだったんですよね。

思わず拍手したくなった気持ち、十分すぎるほど理解できました。

 

 

一瞬たりとも気が抜けないような、緊張感の高い舞台。

素晴らしい公演を観ることが出来て幸せでした。

今期の「狂炎ソナタ」はこの回で見納めですが、悔いはありません!

4公演を観劇しましたが、それぞれが独自の色彩を放っていて、改めて「狂炎ソナタ」の魅力に酔いしれました。

大満足です!!!!