日々進化し続ける舞台。
「太陽を抱く月」はそういうミュージカルなのではないかと思います。
前回観た時よりも、さらにエモーショナルな舞台になっていました。


いっぱい笑った後に、ヨヌで泣き、フォンで泣き、ソルで泣き、陽明君で泣き・・。
一幕途中からは、ず~っとウルウルしてました。
左隣の中国の方も同じ状態だったので(泣き所が一緒でした!)、私だけが感情過多だったわけではないと思います。
本当に素晴らしい舞台でした。


まずはギュフォン!
世子時代は、本当にのびのびと演じていて、余裕も出てきたのかアドリブも満載。
「恋書」でヨヌが歌っている間、ヨヌからの文をチャ内官と一緒になって読んで笑い合うシーン。
途中で「あっ、逆さまだった!」と持っていた文をひっくり返す小芝居を入れてきて、思わず笑っちゃいました。
少しだけ「それ、必要か?」と内心でツッコミ入れてしまいましたが・・。


「それ、必要か?」と言えば、「そう、愛である」の出だし、「しんぴろうん ひゃんぎ~(神秘な香り)♪」の所。
今までは右手を顔の近くに持ってきて香りをかぐような仕草だけだったのに、その仕草の後、ヨロヨロとよろめく小芝居までしてました。


こんな風に前半のノリノリ演技は、少し過剰かな?と、その時は感じたのですが・・。
一幕後半から二幕にかけての哀しみや嘆きの演技も、より深みを増していたんですよね。
だから全体としてみた時、前回よりも「楽しいシーンはより楽しく、哀しいシーンはより哀しい」舞台になっていました。
そのコントラストにより、後半の悲劇がより一層強調される効果を生み出していたのではないかと思います。


「そう、愛である」では他にもアドリブが二つ。
間奏の時にヨヌの手を取って舞台後方へ二人で歩いていくシーン。
いつもは「散歩に行こう。散歩が好きなんだ」的なことを言っているのですが・・。
この日は「世子嬪、そうぉぬまれば(願いを言ってみて)」と言ってました。
少女時代を意識したアドリブに、会場も大ウケでした。


指輪をはめるシーンでは、よく手品でやってるように、腕を伸ばして相手の耳の後ろから指輪を取り出すというパフォーマンスを!
会場も「おお~っ!」と、どよめいてましたよ~。


一幕ラストの「門が閉じる」。
後半に舞台後方から「世子ちょは~」と呼ぶヨヌの声が聞こえてくるのですが、ソヒョンのこの時の声が儚げで切なげで・・。
その声に気づいて、一縷の希望にすがりつくようにふらふらと辺りを見回してヨヌを探すギュフォンの演技。
途方に暮れた子供のようなよるべなさに、胸が痛くなりました・・。


最後に「ヨヌや~っ!!」と叫ぶシーン。
1回だけでなく、3回呼ぶように変わっていました。
1回目は膝から崩れ落ち、つぶやくように「ヨヌや・・」と。
2回目は哀しみに打ちのめされたかのように茫然と「ヨヌや・・」と。
3回目は手を前に伸ばし「ヨヌや~っ!!」と叫びながらも後ろにへたりこんで・・。
泣きました、ええ。
どこか幼さの面影を残す世子の衝撃の大きさ、喪失の深さが胸にぐぐっと迫ってきました。
迫真の演技だったと思います・・。


二幕のハイライトナンバー「悪夢」。
情感のこもった歌、素晴らしかったです。
所作に関しては、相変わらずドタドタと走っているし、「ねあっぺのる」の所では胸をバンバン手で叩いたりして、私の求める「様式美」とはちょっと違う方向に行ってしまいましたが・・。
激しい動きで、感情がほとばしる感じは増していたように思います。


最後の「ヨヌや~↑↑♪」のところ。
前回は舞台下手を向いて横向きで歌っていましたが、今回は正面を向いて歌っていました。
なのでラストの表情がよく見えましたが、悲愴感にあふれ、その中にも哀愁や焦燥を漂わせていて胸が詰まりました。


その後の、布団に倒れ込んで寝るシーン。
前回とは違った演技になっていましたね・・。
前回は、夢遊病者が力尽きてゴロン!と「寝転がる」という感じだったんですが・・。
今回は、まず膝をついてうなだれ、それからくずおれるように横になってました。
ただそれだけの事なんですが、悪夢に苛まれ悔恨と喪失に傷ついていることがすごく伝わってきました。
だからこそ、厄除けの巫女を必要としたんだという説明にもなっていたと思います。


キュヒョンは表情の演技が、すごく上手だと思うんですよね。
「悪夢」のラストも良かったですが、陽明君が絶命して「真の太陽を抱く月が昇る♪」という合唱の中、舞台中央前方に進み出て天を見上げるシーン。
威厳と哀しみと決意をたたえた表情には息を呑みました。


今後への期待を述べさせてもらえるのなら、あとは所作をもう少しなんとかしてくれたら・・。
表情だけではなく身体全体を使って感情を表現してくれたら、もっともっと素晴らしい演技になると思います。
そしてそれが美しい所作ならば、なお素晴らしいと思いますっ!!


歌については、もう何も言うことはありません。
キュヒョンの素晴らしい歌をたっぷり堪能できる「太陽を抱く月」という舞台。
この舞台を観ることができて、本当に幸せでした・・。


次はソヒョンちゃん!
その演技力の高さにびっくりしました
。こんなに凄いとは思っていませんでしたよ~。
8年前のヨヌ時代は本当に初々しく可愛らしくて、8年後のウォル時代は儚げで庇護欲をかきたてられるんですよね~。
誰もが守ってあげたくなるようなヨヌなんです!


チョン・ジェウンさんのヨヌは、芯の強いしっかり者で、フォンとは過酷な運命に共に立ち向かう同志のような雰囲気のヨヌ。
リナさんのヨヌは、しっとりと落ち着いた情感あふれるヨヌ。
お二人のヨヌも大好きなんですが、ソヒョンの可愛らしく儚げなヨヌもすっごく良かったです!


フォンを自室にかくまってあげるシーン。
部屋の外から「世子ちょは!」と呼ぶ声がして、おそるおそる上衣をめくってフォンを覗き込み「せじゃ・ちょ・・は・・?」と言った時の可愛さといったら!
フォンが出て行った後、座りこんで「私のバカバカ!」って感じで頭をこぶしで叩いている姿もめちゃめちゃ可愛かったです。


「恋書」の最後に向かい合って見つめ合うシーン。
リナさんは穏やかに微笑むんですが、ソヒョンは嬉しくて嬉しくてたまらないという感じで明るく笑うんです。
リナさんの静かに愛を育む感じもとても好きでしたが、ソヒョンの恋のときめきが煌めきを放つような感じが、とてもキュートで。
もうなんというか、ひたすらに可愛かったです!!


そして、ソヒョンは哀切とか痛切とかの演技がとっても上手なんですよね。
兄ヨムに抱かれて息をひきとるシーン。
・・・泣いてしまいました・・・。


「おらぼに しんじゃんいすご・・(兄上の心の内が苦く、兄上の涙が辛い)♪」のところ。
すべてを悟って、周囲を思いやりいたわって、それでもやはり苦しくて大好きな兄にすがって・・。
息も絶え絶えな感じが、本当に上手で泣けました・・。


ソヒョンの演技力の高さを感じたもう一つのシーンは、牢に囚われているシーンです。
「ヨヌや!」と駆け寄る陽明君に「私はその名を持つものではありません」と答えるのですが、その様子が本当に弱々しく痛々しいんです。


ミュージカルでは描かれていませんが、ドラマでは(投獄の理由は違いますが)牢にいる間、手酷い拷問を受けているんですよね・・。
その事が瞬時に脳内補完されて、傷だらけでボロボロのウォルの姿が見える気がしました。


今にも息絶えそうなウォルの姿があるからこそ、救出に向かわずにはいられなかった陽明君の行動に説得力が生まれたと感じましたよ・・。
「お前がヨヌでもウォルでもかまわない。一緒に逃げよう。ここにいたら死んでしまう」という陽明君の台詞の切実さも際立っていたと思います。
そして、そんな瀕死の状態でありながらも陽明君の申し出に首肯せず「すでに私の心にはただひとつの太陽だけ」と歌うウォルの一途さ・・。
陽明君の、ウォルの、交わらない真っ直ぐな想いが切なくも胸を打ちました・・。


また、ソヒョンの演技は、細かいところまで行き届いているんですよね。
フォンがウォルを抱きしめるシーン。
「幸せに触れる」の、記憶が戻る前のウォルの時は、抱きしめられている時、下に伸ばした左手で衣裳を皺ができるほど強く握りしめているんです。
記憶が戻ってから歩み寄って抱きしめられた時は、シルエット的にはほぼ同じなのに、左手はゆるく下げられたままで、フォンに身を委ねているのが伝わってきました。


背中に腕を回すこともなく、ただ抱きしめられているだけの演技なのに、その違いを表現する力には舌を巻きました。
ソヒョンの演技を見ていて感じたのは、表現力だけでなく、それを裏付けるシナリオを分析する力が秀でているのではないかということです。
ソヒョンの演技で、改めて気づかされた事がたくさんありましたよ~。すごいっ!!


歌に関しては・・・。
歌自体はとても上手なんですが、ブレス音と声量の問題がね・・・。
特にブレス音は、声量を補うためなのか、かなり目立ってしまっていたのが残念でした・・。
この問題をクリアして、経験を積んでいったら、素晴らしいミュージカル女優さんになるのではないでしょうか。
初挑戦のミュージカルでこれだけの舞台をみせてくれたこと、本当に凄いと思いましたよ~。


最後にチョ・フィさん!
もう、大ファンになりました。メロメロです。
元々演技も歌もとっても上手な方ですが、公演を重ねて、さらに陽明君という役に一体化してきたように感じました。
アドリブも次々に繰り出されて、とっても楽しかったです。


ヨヌの家から王宮に帰った後、フォンからヨヌの事を聞かれてとまどうシーン。
ギュフォンはからかうように陽明君の胸を指でツンツンと突っつくんですよね。
でもこの回では、ハシっと掌でその攻撃(?)を防御していて、笑っちゃいました。


この日の公演、陽明君のヨヌへの一途な想いがあふれまくっていたんですよね・・。
その切なさに一幕からもうウルウルでした・・。


「恋書」のナンバーで、葛藤の末にヨヌに世子の文を手渡すところ。
ヨヌは文を受け取ると、大喜びで文を胸に抱いて、陽明君に背を向けて舞台下手の方に去って行ってしまいます。
すると、陽明君はその背中をじっと見つめたまま、文を渡した腕を下ろすこともできないまま固まっているんですよ・・。
くく~っ!せつないっ!


そして、フォンとヨヌが歌う間に舞台後方へ下がり「この世にはあの人だけ。知る由もないだろう。君を胸に抱く私の心を」と歌うのですが、ポジャギが上下左右から閉じていく中、閉まりきる直前にヨヌの方へ向かって数歩歩み出て手を伸ばすんですよ~!
くく~っ!せつないっ!


そしてそんな兄の心を露とも知らぬフォンが、無邪気に鳳凰の簪をヨヌに渡してくれと陽明君に頼むシーン。
内官たちが「心を寄せるな、捨てろ♪」と合唱する中、簪の入った袋を握りしめてヨロヨロと悩みさまよう姿!
そして決意を固めた時の、今にも泣きだしそうな顔!
その表情の後、くるりと背を向けて舞台上手後方で旅装束に早着替えをするんですよね・・。
もう、ここでウルウルでした・・。


ヨヌの行く末を案じ、愛する弟を裏切る決意までして「一緒に逃げよう」と告げたのに。
ヨヌには「私の心には一つの太陽♪」と断られてしまって・・。
この時のナンバー「分かち合った愛は万里」。
感情がすごく入っていて、素晴らしかったです・・・。


そして、クライマックスのユン・デヒョンに斬られるシーン。
フォンを庇って、というのは勿論そうなんですが、明らかに自分の命を投げ出しているんですよね。
愛するヨヌと愛するフォンのためには、自分が生きているのは望ましくない・・。
そう考えて、わが身を犠牲にして二人の幸せを守っているんですよね。ううう・・。


この日の公演、陽明君は倒れる直前に「ヨヌや!」と叫びました。
今までの公演にはなかったこのアドリブで、涙腺決壊・・・。
ウンに抱かれ息絶える前には、フォンの頬に触れようと必死に腕を伸ばすんです。
でも、触れることはかなわず力つきてしまう・・。
うっわ~ん!!ウンの雄叫びと同時に涙、涙でした。
ヨヌへの愛、フォンへの愛、複雑な想いをすべて乗り越えての無償の愛が、本当に切なかったです・・・・・・・。


国巫チャン氏役のチェ・ヒョンソンさんや、ソル役のキム・スヨンさんも、それはそれは素晴らしかったですが、あまりに長くなったので語るのはやめておきますね。
とにかく、笑いも涙も前回を数段上回る、非常に心を揺さぶられた情動的な素晴らしい舞台でした♪